(読み)トビ

デジタル大辞泉 「鳶」の意味・読み・例文・類語

とび【×鳶/×鵄/×鴟】

タカ科の鳥。全長約60センチ。全身茶色で、翼の下面に白斑がある。尾は凹形。ピーヒョロロと鳴きながら羽ばたかずに輪を描いて飛ぶ。ユーラシアに広く分布。漁港や市街地に多く、魚や動物の死体を食べる。とんび
鳶職」の略。
鳶口」の略。
鳶色」の略。
[類語]犬鷲大鷲尾白鷲禿鷲禿鷹

とんび【×鳶】

とび(鳶)1」に同じ。
用もなくうろつく者。また、通りがかりに店先や門口のものを盗む、こそ泥。「廊下
鳶ガッパ」の略。 冬》

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精選版 日本国語大辞典 「鳶」の意味・読み・例文・類語

とび【鳶・鴟・鵄】

  1. 〘 名詞 〙
  2. タカ科の鳥。全長約六〇センチメートル。体は暗褐色で胸に黒い縦斑がある。他のタカ類と違って尾先にくぼみがある。森林の高い木に営巣し、腐肉を好み、主にネズミ・魚などの死体をあさる。鳥獣を襲うことは少ない。よく空中で輪をえがいて飛び、ピーヒョロロと鳴く。日本各地に留鳥として棲息し、市街地・村落付近・海岸に多い。とんび。〔十巻本和名抄(934頃)〕
  3. とびぐち(鳶口)」の略。
  4. とび(鳶)の者」の略。
    1. [初出の実例]「安い鳶あひるふさがり鷹へそれ」(出典:雑俳・柳多留‐一〇七(1829))
  5. とびいろ(鳶色)」の略。
    1. [初出の実例]「武士が兄弟飛色(トビ)ぞろひ、床場でいはぬ本田髪」(出典:洒落本・人遠茶懸物(1786))
  6. 定職をもたないでぶらぶらしている人。遊び人。
    1. [初出の実例]「当風の跡に近所の鳶が舞ふ」(出典:雑俳・神風(1742))
  7. 江戸時代、現物売買の仲介をして手数料を取るのを業とした人。牙儈(すあい)。鳶商人。

鳶の補助注記

「書紀‐神武即位前」に「金色霊鵄(こがねのあやしきとび)」が神武天皇に勝利をもたらしたことが記されており、トビは古くは霊鳥と見なされていたようである。


とんび【鳶】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 「とび(鳶)」の変化した語。《 季語・冬 》
    1. [初出の実例]「鳶(とび)を、とんび」(出典:かた言(1650)四)
  3. 通りがかりに店先や門口のものなどをかすめとる者。鳶が餌をさらうのに擬していう。
    1. [初出の実例]「覗き居る盗賊(すり)巾着を鳶(トンビ)坂」(出典:雑俳・あかゑぼし(1702))
  4. とんびガッパ(鳶合羽)」の略。《 季語・冬 》
    1. [初出の実例]「袈裟衣、腹かけ股引、トンビ、ブランケットを着る者」(出典:新聞雑誌‐二号・明治四年(1871)五月)
  5. 芝居で用いる笛。
    1. [初出の実例]「堀君のトンビ(笛)だって、悠長を極めたものでしたな」(出典:自由学校(1950)〈獅子文六〉不同調)
  6. 紙、髪、神をいう人形浄瑠璃社会の隠語。
    1. [初出の実例]「なじみの座敷たりとも鉢さかなにかんざしなど入るは、あたまにはしを置き御ぜんすへるといふはんじものか、つねに心懸けたし。トンビタツホニスケシロウ」(出典:洒落本・金枕遊女相談(1772‐81頃))

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普及版 字通 「鳶」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 14画

(異体字)
17画

[字音] エン
[字訓] とび

[説文解字]
[金文]

