山野に普通にみられるアカネ科の多年草で和名は赤い根の意味。古代より染料植物としてよく知られ,この根の煎汁をつかって茜染をする。染色のさい灰分が多いと赤みが勝ち,少ないと黄みが勝つ。漢方ではアカネの根を茜草根(せいそうこん)と呼び,止血や解熱強壮剤とし,咳止め,去痰作用や,平滑筋の収縮をうながす作用が知られている。茎葉も同様に薬用にされ,若芽は食用にされることがある。
茎は細く弱いが,長く伸びまたよく分枝して,逆とげにより他の植物にからまり繁茂する。葉は心形で4枚が輪生状となるが,そのうち2枚は托葉である。夏から秋に多数の円錐状花序を出す。花は小さくて目だたず,放射相称で5数性,蜜を出す花盤がある。ミバエの1種が花冠内に寄生した虫えい花が混在することが多く,それらは全体に大きくずんぐりしていて,花冠は閉じたままである。正常な花の花冠は直径4mmで淡黄色,子房は下位,2室があり,各室に1胚珠をつける。果実は黒く熟し液果で,1個の種子をつけ,球形かときに2個の種子があり,ひょうたん状となる。根はひげ状に多数出て,色素プルプリンpurprinなどを含み橙色だが,空気にふれると暗紫色となる。変異に富む種で,日本から東南アジア,ヒマラヤにかけて広く分布する。ヨーロッパ産のセイヨウアカネ(ムツバアカネ)R.tinctorum L.(英名common madder)は葉が6枚輪生し,根はアリザリンalizarinを含み,アカネと同じように,染色に用いられた。
執筆者:福岡 誠行
アカネの根に含まれる赤色色素を熱水で抽出して得る染色(そめいろ)を茜という。日本在来のアカネは外来のセイヨウアカネがもつアリザリンを含まず,色素成分はその誘導体のプルプリンであり,タンニンも多い。そのような悪い条件下で,茜雲の美しい色を染めるのには高度な技術上の処理を必要とした。茜染の記事は《古事記》上巻の大国主神の歌に〈やまがたに まきし あたねつき そめきがしるに そめころもを まつぶさに とりよそひ……〉とあるのが初見。この〈あたね(阿多泥)〉がアカネと解釈され,出雲の大神がアカネを播種(はしゆ)し,染木の汁の染衣を着ることを歌ったものとされている。〈あかねさす……〉と枕詞に用いられ,《延喜式》にあげられた色相は〈浅緋〉である。茜で下染めをして紫根の染液で交染して〈深緋〉を得ている。茜染は灰汁を媒染剤として用い,タンニンその他の不純物を吸着さすために白米を使って緋色を得る努力をしている。現在では工芸染色に西洋茜が用いられる。
執筆者:新井 清
コーヒー,キナ(キニーネの原料),クチナシ,ヤエムグラなどの代表種のほかに,アリ植物やマングローブ植物もある。約500属6000種からなる大きな群で,熱帯に多いが,温帯,まれに寒帯にも分布する。有益なアルカロイドを含むものが多く,黄色,赤色染料や薬用として利用され,観賞用の園芸植物も多い。
葉は対生し単葉で縁は滑らか,托葉があり,花冠は合弁,子房が下位などの形質により特徴づけられるよくまとまった科であるが,形態的には多様である。日本では草本が多いが,科としてはおもに低木で一部高木となる。葉にバクテリアが共生し窒素固定をするもの(ギョクシンカ属ほか)があり,インドでは乾葉を肥料として使うという。托葉が葉状に発達し輪生状となるものや,対生葉の一方が退化し互生状となるもの(イリオモテソウ属)がある。枝が針状や鉤(かぎ)状に変態することがあり,アリドオシ属のとげは,被子植物の中でも例外的で,托葉に対生する。花は虫媒花で虫を誘引するさまざまな機構があり,美しい花冠をつけるもの,小さい花が多数集合するもの,強い芳香を出すもの,蜜を分泌する花盤が発達したものが多い。まれに開花前に受粉を終える自家受粉をする例も知られている。スイカズラ科と近縁とされていたが,近年マチン科,リンドウ科などとの類縁が考えられている。
