翻訳|slogan
標語,合言葉などと訳され,特定の主張を広く人々に浸透させるために,その意図を簡潔に表現した言葉。その語源は,ゲーリック語のslua ghghairm(〈ときの声,集合合図の叫び〉の意)で,本来,スコットランド高地人などが危急のさいの呼集のためにあげた声であった。今日,スローガンは商業広告から交通安全,防犯,そして政治的領域にいたるまで使われている。一般にスローガンは,覚えやすく,口にしやすいということが重要であり,簡潔性,印象性,適時性などが重視される。韻や律をふむことや象徴的な言葉が用いられるのはそのためである。太平洋戦争中の〈欲しがりません 勝つまでは〉や〈ぜいたくは敵だ〉,1973年ごろの〈せまい日本 そんなに急いで どこへ行く〉などのスローガンは,その当時の時代風潮をうまくとらえ,人々の意識を一定の方向に動かすことに一役を担った。
しかし,スローガンは簡潔性や印象性を重視するために,論理的飛躍と欺瞞(ぎまん)を容易に犯しうる。したがって,人々がもつ関心を合理的に方向づけるというよりは,情緒的に訴え,繰り返すことによって,利害の対立を忘却させ,広範な大衆の動員をはかろうとする傾向をもつ。ヒトラーは〈この地上において,もっとも巨大な変革の原動力は,何時の時代でも,大衆を支配している学問的認識にあるというよりは,彼らを活気づけている熱狂,また往々にして彼らを駆りたてたヒステリーのなかにあった〉(《わが闘争》)として,大衆の情緒を利用する政治的スローガンを掲げ,幾度も繰り返した。また,政治的スローガンは,みずからの立場を主張することによって他を巻き込み,自己の勢力の拡大をはかることを目的とすると同時に,自己の勢力のより強固な結束をはかることを目的としている。しかし,社会の情報化が進むにつれて,人の注意をひく技巧的なキャッチフレーズも大量に出回り,スローガンとの区別が難しくなっている。
執筆者:下斗米 伸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「標語」と訳される。語源的には、スコットランド人たちが火急の際に使用した招集のための「ときの声」sluagh-ghairmを意味した。現在では、大衆に特定の行動をおこさせるために使われる宣伝文句のことをいう。そのために、それは、簡潔性、情緒性、適時性、新奇性、印象性、反復性、唱えやすさなどの特徴をもつ。今日ではこれはあらゆる領域で使用されているが、政治行動や運動の領域と商業広告の領域でもっとも重要なものになっている。しかしこのスローガンは、その性質からして二つの重要な問題点をもっている。第一にそれは、大衆の理性や合理的な認識よりも情緒や感性に訴える傾向があり、往々にして大衆の非合理性を社会的に増大させる結果になることが多い。第二にそれは、真理を問題にするよりも真理を隠蔽(いんぺい)してしまう傾向をもち、虚偽なるものを絶対視する結果を招来しかねない。
[矢澤修次郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)トライベック・ブランド戦略研究所ブランド用語集について 情報
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