[字形] 形声
声符は弋(よく)。〔説文四上本字に作り、「鷙鳥なり」とあり、猛禽の名。いま、とびの意に用いる。

[訓義]
1. とび。
2. 字はまたに作る。

[古辞書の訓]
〔新字鏡〕鳶 鵄、止比(とび)、、佐(さき) 〔名義抄〕鳶 トビ 〔字鏡集〕鳶 トビ・クマタカ

[熟語]
鳶肩鳶鴟鳶尾・鳶飛鳶鳴・鳶
[下接語]
烏鳶・寒鳶・孤鳶・紙鳶・鴟鳶・晴鳶・蒼鳶・鳶・飛鳶・風鳶・鳴鳶・鷹鳶

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改訂新版 世界大百科事典 「鳶」の意味・わかりやすい解説

鳶 (とび)

建築や土木作業で足場の組立てなど雑務を行う者。鳶職,鳶の者,鳶人足,仕事師ともいう。トビという職名は,彼らが鳶口または鳶と称する樫棒の先に鋼鉄製の鉤(かぎ)をつけた道具を携行することに由来する。鳶口は川狩や木場など木材を扱う者の道具で,火消にも使用され,火消人足も鳶とか鳶の者と呼ばれた。《守貞漫稿》には〈火消人足は平日土木の用を業とし,京坂に云手伝と同き也。火場に出るに各自必ず鳶口と号す具を携ふが故に,彼輩を鳶の者とも云,又仕事師と云〉とある。実際,江戸,大坂ともに火消人足は土木建築の鳶で組織されており,両者は同義で使われた。しかし,建築人足の鳶は必ずしも鳶口を使う者とは限らず,大工の手伝いや杭打ちなどをするため,京坂では手伝い,手伝い人足とも呼ばれた。

 鳶は今日でも土建業者の下請作業に従事しているが,それぞれの縄張りを有していて正月の松飾祭礼の際の飾付けを請け負ったり,正月の注連飾を売る店を出したりする。頭(かしら)に統率された縄張仕事は,江戸時代に町抱人足だったころの名残とされている。鳶は印袢纏,腹掛,股引姿という粋な服装をし,かつての作業唄に由来する〈木遣り〉を職業歌としてうたい,出初め式に勇壮なはしご乗りを披露するなど特異な風俗や任俠の気風を残している。しかし,社会や生活事情が激変しつつある現在では,鳶風俗は珍しいものになってしまった。
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鳶 (とんび)

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百科事典マイペディア 「鳶」の意味・わかりやすい解説

鳶【とんび】

インバネス

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動植物名よみかた辞典 普及版 「鳶」の解説

鳶 (トビ)

学名:Milvus migrans
動物。ワシタカ科の鳥

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳶」の意味・わかりやすい解説


とび

鳶職

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【インバネス】より

…袖の代りにケープが付く。名はスコットランドの都市インバネスにちなむもので,幕末に洋服をとり入れた日本でもこれが着用され,その形から鳶(トンビ)と呼ばれた。福沢諭吉が片山淳之助の名で著した《西洋衣食住》(1867)に,〈合羽 マグフエロン 日本ニテ俗ニトンビト云〉とある。…

【合羽】より

…寒さや雨雪を防ぐために衣服の上に着用する外衣。語源はポルトガル語のカパcapaで,16世紀後半,日本に来航したポルトガル人やスペイン人などが着ていた〈袖もなくすそ広きもの〉(《四季草》)にちなむ。織田信長,豊臣秀吉,足利義昭など当時の支配者たちは早速これをまねて,西洋から献上された最高級羊毛布地の〈猩々緋(しようじようひ)〉(赤紫色)で同形のものを作らせ,カッハ,カハン,カッパなどと称して身辺に置き,権威の象徴とした。…

【コート】より

…最も外側に着用する,袖のついた長い丈の衣服。日本では外套ともいう。語源は,西ヨーロッパ中世に着用されたコットcotteに由来する。外側に着る同種のガウン,ローブ,マント,ジャケットなどとの区別は歴史的に明らかでないが,今日では丈の短い上衣のジャケットとは区別して使われる。一般にはオーバーコート,レインコートなど防寒,防塵,防雨または装飾としても着用されるものを指すが,モーニングコートフロックコートなどのように表着(うわぎ)化したものもある。…

※「鳶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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