一般に,加入者以外の者に対して,その存在,組織,目的などを秘密にする結社,団体をいう。ただし,これは狭義の秘密結社であり,後述のように秘匿されるべき事項は必ずしも一定しない。秘密結社は大別すれば,政治的秘密結社と入社式団体の二つに分かれる。このうち政治的秘密結社は,外敵や中央権力との対抗関係から発生するので,当の外因が消滅すれば,それ自身も消失する。すなわち,概して政治的秘密結社の存続は,一定の期間に限られる。これに対して入社式団体は,前者ほどアクチュアルな政治目的をもつことはない。それは,世俗的な一般社会のなかに秘密による封鎖領域を形成して,聖なるものの顕現を体験するための入信者団体である。歴史的現実との直接の接触が希薄であるために,存続期間は必ずしも一定していない。フリーメーソンのように,成立後数世紀を経てなお現存している入社式団体もある。この種の秘密結社はしばしば入社式(加入儀礼)のみが非公開であり,集会所や成員の氏名,教義,信条などはなんら秘密とはされないばかりか,〈人類の普遍的救済〉というような,世界そのものと等しい包括的範囲に及ぶ結社目的を掲げているために,公開結社と厳密な区別がつけにくい。のみならずある時期以後のフリーメーソンのように,みずから秘密結社であることを否認することさえまれではない。
秘密結社が秘密結社であることを維持する最大の手段は,いうまでもなく秘密の保持である。しかし,秘密は必ずしも秘密結社のみが保持しているわけではない。ごくありきたりの個人といえども,他者の存在に脅かされないためには,私的領域を多少とも秘密によって隠蔽しなければならない。秘密と私性との関係は,精神分析的にいうと幼時にしつけられた排泄物の始末の記憶にさかのぼるだろう。子どもはそこで恥部を隠すという秘密をもつことを覚え,同時に全体性の分割を経験する。その延長で発育期の子どもは,ともすれば両親や兄弟に対して(それ自体はしばしばつまらない)秘密をもちたがる。身のまわりを秘密で囲うことによって〈私〉を形づくり,こうして初めて自我形成が可能になるからである。逆にいえば,秘密(保持)が形成されない限り,〈私〉は無際限に公開されて一般性のなかに解消され,自我のアイデンティティ(同一性)は確立されない。
秘密結社がおおむね危機の時代に立ち現れがちであることも,このことと無関係ではない。上位のより大きい社会になんらかの変動が生じるとき,社会成員はもとより,社会内集団(民族,人種,政治結社,職業組合)もまたアイデンティティ・クライシス(同一性の危機)に遭遇して,いわば寄る辺のない孤児のように,アイデンティティの崩壊を目前にした白紙状態に投げ出される。この集団的幼時退行現象が,根を失った人びとに再び秘密によって封鎖された固有の私的領域を求めさせるのである。N.マッケンジーに従うなら,〈大多数の秘密結社は,古い生活形態が破産したり,新しい生活形態が今しも浮上せんとしている社会的無秩序の時期,もしくはイデオロギー的葛藤の時期に発生する〉(《秘密結社》)のである。
ここで二つの選択が考えられる。古い生活形態に固着するか,まだ姿を現さない新しい生活形態を期待するか,である。この点で秘密結社を二分するなら,前者がマウマウ団(マウマウの反乱)やマフィアのように古い因習に固執する楽園回帰グループ,後者が多少とも革命的な世界改革を唱える啓明結社,カルボナリ党,アイルランド独立を目ざしたクラン・ナ・ゲールClan-na-gaël,革命前夜のボリシェビキ(ロシア社会民主労働党)のようなユートピア志向グループ,となろう。むろんこの分類はとりあえずのものにすぎず,両者の間に一線を画するのは容易ではない。
