平安前期の歌人。〈遍照〉とも記される。大納言良岑安世(桓武天皇皇子)の子。在俗時には良岑宗貞(よしみねのむねさだ)といい,子に素性法師がいる。仁明天皇の蔵人で,849年(嘉祥2)蔵人頭(くろうどのとう)に補される。翌年天皇の死去とともに出家,花山の元慶(がんぎよう)寺の座主となり,869年(貞観11)紫野の雲林院の別当を兼ねた。885年(仁和1)僧正に任ぜられる。六歌仙の一人で,《古今集》序に〈僧正遍昭は歌のさまは得たれども,まこと少し。たとへば絵にかける女を見て徒らに心を動かすが如し〉と評されている。趣向が先立って内容がともなわない,の意である。《古今集》には俗名で3首,僧正遍昭の名で14首が入集している。家集に《遍昭集》があるが,三代集から遍昭の作をひいて編集したもので,独自性は少ない。〈天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ〉(《古今集》巻十七)は《小倉百人一首》にも入っている。
執筆者:奥村 恒哉
桓武天皇の孫という高貴の生れ,それにもかかわらず出家して天台僧となり,僧正の地位に昇ったこと,歌僧の先駆者の一人であることなど,遍昭は説話の主人公として恰好の性格をあわせそなえた人物であった。在俗時代の色好みの逸話や,出家に際してその決意を最愛の妻にも告げなかったといった話は,《大和物語》をはじめ,《今昔物語集》《宝物集》《十訓抄》などに見え,霊験あらたかな僧であったという話も《今昔物語集》や《続本朝往生伝》に記されている。後世,六歌仙の一人として〈はちす葉のにごりにしまぬ心もて何かは露を玉とあざむく〉の歌とともに浮世絵などにも描かれ,所作事《化粧(よそおい)六歌仙》などに登場して広く知られた。
執筆者:大隅 和雄
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平安前期の僧侶(そうりょ)歌人。遍照とも書く。六歌仙、三十六歌仙の一人。俗名良岑宗貞(よしみねのむねさだ)。桓武(かんむ)天皇孫、大納言(だいなごん)安世(やすよ)の八男。素性(そせい)・由性らの父。仁明(にんみょう)天皇に仕え蔵人頭(くろうどのとう)に至ったが、850年(嘉祥3)、天皇に殉じて出家した。叡山座主(えいざんざす)円仁(えんにん)に戒を受け、十数年の修行ののち、貞観(じょうがん)年間(859~877)に花山元慶寺(がんけいじ)を草創、座主となった。また、紫野(むらさきの)雲林院(うりんいん)を別院として宗教活動のかたわら文芸交流の中心となる。光孝(こうこう)天皇の即位以前から信任を得て、885年(仁和1)には僧正となり、仁寿殿(じじゅうでん)で七十賀を賜い、さらに食邑(しょくゆう)100戸、輦車(てぐるま)の勅許を賜るなど破格の栄に浴した。歌柄は概して軽妙洒脱(しゃだつ)で、「歌のさまを得たれどもまこと少し。たとへば絵にかける女を見て、いたづらに心を動かすが如(ごと)し」(『古今集』仮名序)と評され、素性の淡々とした写生味に対して艶麗(えんれい)だが、出家前後には悲痛な心境を吐露した佳詠も多い。出家譚(たん)が『大和(やまと)物語』にみえ、『後撰(ごせん)集』にも小野小町との邂逅(かいこう)説話を収めるなど歌語りの好話材となったほか、天狗調伏(てんぐちょうぶく)などの逸話も残す(『続本朝往生伝』)。寛平(かんぴょう)2年正月19日滅、75歳。『古今集』以下に35首入集(にっしゅう)、『遍昭集』3系統はいずれも後代の編になる。
[後藤祥子]
あまつ風くもの通ひ路吹きとぢよ少女(をとめ)の姿しばしとどめむ
『目崎徳衛著『平安文化史論』(1968・桜楓社)』▽『阿部俊子著『歌物語とその周辺』(1969・風間書房)』▽『蔵中スミ著『歌人素性の研究』(1980・桜楓社)』
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(内田順子)
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[作者について]
このような世界を描き出して見せた作者は,現実の貴族社会の俗悪面に矛盾を感じつつも,なお人間世界での清純なものにあこがれた人で,和・漢・仏教等の教養ゆたかな男性であったようである。作者については,従来,源順(したごう),源融(とおる),僧正遍昭,斎部(いんべ)氏の一族などの諸説があるが,確証はない。《竹取物語》は,上述したごとく,対照的な要素を,伝統的な形態の中に創造的な契機をふくめて,巧みに描き出した物語で,たわいなく,おもしろく,美しく,深みのある作品である。…
…《万葉集》の後,和歌の道はまったくおとろえていたが,その時期に〈いにしへの事をも歌をも知れる人,よむ人多からず。……近き世にその名きこえたる人〉としてあげられた僧正遍昭,在原業平,文屋康秀,喜撰法師,小野小町,大友黒主,の6人のこと。序の筆者紀貫之より1世代前の人々で《古今集》前夜の代表的歌人として《古今集》時代の和歌の隆盛を導いた先駆者たちである。…
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