改訂新版 世界大百科事典 「クォーク」の意味・わかりやすい解説
クォーク
quark
物質の構成要素である原子は,原子核とそのまわりの電子でできており,原子核は陽子と中性子(まとめて核子と総称する)でできている。陽子と中性子およびそれらの間に交換されるπ中間子などは素粒子と呼ばれ,従来はこれ以上分割することのできない究極の粒子と考えられてきた。しかし,新しい素粒子が次々と発見されてその数が増えるとともに,M.ゲル・マン,G.ツワイクはこれらの粒子も複合体であり,さらに小さいクォークと呼ばれる超素粒子で構成されているとする説(クォーク説)を提唱した。クォークそのものが見つかったわけではないが(理由は後述),加速器を用いての実験などの結果は,このクォーク説を裏づけており,現在,クォークの存在は確実とされている。
従来,究極の粒子と考えられていた核子が点状の粒子でなく,構造をもつこと(言い換えれば複合体であること)は次のような事情で明らかになった。すなわち,電子を陽子で散乱させてみると,陽子のつくる電場が点状電荷のものと異なり,陽子の電荷が広がって分布していることがわかる。また陽子も中性子もディラックの理論から予想されるものと異なる異常磁気モーメントをもち,これも広がった領域に分布している。さらに核子は回転励起状態をもち,慣性モーメントが有限であることから,質量も有限の広がりに分布していることになる。その構造を調べるために,高エネルギーの電子や中性微子を衝突させてみると,核子がさらに小さい粒子でつくられていることがわかった。これがクォークである。たたき出されたクォークは直ちに数個の中間子に転化し,ジェットと呼ばれる粒子の束として観測される。
クォークの種類
現在までにクォークには6種類のものがあることが明らかにされている。クォークのうちもっとも軽いものはuとdと呼ばれ,陽子はuud,中性子はuddという構成,π⁺中間子はud(-は反粒子を表す),π0中間子はuūとddの混ざったものである。陽子の電荷が素電荷eを単位にして1,中性子は0であるから,uクォークの電荷は2/3,dクォークの電荷は-1/3である。ただし,このようなはんぱの電荷を検出する試みはいずれも失敗した。クォークは直ちに中間子などに転化し,単独の粒子としては存在しないと考えられる。すなわちクォークは素粒子の内部には存在するが,外には出てこない。これをクォークの閉込めという。
u,dのほかに少し重いsクォークがあり,その電荷は-1/3である。u,d,sの3種とその反粒子ū,d,sとから中間子をつくると9種類できるが,実際π中間子の仲間が9種存在し,また3種のクォーク(反粒子を含めて)から3個選ぶと10通りの組合せが可能であるが,実際,核子の仲間として10種の群が見つかっている。これらの事実はクォーク説を裏づけるものといえよう。1974年には電荷2/3のcクォークの存在が立証され,さらにその後電荷-1/3のbクォークの存在も明らかにされている。なお,理論の整合性からその存在が予想されていたさらに重い電荷2/3のtクォークについても,84年にそれらしいものが発見され,94年実験により確認されている。bクォークの質量は陽子質量の約5倍,cクォークの質量は約1.5倍,sクォークの質量は約1/3,uクォークおよびdクォークの質量はほとんど0である。クォークにはそれぞれ3種の異なるものがあり,赤,青,緑の色(カラー)の名をつけて区別している。すなわち,uクォークには赤いuクォーク,青いuクォーク,緑のuクォークがあり,他も同様である。これをカラー自由度という。色の違いは実験的に識別できるものではないが,自然界に存在する素粒子はすべて無色の組合せ(例えば赤,青,緑1個ずつ,あるいは赤と反赤)であるという原理が成り立つ。クォークという名前はゲル・マンがJ.ジョイスの小説《Finnegans Wake》の中の一節〈Three quarksfor Muster Mark〉から借用したものという。
→素粒子
執筆者:宮沢 弘成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報