日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンゴ礁」の意味・わかりやすい解説
サンゴ礁
さんごしょう
coral reef
熱帯や亜熱帯の浅い海に形成された、おもに造礁サンゴの遺骸(いがい)が集まってできた石灰質の岩礁や島。造礁サンゴは、赤道を中心に北緯30度から南緯30度に分布することがほぼ限定されており、水温は少なくとも20℃以上、通常25~30℃の海に生育している。水深は50メートル以浅であるが、とくに20メートル以浅を好み、濁りのない澄んだ海水域に良好に発達する。造礁サンゴ以外にも、石灰藻、貝殻、有孔虫の殻などの石灰質の岩礁や島もサンゴ礁の分類に入る。サンゴ礁の形成のためには、基盤となる岩礁が必要である。これは、火山島の場合もあれば、大陸棚の浅堆(せんたい)や非火山性の岩礁や、古いサンゴ石灰岩の場合もある。しかし、大河川の流入する沿岸帯は、泥質の懸濁物質がサンゴの生育を妨げてサンゴ礁の形成に適さない。また、サンゴは、適当な照度、酸素、栄養塩類を必要とするから、透明度の大きな澄んだ海水で、海水の流動の大きな外洋に面した海域での成長が著しい。
[豊島吉則]
サンゴ礁の分布
サンゴ礁は、このような生育条件にあう海域に限られ、赤道を挟んで南北にそれぞれ約30度の緯度の範囲に分布する。しかし、アフリカ西岸や南北アメリカ西岸には、寒流が卓越するため、分布範囲が狭くなる傾向がある。サンゴ礁がもっともよく発達するのは、中部・南部・西部太平洋であり、カリブ海、インド洋のモルジブ諸島やマダガスカル島付近の海である。
[豊島吉則]
サンゴ礁の種類
サンゴ礁の平面形には、四つの基本的なタイプのものがある。それは、(1)火山島などの海岸に直接接して形成された裾礁(きょしょう)、(2)島とサンゴ礁の間に礁湖とよばれる水域をもつ堡礁(ほしょう)、(3)中央部に島のみられないリング状の環礁、(4)円形または楕円(だえん)形のテーブル状のサンゴ礁からなる卓礁、などである。サンゴ礁が隆起すると、現海面よりも高い位置に隆起サンゴ礁(離水サンゴ礁)がみられ、また、サンゴ礁地域が著しく沈降すると、現海面よりはるか下位の海底に沈降サンゴ礁(沈下サンゴ礁)がみられる。
[豊島吉則]
サンゴ礁の成因
1835年にビーグル号で太平洋を航海したダーウィンは、タヒチ島の火山斜面から礁湖とサンゴ礁を見下ろして、その絵のような立体的風景に強い印象をもち、その成因についてのヒントを得ている。ダーウィンは、火山島が沈降するにつれて、サンゴが上方に成長して、裾礁から順次、堡礁、環礁を形成していくという結論に到達した。これをダーウィンの「沈降説」とよぶ。たとえばハワイ諸島においては、南東端に位置するハワイ島は活火山の島で、ほとんど谷が発達していない。北西方向の島々はしだいに古い火山島となり、侵食谷が深く刻まれ、裾礁がみられるようになる。オアフ島はその例である。そしてさらに北西の島では堡礁となり、最北西端のミッドウェー島では環礁となる。このような各種のサンゴ礁の配列の仕方は、ソシエテ諸島にも同じような傾向で認められ、注目されて沈降説の証拠とされた。しかし、各種のサンゴ礁は沈降地域のみならず隆起地域にもみられ、そこに環礁も発見されていることは、ダーウィンの沈降説のみでは十分説明できない。
氷河時代には、海面が世界的に下降し、海水温が低下し、サンゴ礁の形成は制約される。より温暖な間氷期や後氷期には、海面が上昇してサンゴ礁が上方に発達する。このようなことに着目したアメリカの地質学者デーリーの「氷河制約説」は、ダーウィンの沈降説を補完する有力な学説である。サンゴ礁の多くは複雑な海面変化や地盤運動の影響を受けている。カリブ海のライトハウス礁のブルーホールのように沈水溶食穴のみられるサンゴ礁はその一例である。
[豊島吉則]
サンゴ礁と卓越風
サンゴ礁の断面形をみると、卓越風の風上側に現世サンゴや礁原がみられ、その内側に漂礫(ひょうれき)原や柱状のサンゴ礁突起(ピナクル)群などが帯状に配列し、その間に砂が堆積している。この風下側の石灰質の砂の州(す)を州島(しゅうとう)またはサンゴ島(とう)とよぶ。ここにヤシ林が形成されるが、ハリケーンや台風時の暴浪によって破壊されることがある。
[豊島吉則]
サンゴ礁の微地形
サンゴ礁の外縁部は急斜して深海に達するが、内側にはしばしば礁湖をもつ。礁湖の深さは通常40~80メートルで比較的平坦(へいたん)である。サンゴ礁には、礁湖と外海とを結ぶ2、3か所の切れ目があって航路として利用され、潮口(しおぐち)とよばれている。砂浜の汀線(ていせん)付近には、石灰分を膠結(こうけつ)物として形成されたビーチロックbeach rockとよばれる、きわめて新期の波状岩がみられる。サンゴ石灰岩は溶食や波食によって、ノッチnotchとよばれる深いくぼみが海面付近に形成されることが多い。この形成速度は年間約1ミリメートル程度といわれている。
[豊島吉則]
生物
サンゴに共生する単細胞の褐虫藻が光を必要とするため、造礁サンゴ群集は海水が清澄で光量の多い浅所によく発達する。サンゴ礁群集は地球上でもっとも種が豊富と考えられており、さまざまな群体形をもつ色とりどりのサンゴ類が生育して海中林を形成するが、藻食性魚類の摂食が盛んなために大形海藻類の繁茂する藻場の発達は悪い。砂底には各種の海草が海草帯を形成することが多い。
植物は種子植物の海草類に多くの種類がみられ、海藻では緑藻類の割合が高く、イワヅタ類、サボテングサ類、カサノリ類が多く、紅藻類では石灰藻のサンゴモ類が豊富である。
生物の生活場所は変化に富み、水中にはプランクトンや魚類、岩礁上にはサンゴや海藻などの固着性生物、ウニ、ヒトデ、ナマコなどの棘皮(きょくひ)動物やタカラガイ、イモガイなどの腹足類、いろいろな甲殻類などの移動性底生動物がすみ、ホシズナなど有孔虫類も多い。石灰岩は軟らかいために、カイメン、ホシムシ類、シギノハシなどの二枚貝類など各種の穿孔(せんこう)動物がすみ、サンゴ礫(れき)が散在する転石帯にはクモヒトデ類が潜み、砂や泥底には貝類、多毛類、甲殻類などの種類が多い。生きた枝状サンゴの枝上や枝間には各種のサンゴガニやダルマハゼ類など多くの動物がすみ込み、群体奥部にはクモヒトデ、ウニ、エビなど隠れてすむ動物が豊富である。サンゴ礁魚類は色彩が鮮やかで美しい種類が多く、それらの形態、行動、生態の多様さも目を見張るばかりである。
サンゴ礁ではクマノミとイソギンチャク、サンゴやシャコガイと褐虫藻をはじめとして、数多くの生物間に巧みな共生関係が成立しており、生産性が高いこととともに種類数の多い群集が発達する基礎となっている。
[西平守孝]