いずれにせよ大多数の秘密結社は,危機の時代に古い地盤から根こそぎにされた故郷喪失者の層から発生してくる。薔薇十字団は三十年戦争の混乱のなかから出現し,テンプル騎士団は十字軍の退廃に再度秩序をもたらそうとする欲求から生まれた。マウマウ団は白人宣教師や白人植民者によって伝統的生活形態を破壊されたキクユ族の苦悩から,クー・クラックス・クランは南北戦争の敗者たるアメリカ南部から,それぞれ発生する。現在ではほぼ犯罪結社化しているマフィアもまた,本来はシチリアが近代ヨーロッパの秩序に取り込まれようとした時代の孤島固有のアルカイックな習俗の崩壊過程で,楽園回帰的衝動から生み出された結社である。
これらの秘密結社は外因である危機の性質に応じてさまざまの結社目的を立てるが,それによって宗教的秘密結社,民族主義的秘密結社,人種主義的秘密結社,犯罪秘密結社などに分類することができる。いずれにせよ,すでに述べたように,危機が一過性のものであれば,それに応じて秘密結社も一過的に盛衰する。しかし,G.ジンメルがその《社会学》第5章〈秘密と秘密結社〉において指摘したように,たとえある秘密結社が現実の目的を達成して社会に公開されても(たとえば革命後のボリシェビキ),これとすれ違いにかつての中央権力が没落して秘密結社化するので,秘密そのものの存在は恒久的に存続する。
このように政治史の文脈に沿って浮沈する政治的秘密結社に対して,入社式団体はむしろ精神史の文脈において消長を遂げる。そもそもが宣伝や教化伝道などによって同時代とのコミュニケーションを図る公開結社とは逆に,同時代との接触を意識的に拒むために,とりわけ入社式団体は概してその知の源泉を遠方に求める傾向がある。それは,ときには遠方の過去である古代や,いつとはない世界終末の後に立ち現れる未来であることもあれば,遠い異国や星辰の世界であることもある。
ヨーロッパ中世の崩壊過程で出現した薔薇十字団は,ルネサンスに先立ってスペインに流入したヘブライのカバラ思想,十字軍のもたらしたイスラムの神秘主義,ルネサンスとともにイタリアにもたらされたヘルメス思想,さらに世俗から隔離された修道院のなかで深化されたドイツ神秘主義などの総合の上に成立した。これらの古代や遠方の知が,スコラ学ではもはや統御しがたくなった中世末期の精神状況を救済するために浮上してきたのであり,とりわけ三十年戦争で混乱に陥っていた北方の世界終末的な様相の下では,薔薇十字団員たちが,はるばるオリエントからヨーロッパの〈今〉と〈ここ〉の混乱を収拾しにやってきた魔術の道士だと考えられていた。分裂と抗争に明け暮れる北方諸国には,彼らの知によって普遍的統一がもたらされるであろう。この観念はやがてイギリスに成立するフリーメーソンにも受け継がれていく。
いずれにせよ近代の秘密結社は,産業社会化を通じて古き共同体から疎外された個人や集団が,現存の世界を不完全なものとみなし,今ここにはない第二の完全な世界を遠方から手引きするために結成される。この疎外からの救済という性格が近代の秘密結社を特徴づけており,多少とも土着的な未開社会の秘密結社とそれとを区別する。しかし現存の世界を不完全とみなし,完全を夢見るこの精神の姿勢は,さかのぼっては2~3世紀に最盛期を迎えたグノーシス主義に発している。グノーシス主義の中心には,宇宙は神秘的で不可測の存在から多くの媒介を経て流出したものであり,現存の人間の感覚世界はその最後の最も低次の悪しき造物主(デミウルゴス)によって創造されたとする命題がある。ここから有限にして可視のこの世界を超越し不可視の完全な世界に還帰するための知が要請される。すなわち宇宙原理である原初の存在は,現在の造物主の創出した物質界によって隠されている。というよりは原初の神的存在は物質界によっていわば殺害され,乗っ取られたのである。それゆえに,この殺され隠された秘密の知を復元しなければならない。
