現生人類を含む、直立姿勢を完成した脳の大きな人類。もともとギリシア哲学以来、人間の本質は英知の優れていることにあると考えられてきた。これに応じて、賢い人間という意味でこの名がある。18世紀中葉、リンネは動物分類表の作成にあたり、この名をもって人間の学名とし、霊長類のなかに位置づけた。
ところが19世紀後半にネアンデルタール人が発見されるに及び、これをホモ属に含まれる近縁種として、ホモ・サピエンスを現生人類に限った。その後、化石人類の研究が進むとともに、ヨーロッパ出土のクロマニョン人、シャンスラード人、グリマルディ人、中国出土の山頂洞人、柳江人、ジャワ出土のワジャック人などは化石現生人類ということで、ホモ・サピエンスのなかに入れられた。その特徴は、頸部(けいぶ)を含めた直立姿勢の完成、大きな脳、程度はさまざまだが退縮した顎骨(がくこつ)と歯、発達しない眉上弓(びじょうきゅう)があげられ、とくに頤(おとがい)の存在は歯槽(しそう)部の退縮によるものであるが、現生人類である証明とみなされるようになった。その文化は後期旧石器時代以降、中石器時代、新石器時代、金属器時代を経て今日に至る発展を遂げたとされた。同時にその優れた適応力により、ほとんど地球全体に分布するものとなった。また優れた音声言語能力がこの発展の原動力とみなされるに至った。
しかし、研究が深化するにつれ、ネアンデルタール人は表面的に現れた以上にその道具製作の能力が高く、知能が優れ、死者を弔うほど情緒が豊かであることが判明するに至り、改めて脳の大きなことが確認され、その結果、ネアンデルタール人もホモ・サピエンスであるとみられるに至った。つまり、中期旧石器文化以後の文化はホモ・サピエンスに属するものとなった。なお、従来からの現生人類をいうときはホモ・サピエンス・サピエンス、ネアンデルタール人はホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスと、3名法で表すこともある。ちなみに、脳の大きさに関する限り、ネアンデルタール人以後、人類は進化していないといわれるのも、その間の消息を述べているといえる。
[香原志勢]
現存している人類種,現生人類のこと。私たち自身の種であり,人類の進化区分では新人に当たる。およそ20万年前にアフリカでホモ・ハイデルベルゲンシスから進化し,8万~5万年ほど前から主として文化的な適応によって世界中に急速に拡散し,その過程でいくつかの人類種を絶滅させ,今では地球上のあらゆる環境に住んでいる。サピエンスの模式標本は決められていない。古生物学者コ-プE.D.Copeによる遺骨を模式標本にする試みがあったが,一般の認知を得ていない。一般動物では亜種に相当するサピエンスの地域集団は人種と呼ばれ,それらの違いは拡散の過程および現在の気候環境に対する適応を反映していると考えられる。サピエンスは,1万年ほど前から農耕牧畜を開始し,文明を発祥させ,さらに工業革命を起こして,急激に増殖した。資源を枯渇させ,環境を破壊して,食糧不足を起こし,近い将来の衰退が心配されている。
→新人
執筆者:馬場 悠男
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18世紀の植物学者C.リンネが「自然の体系」のなかで二命名法による体系的な生物分類を行ったときに人類に与えた学名。知恵のあるヒトを意味する。現在では現生の全人類ばかりでなく,旧人以降の化石人類もすべてホモ属サピエンス種に属すると考えられている。旧人と新人とをわけるときは,前者を古型ホモ・サピエンス,後者を現代型ホモ・サピエンスとよぶことがある。また亜種のレベルで,ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス,ホモ・サピエンス・サピエンスとよびわけることもある。
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…人類進化の最終段階の人類をさす新人類neanthropic manの略称。現生人類modern manともいう。その形態特徴は,時代的に先行する猿人,原人,旧人段階の人類とは明らかに異なり,Homo sapiens sapiens(ホモは〈人〉,サピエンスは〈賢明な〉の意)という学名が与えられている。今から約3万年前,後期更新世のウルム第1亜間氷期から現在にいたる間に地球上に生息した人類は,すべて新人の範疇に入るが,更新世の新人,すなわち後期旧石器時代人は化石現生人類Homo sapiens fossilisと呼ばれ,それ以後の新人と区別されている。…
※「ホモサピエンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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