土木工事,建築工事を指す用語。元来は仏教用語,とくに禅宗で用いられた語で,あまねく人々に請い,共に力を合わせて労役に従事し,事をなすことをいう。曝書,除煤,摘茶,掃除や堂塔の造営など幅広い労役に用いられたが,そこから転じて,室町時代には一般に土木工事のことをいうようになる。
鎌倉幕府の職名には作事奉行の名が見えるのみで,これが建築,土木の両工事を管掌したとみられるが,室町幕府では,建築工事は作事奉行が,土木工事は普請奉行が管掌するように分化している。室町幕府の普請奉行は,とくに将軍,天皇の御所の造営,築地,庭の修築工事や庭中掃除を重要な仕事としたが,戦国大名の下では領民に普請役を課して,堤防,せき,用水路,橋,道路の修築を大規模に行うようになる。また戦争の激化や鉄砲の普及に対応して,城普請がたえまなく行われるようになる。のちには建築工事一般をもいうようになる。江戸時代には作事奉行,普請奉行,小普請奉行が置かれて建築,土木の事をつかさどった。
執筆者:池上 裕子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…(a)には,幕府代官や小大名の農政を監察する任務(この任務は諸藩に置かれた郡代と共通している),新たに知行を与えられた領主に地方を割り渡す任務が含まれている。(b)は,百姓から国役として人夫を徴発し,築城や河川工事などの普請に従事させ,また大工頭による職人からの国役徴発を援助する任務であった。 以上を要するに国奉行は,生野銀山の但馬,鉄の産地の備中,舟運の要地伊勢(伊勢国奉行の後身山田奉行の任務の一つに鳥羽港の管掌があった)などに置かれたことからもわかるように,交通・分業を掌握し,普請や戦争に必要な要員や物資を動員するのが主たる任務であったといえよう。…
…〈建築〉という用語は比較的新しく,1897年(明治30)に造家(ぞうか)学会が建築学会と改称してから公認されたもので,建築学者の伊東忠太がアーキテクチャーarchitectureに対応する新語として提案した。それまでは,土木建築工事一般を〈普請(ふしん)〉,建物に関する工事を〈作事(さくじ)〉と呼んでいた。アーキテクチャーとは,単なる建造物building,structureに対して,一定の芸術的様式をもつ建物一般をさす集合名詞であり,かつ,それらをつくりだす建築技芸の体系を意味する。…
…神社,仏閣の築造は室町時代とくに造営といった。また普請は築地,庭園の造作等の土木工事を指す語として用いられた。近世初頭の城郭建設においては,石垣工事等を普請,殿舎を建築することを作事といい,普請奉行と作事奉行がそれぞれ指揮・監督した。…
…中国仏教の実情に即して,自給自足を原則とする新しい禅院規範が要求された。百丈は大衆とともに率先労働し,これを普請と名づける。〈一日作(な)さずんば,一日食わず〉とは,彼の自戒の句であった。…
…江西馬祖の禅をうけ,百丈山を創して禅院の独立をはかる。インド仏教の戒律で禁ぜられた生産労働を肯定し,これを普請とよんで,集団生活の基礎とするとともに,住持以下の職制を定め,百丈清規として成文化する。みずから率先して執労し,〈一日作(な)さずんば一日食わず〉と自戒したと伝え,門下に潙山霊祐,黄檗希運などが出て,百丈山は盛期の禅の中心となった。…
…地域ごとの価格差が著しいことや,輸送手段を独占していることが,彼らにとって利潤抽出を容易にしたものと思われる。鍛冶・番匠・鋳物師など特殊技能をもつ職人集団は武具などの生産に従事し,築城・普請などに動員された。彼らは領主に対して役儀として技能を提供し,その見返りとして種々の特権が与えられ,独占的な営業を保証された。…
※「普請」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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