エジプト,イラン,ユダヤなどの先進文明において蓄積され,グノーシス主義を通じて後代に媒介される,この完全知を探求する教義は,とりわけさまざまの秘密結社の入社儀礼に象徴化された。たとえばフリーメーソンの入社式で新加入者の体験する〈ヒラムの伝説〉は,伝説上の結社の創始者ヒラムが3人の職人によって暗殺され,埋葬を経て再発掘されたという伝説を模して行われる。こうした始祖の死と再生の象徴劇を反覆しながら,新加入者は,彼自身が世俗的な人格としては死に(または殺され),結社という第二の世界のなかで聖なる人格として再生するという入社式の儀礼を同時に体験する。
入社式はこのように秘密結社体験の核心を形づくっているが,これと並んで重要なのが大多数の秘密結社にみられる複雑な階級制度である。入社式から始めて,成員は次々に新たな秘儀伝授を通過しながら,より高位の階級へと昇りつめ,最後の完全な知に到達しなければならない。同時に入社式と階級制度は社会集団の力学としても必須のものである。ジンメルによれば,秘密結社の本質は〈自律〉であるが,この自律は一般社会の秩序を離れて無秩序に向かうそれであり,周囲の社会からの離脱は成員の間に根なし草的感情を,〈つまり固定した生活感情と規則的な支柱との欠如をもたらしやすい〉。これを補うために結社内部に強力な規則と煩瑣な儀礼の細目が持ち込まれるのである。
秘密結社のなかで最高の知に達したと信じられている達人たちは,しばしば奇妙な言動を示した。薔薇十字団員であったとも伝えられるサン・ジェルマン伯は,ネロ帝やピラトと語り合ったことがあると主張し,また死後にも諸方に姿を現したと信じられている。生と死の境界を自在に越えるこの秘法のエピソードが,たとえ荒唐無稽な誇張の産物であろうと,目の前に現存する人格についていえば,これは,〈そこにいながら,そこにいない〉という存在と不在の同時的共存をいっているのに等しい。それは,ジンメルが貴族的な秘密性について語っている言葉と一致する。〈真に高貴な者の外観は,たとえ彼が隠すことなく自己を示そうとも,多数者がどうしても彼を理解せず,いわば彼を“まったく見ない”〉(《社会学》第5章〈秘密と秘密結社〉)のである。最初に隠されたもの(秘密)をことごとく取り戻した者にとっては,秘密と公開との間の境界はもはやないのである。
執筆者:種村 季弘
中国には古くから民間信仰を中心にして,血縁・地縁をこえて,〈義〉に基づいて結合した集団が,社会の底辺に広く組織され,病気,自然災害や悪政,外敵の侵入など民衆の苦難を救済し,しばしば政治権力に対抗する存在となっていた。戦国時代(前5~前3世紀)の墨家集団は,その最も早いものと考えられ,また同じ頃から活躍していた〈任俠〉〈遊俠〉などと呼ばれる遊民集団にも(俠客),上記のような性格をもつものがある。このような反社会的集団は,時の政府によって〈邪教〉〈姦徒〉などと呼ばれて禁止され,厳しく取り締まられたために,おおむね秘密宗教ないしは秘密結社として,その存在をベールで覆って活動を続けた(淫祠邪教)。2世紀末,張角に率いられた太平道や張陵の五斗米道(ごとべいどう)は,いずれも土俗的な民間信仰と呪術的治療とに支えられて長期にわたって強大な勢力を張り,後者は鎮圧されて後にも,後世の道教の源流である天師道として命脈を保ち,4世紀末から5世紀にかけて江南の地域で熱心な信者を得ていた。
宗教的秘密結社として最も長く生命を保っているのは,弥勒下生(みろくげしよう)信仰を中心に阿弥陀信仰,マニ教の菜食主義や五戒などの生活規範を取り入れて,元朝の中ごろに強大な勢力をもつにいたった白蓮教(びやくれんきよう)である。これは10世紀ころに始まり,時の政府から終始〈邪教〉として厳禁されていたが,元末(14世紀後半)に,紅巾の乱と呼ばれる大反乱を起こして元朝を崩壊に導き,さらに,明・清時代を通じて,厳しい弾圧を受けながらも,しぶとく存続し,清代中期,嘉慶年間(1796-1820),長江(揚子江)中流域を中心とする山岳地帯で蜂起し,清朝支配体制を動揺させた(白蓮教の乱)。白蓮教の支派末流は,ごく近年まで根強く活動し,1900年の義和団運動のほか,在理教,黄天道など種々の名で華北一帯の民衆の間に信仰されていたが,その一つである一貫道は,現在も台湾で活発に布教している。
