淋病(読み)リンビョウ(その他表記)gonorrhea

翻訳|gonorrhea

デジタル大辞泉 「淋病」の意味・読み・例文・類語

りん‐びょう〔‐ビヤウ〕【×淋病/×痳病】

淋菌の感染による性病。性行為のほか菌の付着した手やタオルからも感染する。2~7日の潜伏期ののち、男性では尿道炎、女性では膣炎ちつえんとして発症し、激しい排尿痛や灼熱感があり、うみが出たりする。前立腺炎卵管炎などを併発することもある。淋疾。トリッペル

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精選版 日本国語大辞典 「淋病」の意味・読み・例文・類語

りん‐びょう‥ビャウ【淋病・痳病】

  1. 〘 名詞 〙 淋菌を持った者との性交による感染で発病する代表的性病。尿道、子宮、眼球などの粘膜がおかされる。しばゆばり。トリッペル。淋疾。
    1. [初出の実例]「淋病 リンびゃう」(出典:撮壌集(1454))

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改訂新版 世界大百科事典 「淋病」の意味・わかりやすい解説

淋病 (りんびょう)
gonorrhea

淋菌の感染によって起こる性病の一種で,医学的には淋疾という。古くは淋毒あるいは消渇(しようかち),屢尿(しばゆばり)とも呼ばれた。中国,インド,ヘブライ,ローマ,アラビアの古い書物にいろいろと記載されているが,そのころは,その他の性病とはっきり区別されていたわけではなかった。16世紀ころになっても淋病と梅毒は同一の毒によって起こるのではないかという論争が続いていたが,19世紀末ドイツのナイサーAlbert L.Neisser(1855-1916)によって淋菌が発見され,これに終止符が打たれた。日本にも古くから存在したらしく,梅毒が16世紀初めインド,中国,朝鮮を経由して侵入する以前からあったとされている。

 本症は性交によって性器から性器へ直接感染し,これが周囲の器官に波及するのが原則である。しかし性器外の接触によって淋菌性直腸炎や淋菌性口腔炎が最初に起こることもある。また新生児が母親の産道を通るときに眼に感染することもある(新生児膿漏眼)。そのほかに器物や衣服を介して感染することもあるといわれているが,きわめてまれである。

男子では感染後3~5日の潜伏期を経て,急性淋菌性尿道炎を起こす。発病は尿道の搔痒(そうよう)感で始まる。数日で外尿道口の発赤や腫張,排尿時の疼痛,あるいは頻尿などが起こる。尿道からは濃い黄色の膿汁分泌が続く。そのまま放置しておくと普通はこの状態が2~3週間続き,その後は徐々に軽快して6~7週間で治癒する。しかし3ヵ月以上も治癒せず,膿汁や淋菌の排出が続くものを慢性淋菌性尿道炎と呼ぶ。慢性化すると軽度なものは無症状のこともあるが,排尿時の不快感や会陰部の重圧感が続く。最近は化学療法が早期に行われるので,慢性化や合併症あるいは後遺症を起こすことはほとんどなくなった。治療が不十分な場合は,炎症は尿道から前立腺,精囊,膀胱に波及し,高度の排尿痛,排尿困難,下腹部痛,会陰部痛などが起こる。感染が尿道から精管を通って副睾丸に及ぶと,睾丸の腫張と疼痛が起こる。このような性器の合併症以外に,かつては淋菌性敗血症,淋菌性心内膜炎,淋菌性関節炎,淋菌性結膜炎淋菌性膿漏眼。俗に風眼ともいう)などを合併することもあったが,最近はほとんどみられない。後遺症として慢性淋菌性尿道炎罹患後数年して尿道狭窄を起こすことが少なくなく,このため尿が出にくくなることがまれではなかった。また副睾丸や睾丸の炎症後に不妊症を起こすこともあったが,いずれも最近ではあまりみられない。

女子では大部分がまず急性淋菌性子宮頸管炎で始まる。この時期では自覚症状があまりないことが多く,おりものの増加程度で見過ごされることが少なくない。しかし,たとえ自覚症状がなくても感染力は強いので,感染源となる危険は大きい。頸管からの分泌物によって淋菌性尿道炎を起こすと,男性の場合と同様に外尿道口の発赤や腫張,膿汁の排出,排尿時の疼痛などが起こる。膿汁が会陰部を経て肛門に達し,淋菌性肛門直腸炎を併発したり,成人ではまれであるが若年者では淋菌性外陰炎や腟炎を起こすことがある。この時期には血便,排便時の疼痛,外陰部の発赤と腫張ならびに疼痛や出血などの激しい症状がみられる。淋菌が頸管からさらに上昇すると,淋菌性子宮内膜炎,卵管炎,卵巣炎骨盤腹膜炎などを起こし,子宮出血や下腹部痛あるいは高熱などがみられ,不妊症などの後遺症を残すことがある。

