風土(自然環境)(読み)ふうど

日本大百科全書(ニッポニカ)「風土(自然環境)」の解説

風土(自然環境)
ふうど

人間の精神・生活様式として具現されている自然環境である。環境は主体とそれを取り巻く外囲とからなり、人間と環境の対応関係として分析されるが、風土は人間を含む全一体的な世界として総合された概念である。『漢書』地理志に現れた風土(フェンツ)は「風俗と水土の風気の関係」としている。風土は世界の一部である郷土、地方性をも意味し、地方的特色を示す生活様式、文化景観として示される。

 風土に近い概念としては、古代ギリシアのクリマklima(現代では気候を意味する)、オイコスoikos(住地)があり、ヒポクラテスは環境の要素として空気、水、場所をあげた。環境の科学的研究と、生物あるいは人類と自然との関係は、A・フンボルトによって研究が基礎づけられ、のちに生態学(エコロジーすなわちオイコスの学)として発展した。人間に対する自然環境の影響と、自然の人間による改造は、F・ラッツェル、E・フェルス、C・O・サワーなどによって研究された。また地的統一を探究し、各地の生活様式を明らかにすることを人文地理学の基礎としたのは、P・ラ・ブラーシュであった。

 19世紀より20世紀前半にわたる地理的環境研究の進歩に先駆けて、E・カントの「自然地理学」が講義され、その講席に連なったJ・G・ヘルデルが『風土の精神』をまとめ、人間の内面に刻まれた自然環境の性格を説いた。

 和辻哲郎(わつじてつろう)は『風土――人間学的考察』(1935)を著し、人間の存在形式としての風土性について述べ、世界的視野から、モンスーン、砂漠、牧場の三例を採って、人間と自然との深いかかわり合いを説いた。さらに日本人の台風的性格についても論じている。『風土記(ふどき)』は古代官撰(かんせん)の地誌として8世紀に編集され、『出雲(いずも)国風土記』『常陸(ひたち)国風土記』など五風土記が残され、郡郷の地名、産物、山川原野名、伝承などを記録する。のち江戸時代には『新編武蔵(むさし)風土記稿』が編せられ、今日も地方誌を「風土記」とよぶことが多い。

 諏訪(すわ)の三沢勝衛(かつえ)は、郷土の日常の実地調査に基づいて、養蚕、寒天製造、刃物工業などの土着産業における地方風、気温・水温などの影響を明らかにし、のちに『風土産業』(1952)として刊行された。郷土の人々の経験を聞き、村落の立地や家屋の構造などに、身辺の知恵が生かされている事実を発掘し解釈し、学生や郷土の人々にそれを広めた。

 地理学をはじめ、民俗学、心理学、言語学などには風土が問題とされることが多い。柳田国男(やなぎたくにお)は、青森・秋田に咲くツバキが、長いごもりの生活と黒々としたスギ・ヒバの針葉樹の中に、照葉樹の葉のつやと花の色が好まれて育てられたものと解した。近年では鈴木秀夫が気候学的基礎にたって、世界宗教の分布特質を説明している。各地にはそれぞれ厳しい自然に適応した生活と文化があり、それらは、次の風土を育てる土壌として人々が耕しおこし続けるのである。

[木内信藏]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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