これらとは別に,清代には異民族支配に反抗して漢族の明王室を再興しようとする政治的秘密結社が早くから華南の地に興り,天地会,哥老会,三合会などと称され,辛亥(しんがい)革命(1911)の前後になると,孫文らの革命勢力とも呼応して軍事的な貢献があった。なお,近代中国の秘密結社は,国民党と青幇(チンパン),共産党と紅槍会などの結びつきにみられるように,政治動向の帰趨を左右するほどの大きな勢力を維持していたことに注意しなければならない。
執筆者:坂出 祥伸
未開社会の秘密結社は,邪術師や呪医の秘密の集団やマウマウ団のような革命的秘密結社まで多種多様であるが,ふつうにみられるのは,結社の成員であることがその部族において高い社会的地位を意味し,諸儀礼の一部分のみが秘密とされている集団である。下コンゴのデムボ結社やナイジェリアのベニン族の王宮結社などは,こうした例にあたる。またリベリアのクペル族にみられるポロ結社は,若者たちを〈死と再生〉を伴う加入儀礼によってブッシュ・スクールに長期間隔離し,成人男子としての心得について訓練する。
→男子結社
執筆者:綾部 恒雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
秘密の入社式を有する会員制の組織や団体。いわゆる未開社会の秘密結社から、アメリカの大学におけるギリシア文字クラブ、フリーメーソンやマフィアなどの結社に至るまで広く用いられている。
史実として残るもっとも古い秘密結社のなかには、オリエントの密儀教のいくつか、古代エジプト、ギリシア、ローマなどの秘密結社がある。また、キリスト教時代以前のローマにおけるキリスト教徒や中世のさまざまな異端的キリスト教グループなどのように、弾圧や迫害から逃れるために秘密性を採用したものもある。中世のギルドは主として経済的自己防衛のために加入宣誓その他の秘密を保持していた。石工(いしく)のギルドからしだいに発展したフリーメーソンは、そのメンバーがギルドの思想に合致するための人間の変革を、秘儀を通して達成しようとした。また、歴史を通して、革命、体制打倒、陰謀などを目ざす諸集団は、フィニアン系アイルランド共和国同盟のように、秘密に組織されている。こうした諸種の秘密結社は、その目的によって、加入の際の秘儀を重んじる入社的秘密結社、政治的目的を有して地下活動を行うような政治的秘密結社、および犯罪を目的とする反社会的秘密結社に三分することができる。
[綾部恒雄]
結社への加入に際してイニシエーション(入社式)を施し、会員が組織内部の位階に応じた秘儀を通過し、人間存在を変革していくこと自体に結社の存在理由をみいだしている。したがって、この種の結社のなかには、そうした儀礼のみを秘密にし、結社の存在、集会場所、教義、会員氏名などは隠そうとしないものもある。世界的に有名なものとしてはフリーメーソンの名をあげることができる。また、オッド・フェローズ、エルクス、ムース、マルタの騎士などとよばれている結社もフリーメーソン類似の結社である。
日本の伝統的秘儀集団には、修験道(しゅげんどう)といわれる山伏の集団、真言一宗から邪宗として排斥された真言立川流、東北地方の「隠し念仏」、九州西部海岸や離島の「隠れキリシタン」などがあり、南西諸島でアカマタ・クロマタとよばれる秘儀団体も、こうした入社的秘密結社のうちに数えられよう。
なお、伝統的社会に多くみられる秘密結社には入社的なものが多いが、これらはさらに、
(1)結社がその部族の社会組織の重要な一環を占めており、その部族の男は一定の年齢になるとすべて「死と再生」のモチーフを伴うイニシエーションを受け秘密結社員になるもの、
(2)妖術者(ようじゅつしゃ)や呪医(じゅい)、舞踊者たちが職能的、専門家的ないしは階級的な閉鎖集団をつくる場合とがある。
