中国,唐代の羈縻(きび)支配による属地経略の最高機関。周辺諸民族の討滅や帰順で,唐の支配は,東は朝鮮半島から西は中央アジアに,北はシベリア南辺から南はインドシナ半島におよんだ。唐はこの広大な地域を統治するために,部族ごとに都督府を,その下に州を置いた。それらの長官である都督,刺史には各部族の長をそのまま任命し,それら全体を統括する機関として都護府を置いた。その長官都護は中央から派遣されて軍政・民政を兼掌した。唐朝の官爵を与え,朝貢など一定の義務は課すものの,諸民族固有の政治・社会体制にはほとんど干渉しないこのゆるやかな統治方式が,羈縻支配と呼ばれるものである。羈縻とは牛馬などを綱でつなぎとめることを意味する。都護府は,表に示した安西,北庭,安北,単于(ぜんう),安東,安南の六都護府がもっとも名高い。しかし,周辺諸民族の羈縻支配からの離脱と自立化が唐中期には顕著となり,しばしば都護府は侵入を被り,後退せざるをえなくなり,これら六都護府がそろって唐の広域な外境を支えたことは一度もなかった。
各都護府には鎮・戍(じゆ)と呼ばれる国境軍団があって,主として府兵が配備されていたが,戦死や逃亡による府兵の激減,さらに周辺諸民族の自立化による活発な活動で,膨大な国境常備軍団の必要に迫られ,しだいに募兵制への転換を余儀なくされた。そして都護府の軍事力を支えた鎮戍制に代わって,募兵による軍・鎮と呼ばれる常駐部隊が配備されるようになる。これら軍・鎮を統括する総司令官として,新たに設けられたのが節度使である。都護府は名目的にその後もしばらく残りはするが,実質的には節度使がその任務遂行の主役となる。つまり唐中期の羈縻支配体制の破綻によって,大唐帝国の版図が急速に縮小するのと平行して都護府も後退し,本来の職務も節度使という新設の〈令外の官〉(使職)によってとって代わられていくのである。
執筆者:愛宕 元
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中国、唐代に置かれた辺境統治機関。その起源は前漢にあり、宣帝は紀元前60年、天山南路・北路が漢の支配下に入ったとき、騎都尉(きとし)の加官として西域(せいいき)都護を置き、いわゆる西域三十六国を統轄させた。後漢(ごかん)では班超らが西域都護に任ぜられた。晋(しん)・宋(そう)以後も辺境に都護の官が置かれたというが、詳細は不明である。唐代では四方の辺境に本官として都護府が設置され、唐に帰服した周辺諸民族の故地に置かれた都督府と州県とを統轄し、また諸民族の動向の監視にあたった。おもな都護府には安東、安西、安南、安北、単于(ぜんう)、北庭の各都護府があり、これらを六都護府と総称する。『通典(つてん)』に、これらが高宗の永徽(えいき)年間(650~655)以降に設置されたと記されているのは不正確で、安西都護府はもっとも早く640年に設置され、安北都護府の前身の燕然(えんぜん)都護府も647年に置かれた。ほかに濛池(もうち)、崑陵(こんりょう)、保寧(ほねい)などの都護府があったが、いずれも土着の部酋(ぶしゅう)を長官の都護に任じ、その性格はむしろ羈縻(きび)州に近い。また都護府にはランクがあり、安西、安北、単于、北庭は大都護府、安東は上都護府、安南は中都護府であった。節度使が登場すると都護府はしだいにその所管に入り、役割も軽くなったが、各都護府の消長は、各方面の諸民族の動向に対応して複雑であった。
[金子修一]
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漢および唐が,服属した国家または民族を統治するために置いた機関。前59年前漢が烏塁城(うるいじょう)に置いた西域都護に始まり,後漢では班超(はんちょう)によって亀茲(きじ)(クチャ)に設置された。唐では帰順した諸部族の故地に都督府および州県を置き,これを羈縻州(きびしゅう)(羈縻政策)といって,族長をその長官に任命したが,その上に都護府を置き,中国の官吏,軍隊が駐屯してこれを統治した。唐の都護府は多いが,主なものは安東,安西,安南,安北,単于(ぜんう),北庭の6都護府である。
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