広義には東洋のリュート属擦弦楽器の総称で,中国の胡琴(こきん),朝鮮の奚琴(けいきん)なども含まれる。狭義には日本のものを指し,鼓弓,小弓とも書く。日本の胡弓は三味線とほぼ同じ形で,少し小さい。各部分の名称は三味線と同じ。四角形の胴に,猫の皮を張り,長い棹をもつ。棹は三味線と同様,木枠の胴にくし刺しになっており,その先端(中子先(なかごさき))は三味線に比べるとかなり長い。胴の皮の棹に近い方に駒(木製で,多くの場合演奏者自身が作製。三味線のとは異なり凸形)を置き,絹製の糸をかける。三弦胡弓と四弦胡弓がある。凸形の駒は,弓で弦をこする際に,本体を回転させて演奏するのに便利なようにくふうされたものである。弓は馬の尾をたばねたものを使用。標準的な楽器の全長は約69cm,棹(上駒から胴の根元まで)が約35cm,胴の横幅約12cm,中子先は約7cm,弓の長さは三弦胡弓のものが約95cm,四弦胡弓は約130cm。三弦胡弓の方が四弦胡弓より古く,江戸時代初期には存在した。なお,宮城道雄が三弦胡弓をやや大型にしたものを考案しこれも用いられている。この宮城胡弓では,中子先はキャップ式で取りはずして短くできる。日本の胡弓の起源ははっきりしないが,三味線を改造したという説や沖縄のものを改造したという説がある。四弦胡弓は,三弦胡弓の第3弦(最も細い弦)をさらに1本加え,同音に調弦し,複弦として使用するもので江戸で発展した。調弦法には三味線の三下りと二上りの2種類があるが,一般には三下りが用いられる。曲の途中で調弦を変えることが非常に困難なので,一曲通して同じ調弦法を使用。演奏法は正座して両膝の間に中子先をはさむ方法と膝の上に置く方法とがある。また,ある弦から他の弦に移るときは,バイオリンのように弓の角度を変えるのではなく,楽器自体を中子先を回転軸として動かし,弓は水平に保つ。
胡弓を用いた音楽には,胡弓の独奏曲である〈胡弓本曲〉と,箏や三味線とともに三曲合奏として奏される〈外曲〉とがある。本曲には器楽曲や組歌形式のものがあり,関東の藤植流には12曲残されている。関西では,政島流,腕崎流などの流派があったが,本曲の伝承は《鶴の巣籠》を除いて,ほとんど絶えてしまい,幕末に作られた《千鳥の曲》などが本曲として扱われているにすぎない。また,江戸時代を通じて胡弓は三曲合奏の重要な楽器の一つであったが,明治以降,その地位を尺八に譲ってしまった。また,あまりにも音量が小さいことや哀調を帯びた音色は,現在では一般の好みに合わなくなり,歌舞伎の下座音楽,文楽の特殊な曲(《阿古屋の琴責》など)や,舞の地に用いられるほかは,盛んに行われているとはいいがたい。
執筆者:加納 マリ
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広義には東洋の弓奏弦楽器の総称、狭義にはそれらのうち日本で用いられているものをいい、鼓弓または小弓とも書く。胡弓は日本でほとんど唯一の弓奏弦楽器で、三味線の改造とも沖縄の胡弓の改造ともいわれる。さらに、ヨーロッパのレベックを模したという説もある。3弦と4弦の2種があり、形は三味線に似てやや小さく全長約70センチメートル、演奏の際にはこれを膝(ひざ)の上、ないし両膝の間に立てて持ち、馬の尾を張った長い弓で弦をこする。ある弦から他の弦に移るときは、弓の角度を変えるのでなく、楽器そのものを回転させる。江戸時代初期から遊芸人が奏したが、検校(けんぎょう)たちによって芸術的に高められ、組歌(くみうた)や本曲(ほんぎょく)がつくられた。義太夫節(ぎだゆうぶし)では「阿古屋(あこや)の琴責(ことぜめ)」など部分的に使用され、哀切な気分を醸し出す。またとくに地歌(じうた)、箏曲(そうきょく)では三曲合奏の楽器として盛んに用いられたが、明治以後はその位置を尺八が占めるようになった。
[千葉潤之介]
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…しかし歴代の名優たちは,つねに独自のくふうをこらし,新しいふし回しを考え出して,それぞれの流派をかたちづくってきた。歌の伴奏につかわれる主要楽器は京胡(胡弓)で,ほかに月琴,三弦,二胡,横笛等が用いられる。打楽器では,単皮鼓といわれるかたく鋭い音を発する小太鼓のほか,大小さまざまな銅鑼(どら),鐃鈸(シンバル)を用いるが,この打楽器類が劇全体の進行にリズムを与え,役者のあらゆる演技にアクセントをつけて,舞台の雰囲気をかきたてる効果をあげる。…
…中国の2~4弦のリュート属の擦弦楽器(いわゆる胡弓)の総称(イラスト)。同時に京胡その他ある特定のタイプの胡弓を指す場合がある。…
…ベトナムの2弦胡弓。漢字では弾二と書く。…
※「胡弓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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