リベリアのクペル人におけるポロ結社、ナイジェリアのヨルバ人のオグボニ結社、ニューブリテン島のドゥク・ドゥク結社などは前者の例であり、妖術者の秘密の集まりであるナイジェリアはティブ人のムバツァブ結社、ベニン人の王宮結社、シエラレオネの豹(ひょう)結社などは後者の例にあたる。リベリアのメンデ人などのように、女性の秘密結社がみられる場合もあるが、一般に女性や子供は秘密結社から排除されることが多い。
[綾部恒雄]
一般に時の政治権力に対するレジスタンスを目的としている場合が多いので、政治権力からの迫害や弾圧を避けるためにその存在を隠し、結社の活動や結社員名を極力表に出さないように努めている。16世紀ヨーロッパの「聖フェーメ団」、19世紀イタリアの「カルボナリ党」やアイルランドの「フィニアン」、帝政ロシアにおける「救済同盟」や「デカブリスト」、第二次世界大戦後のものとしては、イギリスの植民地からの独立運動としてのケニアのキクユ人による「マウマウ団」、黒人解放を目的としたアメリカの「ブラック・パンサー」なども政治的秘密結社である。
[綾部恒雄]
代表例としては、マレーシアの華人系の秘密結社である「三合(さんごう)会」、アメリカの「クー・クラックス・クラン」や「マフィア」などをあげることができるが、いずれの場合も組織結成の当時は共済的結社であったり政治的結社であった。犯罪的な秘密結社は、結成当時の目的が失われて、しだいに反社会的結社となったものが多い。
秘密は人間個人としては自我の発達と深くかかわり、文明史的には社会集団の結成原理とも分かちがたく結び付いている。秘密結社はこのような人間社会の本質に根ざした機能集団の一つのあり方だということができる。
[綾部恒雄]
中国の秘密結社には、清(しん)代に「教匪(きょうひ)」「会匪(かいひ)」といわれた、下層農民・無頼民衆の集団結社である(1)「白蓮教(びゃくれんきょう)」を代表とする宗教的秘密結社と、(2)「紅帮(ホンパン)」「青帮(チンパン)」を代表とする「帮会(パンホイ)」(「会党(かいとう)」)とがある。(1)は農村の下層農民・民衆の結社の型を主とし、(2)は流通経済の下での下層農民・民衆の結社の型を主としている。(1)は華北・華中地域に、(2)は華中・華南地域に多く形成された。(1)のなかには義和拳(ぎわけん)(18世紀以後)、大刀会、紅槍(こうそう)会のように(2)に変わったり、(2)と表裏をなすものも生まれた。一般に秘密結社というと(2)すなわち帮会がおもに問題となる。帮会が中国史上重要な役割を果たすようになったのは、近代化中国とくに清末の時代で、清門(チンメン)・清帮・青帮と、洪門(ホンメン)・洪帮(ホンパン)、紅帮が併称されるようになったのも、1900年前後である。
紅帮には、天地会(別称、三合(さんごう)会・三点(さんてん)会)系と哥老(かろう)会系とがある。天地会は、広東(カントン)・福建両省の境界地域の商人、下層農民・無頼民衆の集団を基礎として18世紀中期に発祥した。これは、流通経済を支える運輸労働者の組織を主力として、当時全国の客商の集まった四川(しせん)に至る商業交通ルートに沿う各地域および両広・台湾に、19世紀以来は東南アジア・ハワイなどへと広がった。哥老会は、18世紀前半期に生まれた四川の嚕(クオル)(哥老(コラオ)の四川方言)とよばれた下層農民・無頼民衆の集団を基礎に発祥した。19世紀初めに四川で三合会、白蓮教と交流して集団の組織や規約を整え、反社会的な流通経済の利を得て勢力を強め、湖北・湖南に進出した。太平天国と戦った湘軍(しょうぐん)には嚕分子が加わり、哥老会の称呼もそのころ現れた。太平天国滅亡後、解散された郷勇(きょうゆう)は、各地の哥老会集団に加わり、1870年代には揚子江(ようすこう)中流域からデルタ地域にまで哥老会の勢力は伸びた。