デジタル大辞泉 「鰹節」の意味・読み・例文・類語
かつお‐ぶし〔かつを‐〕【×鰹節】
[補説]祝儀に用いる際は、「勝男節」「勝男武士」などとも当てて書く。
大形のカツオを三枚におろし、片身をさらに背・腹の二つに切り分けて作ったものを本節、小形のカツオを三枚におろし、片身を1本のかつお節にしたものを
切り分けたカツオの身を煮た(蒸した)あと、
〈かつぶし〉ともいう。日本特有の水産薫乾品で〈だし〉をとるのに用いるほか,削って〈ひたしもの〉などにふりかけて食べる。最近は削り節の形でパックした商品が主流になっている。
カツオは春から秋にかけて日本の太平洋岸を北上するため,沿岸各地で製造される。筋肉の油含量が1~3%のものが原料として適しているとされており,4~7月ころ九州近海から伊豆七島付近で漁獲されるカツオはこの条件に適合し〈春節〉といわれる品質のよいものができる。すなわち薩摩節,土佐節,焼津節,伊豆節などがそれである。一方,8~10月ころにはカツオは三陸沖に達し,油含量も高くなっており,これからつくった三陸節は〈秋節〉〈油節〉ともいわれ,品質はやや劣る。
原料魚のどの部位を用いたかによっても製品の名称が異なり,三枚におろした左右の片身を一節としてつくったものを〈亀節〉という。また,3kg以上の大型魚では片身をさらに背と腹に分ける。背肉でつくったものを〈雄節(おぶし)〉,腹肉のほうを〈雌節(めぶし)〉と呼び,どちらも亀節に対して〈本節〉という。なお,亀節,本節の区別は品質とは直接関係ない。
水産加工品の製造がすっかり機械化された昨今でも,鰹節の製法は基本的には手仕事の域を脱しておらず,仕上がりまでの期間も半年近くと長い。切ったカツオをかごに並べて煮熟したのち,骨や皮の一部を除き,せいろう(蒸籠)に並べ,これを数枚重ねて炉に入れ,ナラやクヌギなどの堅木を燃やしてあぶる。この焙乾(ばいかん)を〈一番火〉といい,製品は〈なまり節〉と呼ばれ,一部市販される。一番火終了後,あらかじめ作っておいたカツオ肉のすり身で節の身割れや破損した部分を修繕する。続いて,毎日1回,二番火,三番火と焙乾-放冷-焙乾を8~12回繰り返す。これは放冷することによって節の内部から徐々ににじみでてくる水分をゆっくり除くためである。焙乾を終わったものは〈荒節〉または〈鬼節〉と呼ばれ,表面は粗く,黒褐色に焼けている。荒節は数日太陽に当てて乾かす。これを小刀などで削り,形を整えるとともに表面にしみでている脂肪を除きカビの発生をよくする。削り終わった節は表面が赤褐色なので〈裸節〉または〈赤むき〉と呼ぶ。地方によっては若節,焼節,新節ともいわれる。この裸節は沖縄,九州,四国などで真空包装してみやげ物として販売されている。裸節を日干し後,カビ付け箱に入れて15~17日放置すると節の表面は青緑色のカビでおおわれる。これを〈一番カビ〉という。続いて日干し後,表面のカビを払い落とし再びカビつけをする。二番カビ後のものを〈青枯節〉という。このカビつけ操作を普通4回繰り返す。四番カビの終わった節が〈本枯節〉と呼ぶ製品となる。カビはアスペルギルス属Aspergillusのものが主体で,カビつけにより脂肪分が減少し,香味,色沢が向上する。
本枯節の成分は水分15~16%,脂質3~4%,灰分3~4%で,残りの大部分はタンパク質とエキスである。そのうま味はイノシン酸とアミノ酸類の相乗効果によるとされ,また特有の香気は100種類以上の化合物より構成され,主として焙乾とカビつけの際生成する。
