① 仏語。六識、八識の一つ。眼、耳、鼻、舌、身の五識が五根を通してそれぞれとらえる色、声、香、味、触の五境を含む一切のもの(一切法)を対象(法境)として、それを認識、推理、追想する心の働き。狭義には前五識の対象である色境等の五境を除いたもの(法境)を対象とする心の働き。この心の働きが眼から身までの五識を伴って起こるのを、五倶(ごぐ)の意識といい、単独で起こるのを独頭(どくず)の意識という。第六識。第六意識。
[初出の実例]「諸法は意識の成す所や」(出典:宴曲・宴曲集(1296頃)五)
② 目ざめているときの心の状態。狭義には、自分や自分の体験していることやまわりのことなどに気づいている心の状態。哲学では中心課題であり、特に観念論では自然や物質の独立性を否定し、これを根源的なものとする。〔解体新書(1774)〕〔哲学字彙(1881)〕
意識には多義的な意味があるが,一般的には現在経験している自分の状態や周囲の状況などを感知している心の状態を指す。意識は主観的な現象であり,他の事象に還元することはできない。注意による気づきawareness(アウェアネス),あるいはその過程を示す場合にも使われる。意識障害disturbance of consciousnessになると一過性あるいは持続性の思考能力の喪失,昏迷,嗜眠や昏睡などが観察され,脳波などに異常が観察される。直接経験として見たり聞いたりしている自己に気づくのは,外界への気づきによる意識であり,問題を抱えているときにその解決の見通しに気づいたりするのは内的な気づきによる意識と考えられる。この意味では,意識は内外の環境への気づきによって,主体としての自己が経験される過程で生まれる志向的な心の状態であるといえる。
近年,脳の認知神経科学の進展により,意識の働きの一部が機能的磁気共鳴画像法(FMRI)などで観察できるようになり,心の主観的状態を表わす心理的指標とも深くかかわることが示唆されている。脳の活動と意識のかかわりをどうとらえるかによって,意識を脳の過程に完全に還元できるという極端な心脳同一論から心脳二元論までさまざまな考えがあるが,ある種の意識は特定の脳領域のネットワークの活動とかかわることがわかってきた。意識と脳の間には因果的な相互作用があると考えるのが一般的な考え方であり,実験心理学と神経科学の融合的研究が進展し,意識の神経相関neural correlates of consciousness(NCC)の視点から検討が加えられるようになってきた。その結果,意識の働きが脳全体にかかわるのではなく,解決すべき課題によって,異なる脳領域が協調して(あるいは抑制し合いながら)働く,ということがわかってきた。これは,特定の脳領域がダメージを受けると,対応する意識の働きが変わることを示している。視覚的な意識の障害を例に取ると,たとえばブラインドサイト(盲視)blindsightの症例では,脳の視覚野がダメージを受けて,対象が見えなくなっても運動刺激の方向などを判断させると的確に言い当てることができる。つまり,見ているものを意識することなしに見ているのである。ブラインドサイトは無意識の意識とも考えられ,意識とは何かを考える際に参考になる。
意識は停止することのない連続した流れであるとしたジェームズの意識の流れstream of consciousnessの考えの背景にも機能主義がある。彼はまた,明瞭な意識の中心部分に対して,その周辺の明瞭ではない意識を意識の周辺fringe of consciousnessとよんだ。前頭葉を中心に働き,容量制約をもち,気づきと密接にかかわる目標志向的な意識としてワーキングメモリworking memoryがあるが,意識をこのような現在の経験を担うアクティブな記憶としてとらえることもできる。
【意識の階層】 意識の働きに階層や段階を想定する考えは古くからある。ライプニッツLeibniz,G.W.は知覚,回想および統覚などの3段階を考え,ウォルフWolff,C.は,明瞭なものから不明瞭なものまで段階があると述べ,意識の明瞭性Klarheit des Bewusstseinsという考えを示した。ブントの意識心理学では明瞭な意識の範囲は注意野Aufmerksamkeitsfeldあるいは識心Bewusstseinspunktなどといわれた。意識の明瞭度および水準を示すのに意識の程度degree of consciousnessという表現が用いられることもあった。いずれも,意識に階層を想定している。生物学的立場から見た意識の3階層モデルでは,まず基底となる第1層に覚醒arousalを考え,第2層にアウェアネスに導かれる中間的意識,つまり,外界認識にかかわる知覚的意識(と外界への適応行動を生み出す運動的意識)という意識の階層を想定し,第3層に高次な自己意識や社会的意識を想定する。自己意識には自身の心の状態mental statesを再帰的にモニターできることが必要であり,自己への気づきが他者の心の状態の推定問題(心の理論theory of mind)や,さらには自己と他者の関係性にかかわる社会的意識にも及ぶものと考えられている。このモデルでは,意識を生物一般にわたって広範な視野からとらえることができる。
stream of consciousness アメリカの心理学者で哲学者のW・ジェームズによって1886年につくられたことばで、意識は流動的で瞬時も停止することがないという意味である。イギリス連想学派からドイツのブントに至る心理学者たちの観察記述した意識は、ある瞬間の断面図にすぎない。実際の経験は個人的な意識の一部として絶えず変化しているし、また、これらの集大成とみられる人格は連続性を保ちつつ絶えず何かを志向している。そして、多数の意識要素のなかからある一群のものだけを選んで統一体を保とうとする。この中核となる意識が自我である。