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イタリア哲学 イタリアてつがく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

イタリア哲学
イタリアてつがく

本来的に「イタリア的」といえる哲学は 18世紀初頭の G.B.ビコに始る。それ以前のイタリアの哲学の歴史は,教父哲学スコラ哲学などのカトリック教会を中心とする哲学,あるいはルネサンスのように全ヨーロッパ的哲学の舞台であった。ビコは当時のデカルト哲学や啓蒙思想にみられる理性万能主義を排し,理性の自己反省の鏡として「歴史」を重んじ,近代歴史主義,さらにはイタリアの近代理想主義の祖となった。ビコ以後 19世紀前半までは,E.B.コンディヤックの感覚論 (G.D.ロマニョン,M.ジオーヤなど) ,あるいは実在論的観念論 (A.ロスミニ・セルバティ,G.ジョベルティなど) ,さらにヘーゲル主義 (A.ベラ,B.スパベンタなど) ,フランス,ドイツの哲学思潮が流入し主流を占めた。 19世紀末から 20世紀初頭にかけては,フランス流の実証主義 (P.ビラリ,R.アルディーゴなど) が盛んになったが,20世紀にいたり,新ヘーゲル主義より出発した B.クローチェ,G.ジェンティーレを代表とする新観念論 (イタリア観念論ともいう) が勃興し,海外にも深い影響を与えた。両者ともヘーゲル研究からマルクス研究を経ており,この傾向はのちに A.グラムシを育てることになる。第2次世界大戦後の哲学界は,新理想主義の超克の過程にあり,社会的側面を重視する傾向とカトリック哲学 (→ネオトミズム ) へ結びつく傾向などに分れ,他方では N.アバニャーノに代表される実存主義や分析哲学も盛んになり,マルクス主義の分野ではグラムシの伝統を継いで,構造改革思想を生んでいる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

イタリア哲学
いたりあてつがく

古代にはイタリア学派(ピタゴラス学派、エレア学派など)があり、中世のイタリアからは、とくにアリストテレスの論理学を西欧に導入したボエティウス(5世紀末~6世紀初頭)、スコラ哲学の祖といわれるアンセルムス(11世紀)、アウグスティヌス的伝統を発展させたボナベントゥラ(13世紀)、アリストテレス哲学を大胆に受容してスコラ哲学を大成したトマス・アクィナス(13世紀)など優れた思想家が輩出した。ついで近代初頭、いわゆるルネサンスの時期になると、強い影響力をもった多くの思想家が生まれ、イタリア思想史上もっとも華やかな時代が展開される。
 さかのぼっては、ダンテが『神曲』において現実の人間のドラマを描き出している。14世紀になるとプラトン、キケロ、アウグスティヌスの融合のなかで人間の幸福の問題を追求したペトラルカを祖とする人文主義は、サルターティ、レオナルド・ブルーニなどに受け継がれて、フィレンツェを中心に発展し、15世紀にはコジモ・デ・メディチの設立したプラトン・アカデメイアの中心人物として、プラトンのなかに真の哲学をみいだそうとするフィチーノ、広く古代の文典を研究し、人間の尊厳は自由意志にありとするピコ・デラ・ミランドラなどの出現をみる。
 一方、中世以来、自然研究を特徴とし、とくにアベロエス(イブン・ルシュド)の影響を強く受けていたパドバでは、16世紀初頭ポンポナッツィが人間霊魂の不滅に関する哲学的証明に疑問を投げて、論争を巻き起こし、サバレッラ、クレモニーニCesare Cremonini(1550―1631)などがそれに続く。感覚的経験を重んじ、世界霊を中心としたアニミズム的自然主義は、カルダーノ、とくにテレジオに端を発し、宇宙を無限と観じるブルーノ、『太陽の都』の著者カンパネッラへと連なる。さらにレオナルド・ダ・ビンチやガリレイは近代自然科学の先駆となり、その基礎を置いた。[大谷啓治]