削り節には多くの種類があるが,最近では本枯節を削り,プラスチックの袋に入れ窒素ガスで封蔵したものが〈かつおパック〉などの商品名で多く出回っている。〈花がつお〉は以前から製造されている削り節で,カツオのほかソウダガツオ,サバ,イワシ,ムロアジ,サンマなどを煮熟した後,日干しにしたものや,さらに焙乾した荒節を蒸して湿りを与え,削り機(回転かんな)で薄片としたものである。削り節の製造工程は,原料→選別→水洗→蒸煮→削り機投入→乾燥→計量→包装→製品→出荷の順である。全工程が機械化されており,窒素ガス充てんシステムも自動包装機と連結し,オートメーション化されている。
執筆者:山口 勝巳
カツオの煮干しをつくるさいのゆで汁は,古くから堅魚煎汁(かつおいろり)と呼ばれて調味料とされていた。鰹節の名は室町時代から散見し,だし汁をとるのに用いられたことは明らかであり,《本朝食鑑》(1697)には土佐節,熊野節の名が見られる。ただし,この時期の文献の記載は,煮熟したのち曝乾(ばつかん)してつくるとだけになっており,いまのようなカビつけ法が延宝年間(1673-81)に発見されたとする説は信用できそうである。鰹節は〈勝男武士〉などと書いてめでたいものとされ,祝儀のさいの引物(ひきもの)や結納品に使われる。よそへネコをやる場合,鰹節をもたせてやるという風俗もあった。料理には乾燥のよいものがよく,打ち合わせてかたい音のするものを選びたい。色の白っぽいものは脂肪が多く,黄褐色のものは脂肪が酸化しており,ともに良品ではない。よい出汁をとるためには,そのつど必要量だけ削って用いるのがいちばんである。
→カツオ
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…リン酸の結合する位置により,2′‐,3′‐,および5′‐の3種があるが,一般には5′‐イノシン酸またはイノシン‐5′‐リン酸(IMP)を指す。鰹節のうまみ成分であることが1913年に小玉新太郎によって発見されたが,製品化はひじょうに遅れた。60年代になって分子生物学の進歩により,核酸の生物体内での合成,分解の過程が明らかになり,その応用として酵母を原料とした製造法が開発された。…
…5′‐イノシン酸(5′‐IMP),5′‐グアニル酸(5′‐GMP)などの呈味性ヌクレオチドをはじめとするきわめて多数の核酸関連物質の微生物による生産の総称。
[呈味性ヌクレオチドの生産]
1913年に小玉新太郎は鰹節のうま味の主成分がイノシン酸のヒスチジン塩であると報告した。60年になり国中明は5′‐IMP,5′‐GMP,5′‐キサンチル酸(5′‐XMP)などのヌクレオチドがすぐれた呈味性を有すること,またこれらの化合物がグルタミン酸ナトリウムと強い相乗効果を有することを見いだした。…
…かまぼこの製造は以前から行われていたが,今日の製法の基礎ができたのはこの時代である。鰹節(かつおぶし),なまり節の製造も本格化した。魚卵の利用も盛んになり,筋子,たらこ,干しかずのこ,からすみ,くちこ(ナマコの卵巣を干したもの)などがみられるようになった。…
… 漁業では古来カツオ漁が有名だが,近世以降,高岡郡宇佐(現,土佐市),幡多郡清水・中浜(なかのはま)(現,土佐清水市)などで盛んとなり,天保年間(1830‐44)には年漁獲高200万本の記録を残す。加工面では宇佐の播磨屋佐之助,中浜の山崎儀右衛門らが鰹節の改良と積出しにつとめ,江戸,上方で土佐節の名声を高めた。捕鯨業は近世初頭,安芸郡津呂(現,室戸市)の多田五郎右衛門が始めた。…
…鰹(かつお)節の半製品で,節どりしたカツオを煮て火力乾燥させたもの。《卯花園漫録(ぼうかえんまんろく)》(1809)がいうように〈生干し節〉の転じた語と思われる。…
※「鰹節」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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