1891年の排外的反キリスト教運動の主力となり、亡命した康有為(こうゆうい)の党を援助したり、天地会とともに洪門、紅帮として革命党に協力して辛亥(しんがい)革命(1911)に貢献した。民国時代には紅帮に比して青帮の勢力が強くなった。青帮は明(みん)末の宗教結社「無為教(むいきょう)」(「羅教(らきょう)」)に発祥するが、その集団の主力は大運河の運糧(うんりょう)船の水手(すいしゅ)であった。清朝の弾圧によって18世紀以後、宗教性を薄めて帮会へと変貌(へんぼう)した。清末に大運河の漕運(そううん)が途絶したのを機に、帮は水から陸に上り、揚子江デルタ地域を中心に、闇(やみ)経済を支配する帮会となった。この帮は無為教の開祖の名にちなんで清門・清帮とよばれ、清末には紅帮と対称して青帮とよばれるようになった。青帮は、清末から民国期にかけてアヘン・塩などの闇物資関係の営業などで巨利を得た。その中心人物は杜月笙(とげつしょう)(1887―1951)である。彼の勢力の台頭によって青帮の組織は、過去の字輩(じはい)組織から杜を指導者とする集団へと変わった。青帮は1927年以後、中国共産党と対立して資本主義化中国を目ざす中国国民党政権を支える民衆組織へと変貌した。
[酒井忠夫]
『S・ユンタ著、小関藤一郎訳『秘密結社』(白水社・文庫クセジュ)』
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…《水滸伝》など小説・戯曲類にあらわれる姦夫姦婦と称して男女を殺害することなども,公権力によって裁かれる性質のものであることを否定しない。 したがって最も典型的な私刑の例を中国史上に求めるならば,紅槍会・青幇(チンパン)・紅幇(ホンパン)などの秘密結社におけるそれであろう。ここでは組織の統制を維持し,秘密を保持するため,規約を定めて私刑を行った。…
…女性や子どもが舎屋に立ち入ることはきびしく禁止されている。未開社会の秘密結社の多くは,こうした秘儀を中心にして結成された男子結社で,メラネシアのドゥク・ドゥク結社,アフリカのザンデ結社やマウマウ結社などは,その典型的な例である。年齢集団若者組【綾部 恒雄】。…
…部族社会および文明社会の村落において,男たちが政治や宗教的な営みの中心とする場所のことで,単なる広場から壮大な舎屋まで,当該文化の程度や特性によってさまざまのものがある。メラネシアや西アフリカには,男子が女子供を秘儀によって排除する秘密結社ないし男子結社が発達しているが,それらは呪術的な彫刻や装飾を施したりっぱな男子舎屋をもっている。他方,年齢集団がつよいインド東北部のアッサム地方のように,青年男子の若者宿が成人男子すべての集会所になっている場合も多い。…
… 近世以降に重視されるようになった概念としては儀式魔術ritual magicも重要である。フリーメーソンの発展など秘密結社運動の活発化にともない,秘密の入社式(イニシエーション)は魔術概念の身体的表現ともみなされ,とりわけパリやロンドンのような都市に集まったボヘミアンの中に賛同者を見いだした。この方面ではとくに文学や美術や舞踏などの創作にみるべきものが現れている。…
…南島の八重山において布袋の面をかぶったミルクがもたらすミルク世果報(ゆがふ)はその代表的なものである(弥勒信仰)。第4はこうした来訪神信仰の担い手の組織および儀礼がきわめて秘儀的性格をもっていることであり,なかにはアカマタ・クロマタのように秘密結社的組織をもつものもある。こうした秘儀的組織は若者たちによって構成される例が多く,若者組や若者宿の習俗と密接な関連をもつといえる。…
※「秘密結社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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