近代

17世紀後半以降、イタリア哲学は他の諸国の流れに歩調をあわせ、あるいはそれに従うことになる。まずデカルトの幾何学的合理主義を批判しながら、人間認識にとって固有な対象は歴史の世界であると主張するビコは、その『新科学』によって歴史哲学の一つの方向を打ち出した。また主としてフランスから入ってきた啓蒙(けいもう)主義は、刑法学者として有名なベッカリーア、ピエトロとアレッサンドロAlessandro(1741―1816)のベッリ兄弟らによる『イル・カフェ』Il Caffを中心に北イタリアで勢力をもち、とくにコンディヤックのパルマ滞在(1758~1767)の刺激によって、全国にその支持者を得る。
 この啓蒙主義への反動は、伝統を擁護し、感覚論的、機械論的な諸学説に対立して、生命や精神を強調するロマン派的唯心論の形をとり、19世紀後半のイタリア思想界で指導的役割を果たすことになる。独自の「経験の哲学」を唱えるガルッピ、個々の人間の精神がもつ客観的価値を種々の主観主義に対して強調するロスミーニ・セルバーチ、この客観的価値を「実有」(神)と解釈するジョベルティなどがその代表者で、精神的な意味でイタリア統一を推進したマッツィーニも、伝統の継続としての進歩を唱える点でこの流れに属している。
 国家の統一と独立の実現に伴って、社会、経済、教育などの問題が関心を引き始め、また、科学上の発見や発明が産業に応用されて技術の時代の到来が告げられると、イタリアにおける実証主義の最初の宣言ともいうべき『哲学を愛するものへの招き』(1857)を書いたカッタネオやフェッラーリなどによって、イタリアにも実証主義が導入され、とくにアルディゴという力強い代表者を得て、この立場は19世紀末のイタリア思想界を風靡(ふうび)することになる。しかしこの時期にも、唯心論者は、実証主義の科学的決定論や形而上(けいじじょう)学に対する不可知論に反対して、キリスト教思想の基礎を擁護し、またナポリでは、スパベンタやベーラAugusto Vera(1813―1885)を中心にヘーゲル研究が進められ、イタリア哲学の新しい方向が準備されていた。[大谷啓治]

現代

20世紀初頭になると、実証主義への反動はいろいろな形をとって現れる。伝統的信仰の真理と近代哲学を妥協させようとするモデルニスムは、ミノッキSalvatore Minocchi(1869―1943)など最初の代表者を生み出した。プラグマティズムは1903年、フィレンツェで有名な『レオナルド』を創刊し、パピーニ、バイラーティGiovanni Vailati(1863―1909)、カルデローニMario Calderoni(1879―1914)などが寄稿している。新カント学派に属する哲学者も少なからず現れ、実証主義と論争しながら、とくに哲学史の分野で成果をあげる。新ヘーゲル主義的観念論は、やはり1903年ナポリで『批判』を創刊するが、この雑誌は長年にわたり、クローチェやジェンティーレの観念論の戦闘的機関誌となったものである。1907年デ・サルローによって創刊された『哲学的文化』は、哲学、心理学、自然科学などに関する諸外国の最新の学説を紹介し、いまや斜陽の実証主義のみならず、新しくおこってきた観念論に対しても論争を挑んだ。イタリアのカトリック思想は、ベルギーのルーバン大学などと歩調をあわせ、近代および現代の哲学とのかかわりを目ざして、1909年『新スコラ哲学雑誌』を世に送った。ラブリオラが学問としてのマルクス主義を導入したのもこの時期である。
 これらの動向のなかでもっとも力をもったのは観念論で、最初はクローチェの歴史主義的観念論が優位を占めるが、とくに第一次世界大戦後になると、ジェンティーレの活動主義的観念論が多くの哲学者をひきつけ、一世代を風靡することになった。両者の影響は強く、現在にまで及んでいるが、クローチェの影響が主として歴史、美学、文学批評、言語学で著しいのに対して、純粋に哲学の領域ではジェンティーレの影響が勝っており、活動主義の左派と右派ともよぶべき二つの大きな流れを生み出した。とくに内在論的な立場を徹底させようとする左派には、問題主義を提唱するスピリトUgo Spirito(1896―1979)、対話の哲学を展開するカロジェロ、そのほかサイッタGiuseppe Saitta(1881―1965)、ファツィオ・アルマイエルVito Fzio-Allmayer(1885―1958)、ロンバルディFranco Lombardi(1906―1989)などが属している。一方、右派は、内在論を克服して超越の復権を目ざすキリスト教的唯心論で、カルリーニArmando Carlini(1878―1959)、グッツォAugusto Guzzo(1894―1986)、ステファニーニLuigi Stefanini(1891―1956)、シャッカMichele Federico Sciacca(1908―1975)などを代表者とする。
 現在イタリアの哲学は以上の両派のほか、世界の哲学界を反映して、実存主義、マルクス主義、科学哲学その他多様な展開をみせているが、そのなかで新スコラ哲学などキリスト教的哲学は大きな役割を果たしている。キリスト教的哲学の中心の一つガララテ哲学研究所で編集された『哲学大辞典』(初版は全4巻で1957~1958刊行、第二版は全6巻で1968~1969刊行)はその一つの証拠である。この辞典は20世紀に出た哲学辞典のなかで質量ともに屈指のもので、イタリアばかりでなく世界的に評価されている。[大谷啓治]
『E・ガレン著、清水純一訳『イタリアのヒューマニズム』(1981・創文社)』

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