診断は男子では尿道,女子ではこのほかに子宮頸部や直腸肛門部などからの分泌物を染色して顕微鏡で検査する。淋菌はグラム陰性の双球菌で,乾燥や高温に弱い。顕微鏡下では白血球の中に存在し,対をなしたソラマメのように見える。診断の確定は分泌物の培養検査による。治療にはペニシリンなどの抗生物質が有効である。自覚症状や膿汁は治療によって速やかに消失するが,完全に治癒したと判定するには分泌物中の淋菌が完全に消滅したことを確かめなければならない。淋病にかかるような場合は梅毒にも同時に罹患していることが少なくないので,疑わしい場合は本症が治癒した後に梅毒血清反応を行う。
性病
執筆者:

古病理学の成果によると,古代エジプトのミイラに淋病があったことが知られ,医学文書《エーベルス・パピルス》にも淋病と思われる疾患が記されている。旧約聖書の《レビ記》15章に記されている〈肉の流出〉というのは,淋病をさすともいわれている。古代ギリシアのヒッポクラテスとアレタイオスにも淋病の記載があった。アラビアのイブン・シーナーも淋病を記録している。その後は梅毒と混同され,長く不潔な病気とされ,医者たちは嫌い,いわゆる床屋外科(理髪外科医)が扱っていた。

 日本でも古くから淋病は流行していたと思われ,曲直瀬玄朔(まなせげんさく)の《医学天正記》には淋病にかかった武将たちの記録がある。その後江戸時代をとおして猖獗(しようけつ)し,とくに〈風眼〉といわれる淋菌性膿漏眼が流行し,これで失明するものが多かった。
執筆者:

