稲妻(映画)(読み)いなづま

日本大百科全書(ニッポニカ) 「稲妻(映画)」の意味・わかりやすい解説

稲妻(映画)
いなづま

日本映画。1952年(昭和27)、成瀬巳喜男(なるせみきお)監督。原作林芙美子(ふみこ)。バスガイドの清子高峰秀子)は下町に暮らす4人兄弟の末っ子だが、それぞれ父親が違う。現状に嫌悪感を抱く清子は家を出て、山手の住宅街で下宿生活を始める。作品内の人物間の摩擦は、悪意というよりは利己心によって生まれたものであり、こうした摩擦を成瀬は日常性に即した視点できめ細かく描いている。またときおり登場する猫や下町の描写は、作品に豊かな情感を与えている。物語を通して主人公たちの家族の状況は好転するわけではなく、問題は残されたままであるが、それはむしろ安易な甘さを排しているといえよう。だからこそラストで清子と母(浦辺粂子(うらべくめこ)、1902―1989)とが互い真情を吐露して和解する場面は一つの浄化であり、作品にささやかな救いを与えている。

[石塚洋史]

『『世界の映画作家31 日本映画史』(1976・キネマ旬報社)』『『映画史上ベスト200シリーズ 日本映画200』(1982・キネマ旬報社)』『佐藤忠男著『日本映画史2』増補版(2006・岩波書店)』『猪俣勝人・田山力哉著『日本映画作家全史 上』(社会思想社・現代教養文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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