アカネ科には多くの有用植物がある。薬用としてはトコン(アメーバ赤痢の特効薬),ガンビールノキ(阿仙薬),カギカズラ(鉤を収れん剤にする),フタバムグラなどが利用され,染料としてはアカネの根,ヤエヤマアオキ,クチナシの実,チブサノキ(青・紫色染料)が,なめし皮染料や褐色染料としてはガンビールノキが使われる。またハクチョウゲ,アリドオシ,サンタンカ,ブバルジアなどを観賞用として栽培する。熱帯では果実を食用とするものもある。
執筆者:福岡 誠行
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アカネ科(APG分類:アカネ科)の多年草。山野に生えるつる草で、茎は四角柱状で、下方に曲がった刺(とげ)があり、他物に絡まる。長さ2メートルほどに伸び、よく枝分れする。葉は細長い心臓形。長い葉柄があり、4枚ずつ輪生するようにみえるが、うち2枚は托葉(たくよう)である。初秋に葉腋(ようえき)から花茎を伸ばし、白色の小花を多数開く。根はよく枝分れし黄赤色で、この色から「赤根(あかね)」の名が生まれた。本州、四国、九州、さらに朝鮮半島、中国大陸中部、台湾に分布する。
根にはプルプリンなどの赤色系色素が含まれ奈良時代から染色に用いられてきたが、染めるのに手間がかかることなどから、現在は秋田県鹿角(かづの)市など一部に伝わるにすぎない。日本に野生する近縁種にはアカネムグラR. jesoensis Miyabe et Miyakeや、オオキヌタソウR. chinensis Regel et Maack var. glabrescens Kitag.などがある。また地中海沿岸地域で栽培されるセイヨウアカネも、ヨーロッパで古くから染色に用いられてきた。漢方ではアカネの根を茜草(せんそう)または茜根(せんこん)といい、通経、浄血、利尿、解熱、止血、強壮剤などに用いる。
[星川清親 2021年5月21日]
昆虫綱トンボ目トンボ科アカネ属Sympetrumの総称。成熟した雄の体色が赤または橙黄(とうおう)色の種類が多く、狭義のアカトンボである。
[朝比奈正二郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…体が赤色のトンボは多数あるが,日本で狭義のアカトンボ(標準和名はアカネ)として扱われるのは,トンボ目トンボ科アカネ属Sympetrumに含まれる約20種を指す。もともと北半球の昆虫で,ヨーロッパからアジアの北方にわたって約35種,北~中央アメリカにかけて約10種が知られる。…
…01年以降子規の病状悪化により,場所を他に移して継続したが,その没後の03年《馬酔木(あしび)》を発刊,結社としての体制をそなえるに至った。以後左千夫を中心に運営され,08年1月《馬酔木》終刊のあとは三井甲之(みついこうし)編集の《アカネ》にゆだねられた。まもなく甲之と対立した左千夫は《アララギ》を創刊,《アカネ》との間に名義争いも生じたが,会の実質は前者に移ったといってよい。…
…根から赤色染料を採るために栽培されるアカネ科の多年草。原産地はヨーロッパから西アジアにかけての地域とされ,地中海沿岸で栽培されていた。つる性の茎は高さ50~80cm,よく枝分れし,短いとげがある。葉は広披針形で長さ3~5cm,茎に対生するが,それぞれに2枚の托葉がつくために6枚の葉が輪生しているように見える。夏から秋に,茎端や葉腋(ようえき)に花穂をつけ,淡黄色の小花が多数咲く。花は先端が5裂し直径5mmほど,おしべは5本である。…
…根から赤色染料を採るために栽培されるアカネ科の多年草。原産地はヨーロッパから西アジアにかけての地域とされ,地中海沿岸で栽培されていた。…
※「アカネ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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