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家庭医学館 「淋病」の解説

りんびょうりんしつ【淋病(淋疾) Gonorrhea】

◎早期治療がたいせつ
[どんな病気か]
 淋菌(りんきん)が感染しておこる病気で、ほとんどが性交によって感染します。
 男性は淋菌性尿道炎(りんきんせいにょうどうえん)を、女性は淋菌性腟炎(りんきんせいちつえん)や淋菌性頸管炎(りんきんせいけいかんえん)をおこすことが多いのですが、オーラルセックスで口の中の粘膜(ねんまく)に感染し、淋菌性口内炎(りんきんせいこうないえん)になることもありますし、淋菌で汚れたタオルや手指などから目に感染し淋菌性結膜炎(りんきんせいけつまくえん)になることもあります。
 淋菌性腟炎にかかっている母親から生まれた赤ちゃんは、淋菌性結膜炎がおこり、失明の危険があります。
 成人や男性は、風呂(ふろ)やプールで感染することはありませんが、女児は、風呂場のいすや床などにすわったりしたときに感染することがあります。外陰部の粘膜(ねんまく)がおかされ、会陰部(えいんぶ)が赤くただれて下着が汚れるのがその徴候です。
●合併症
 早期に医師の治療を受ければ1~2週間で治りますが、治療の開始がおくれたり、かってな治療を行なっていると、男性は前立腺炎(ぜんりつせんえん)(「急性前立腺炎」)や副睾丸炎(ふくこうがんえん)(「急性副睾丸炎(急性精巣上体炎)」)を、女性は卵管炎(らんかんえん)(「子宮付属器炎(卵管炎/卵巣炎)」)、子宮内膜炎(しきゅうないまくえん)(「子宮内膜炎」)、骨盤腹膜炎(こつばんふくまくえん)(「骨盤腹膜炎」)を併発し、不妊症(ふにんしょう)になることがあります。
 また、男女ともに膀胱炎(ぼうこうえん)、腎盂腎炎(じんうじんえん)のほか、まれに関節炎(「化膿性関節炎」)や心内膜炎(しんないまくえん)(「心内膜炎」)がおこることがあります。
●後遺症
 不妊症のほか、男性は、尿道が狭くなって尿が出にくくなる尿道狭窄(きょうさく)(「尿道狭窄」)がおこることがあります。
[症状]
 男性は、感染後2~5日で尿道炎になり、排尿(はいにょう)の際にやけつくような痛みがおこり、外尿道口が赤くただれて、膿(うみ)が出たりします。女性は、淋菌性腟炎で始まるので、おりものが多くなって下着が汚れたり、陰部がかゆくなったりしますが、本人は病気に気づかないでいることが多いものです。しかし、尿道にも感染が広がると、排尿時に痛みます。
[検査]
 尿道炎や腟炎は、淋病以外の病気でもおこるので、男性は尿道から、女性は腟や子宮頸管から膿(うみ)を採取し、淋菌の有無を調べます。
 尿検査もします。男性は、初めの3分の1の尿と、残りの3分の2の尿とを2つのコップに分けてとります。女性は、カテーテルという細い管を使って医師などが尿を採取するのが原則ですが、自分でコップにとることもあります。
 これらの検査結果と診察の結果を総合して、治療方針が決められます。
[治療]
 抗生物質を内服か注射で用います。ペニシリン系の抗生物質が有効ですが、耐性菌(たいせいきん)が増えているのでセフェム系の薬剤にきりかえることもあります。
 内服の場合は、医師の指示どおりに服用し、飲料を多めに飲みます。
 薬の副作用らしい症状に気づいたときには、すぐに医師に連絡をしてください。
 治癒(ちゆ)の判定は、医師の判断にゆだねることが必要です。
 症状が消えたからといって、かってに通院や薬の服用をやめると再発や慢性化を招きます。合併症がおこり、入院や手術が必要になって、治療が長びくこともあります。
 治療は、自分だけではなく、自分に病気をうつしたと考えられる人、自分が病気をうつした可能性のある人も検査を受け、必要があれば治療することが必要です。
[日常生活の注意]
 完全に治るまで、セックスと飲酒はやめます。熱がなければ入浴してもかまいませんが、使用したタオルや下着は、熱湯消毒します。
[予防]
 コンドームを使用すれば、性器からの感染は防げますが、ペッティングやオーラルセックスで感染することがあります。
 性交後に排尿するとか、性器を洗うなどは、やらないよりはいいという程度で、予防にはなりません。
 セックスの前後に抗生物質を服用するのも、耐性菌を生じたり診断をおくらせる可能性があり、よくありません。

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百科事典マイペディア 「淋病」の意味・わかりやすい解説

淋病【りんびょう】

淋疾とも。淋菌の感染によって起こる性病。主として性交により感染。男性では,初期には急性前部尿道炎により排尿痛や膿漏をみる。炎症が後部尿道に及ぶと症状が強くなり,頻尿(ひんにょう)を呈し,副睾丸(こうがん)炎亀頭包皮炎などの各種生殖器の合併症や,遠隔臓器への転移を起こしやすくなる。慢性化すると症状は軽くなり,尿中に淋糸や膿片を認める程度だが,飲酒,過労などにより急性症状をきたす。女性では尿道炎や子宮頸管(けいかん)炎を起こし,尿道口の発赤・腫脹(しゅちょう),排尿痛,頻尿,膿性帯下(たいげ)などをみる。進行すると子宮内膜炎卵管炎などをきたすほか男性と同様に遠隔臓器へも転移,放置すると慢性症になる。治療は両者ともペニシリンなどの抗生物質投与。
→関連項目関節炎精子銀行伝染病届出伝染病

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「淋病」の意味・わかりやすい解説

淋病
りんびょう

淋疾

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「淋病」の意味・わかりやすい解説

淋病
りんびょう

淋疾」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の淋病の言及

【尿】より

…歩行者は不意に降ってくる尿に不断の注意を払い,男は女を街路の中央よりに歩かせる配慮をするならわしがあり,イギリスの一部では18世紀末まで尿で汚れてもかまわない外套(がいとう)を用いていた。 排尿しなければ生きていけないが,1度に排尿できず頻尿となることがあり,これを平安朝期には淋病(しわゆばり)といった。当時,腎臓や膀胱の疾患のために尿が出にくいことが〈淋〉であり,現代の淋病とは異なる。…

【性病】より

…おもに性交によって人から人へ感染していく病気の総称で,梅毒淋病軟性下疳(なんせいげかん)および鼠径(そけい)リンパ肉芽腫(第四性病)が含まれる。俗に花柳(かりゆう)病などともいわれた。…

※「淋病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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