《古今和歌集》の序に論評された6人の歌人。《万葉集》の後,和歌の道はまったくおとろえていたが,その時期に〈いにしへの事をも歌をも知れる人,よむ人多からず。……近き世にその名きこえたる人〉としてあげられた僧正遍昭,在原業平,文屋康秀,喜撰法師,小野小町,大友黒主,の6人のこと。序の筆者紀貫之より1世代前の人々で《古今集》前夜の代表的歌人として《古今集》時代の和歌の隆盛を導いた先駆者たちである。それぞれの個性は明白であるが,共通の特色は真率(しんそつ)でわかりやすく,技巧が少なく,この人々によって和歌史上の一時期が形成された9世紀後半は〈六歌仙時代〉といわれる。技巧が少ないことはかえって内容の充実を意味し,藤原定家はその著《近代秀歌》に〈詞は古きをしたひ,心は新しきを求め,及ばぬ高き姿をねがひて,寛平以往の歌にならはば,おのづからよろしきこともなどか侍らざらむ〉と注意すべき見解を述べている。〈寛平以往の歌〉とは六歌仙を意味する。この書は源実朝に与えられた書で,初学の者の和歌修業の極意は六歌仙の歌に学ぶことだ,の意である。高い評価であるが,問題はある。すなわち,6という数字には中国文化の影響(六経(りつけい)とか詩の六義など)と認められる。この時代に《古今集》入集の歌人はほかにもあり,六歌仙のうち喜撰,小町,黒主は伝記がほとんど不明で,喜撰は伝説中の人物のごとくにさえ見える。《古今集》にも1首しか採られていない。ゆえに,強いて6の数に合わせて選ばれているように見える。しかし《古今集》序に記されたということと藤原定家の称揚により,後世にいろいろの形で影響が見られる。すなわち,三十六歌仙というのも6を2乗した数であり,〈六家集〉--藤原俊成《長秋詠藻》,藤原良経《秋篠月清集》,慈円《拾玉集》,西行《山家集》,藤原定家《拾遺愚草》,藤原家隆《壬二集》の六つの家集を集成したもの--というのも,六歌仙の呼称を変形踏襲したものである。また,黒主を悪人にしたてた謡曲《草紙洗(そうしあらい)》のほか《関寺小町》《卒都婆小町》など,六歌仙に材をとった謡曲は多く,《六歌仙容彩(すがたのいろどり)》など歌舞伎にも,六歌仙に材をとった作が多い。
執筆者:奥村 恒哉
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『古今(こきん)和歌集』の序文で「近き世にその名聞えたる人」として批評された、僧正遍昭(そうじょうへんじょう)、在原業平(ありわらのなりひら)、文屋康秀(ふんやのやすひで)、喜撰(きせん)法師、小野小町(おののこまち)、大伴黒主(おおとものくろぬし)の9世紀中葉の六歌人に対する後世の呼称。このうち家集があり歌人としての活躍が認められるのは遍昭、業平、小町で、他の3人は歌人としての実績に乏しく伝記も不明な点が多い。『古今集』序文で、遍昭「歌のさまはえたれどもまことすくなし」、業平「その心あまりてことばたらず」、康秀「ことば巧みにてそのさま身におはず」と評されている。喜撰は、歌学書『倭歌(わか)作式』(喜撰式)の作者に仮託されており、「わが庵(いほ)は都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり」の一首が残されて、「ことばかすかにしてはじめをはり確かならず」とされている。小町評は「あはれなるやうにて弱からず」。黒主は近江(おうみ)国の地主で滋賀郡大領(だいりょう)、『古今集』ほかに10首ほどの歌がみえ、「そのさまいやし」とされる。この六歌仙を倣ったものに「新六歌仙」「続六歌仙」などがある。
[杉谷寿郎]
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「古今集」の序で論評された6人の歌人,遍照(へんじょう)・在原業平(なりひら)・文屋康秀(ふんやのやすひで)・喜撰(きせん)・小野小町・大友黒主(くろぬし)をいう。ただし「古今集」時代には六歌仙のいい方はなく,藤原公任(きんとう)の「三十六人撰」以前に成立した概念か。「古今集」の撰者たちより前の世代で,漢詩文に押されていた和歌の復興に力があった。
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…詩は中国では士大夫の必須の教養であったが,撰者は和歌にそれと同様の位置を与えようとしたのである。集中の作者はすべて127人,代表的歌人は4人の撰者のほか,六歌仙(僧正遍昭,在原業平,文屋康秀,喜撰法師,小野小町,大友黒主),伊勢,素性法師らがあげられる。〈読人しらず〉の作は全体で6割に達し,おおむね伝承歌的な色彩があり,かなり古い時代の作を含んでいると考えられる。…
…序の筆者紀貫之より1世代前の人々で《古今集》前夜の代表的歌人として《古今集》時代の和歌の隆盛を導いた先駆者たちである。それぞれの個性は明白であるが,共通の特色は真率(しんそつ)でわかりやすく,技巧が少なく,この人々によって和歌史上の一時期が形成された9世紀後半は〈六歌仙時代〉といわれる。技巧が少ないことはかえって内容の充実を意味し,藤原定家はその著《近代秀歌》に〈詞は古きをしたひ,心は新しきを求め,及ばぬ高き姿をねがひて,寛平以往の歌にならはば,おのづからよろしきこともなどか侍らざらむ〉と注意すべき見解を述べている。…
※「六歌仙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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