反射(生体)(読み)はんしゃ(英語表記)reflex

翻訳|reflex

日本大百科全書(ニッポニカ)「反射(生体)」の解説

反射(生体)
はんしゃ
reflex

生体に加えられた刺激が、一定の伝導経路を介して、特定の応答をおこす現象をいう。とくに、神経系を介して一定の反応が意志など高度の統合作用と関係なくおこる場合をさし、その経路を反射弓という。

 動物の場合、反射の起源は単細胞生物の運動制御機構にみることができる。たとえば、ゾウリムシが異物に衝突すると、その場所に受容器電位に相当する膜電位変化が生じ、それが細胞全体に広がり、細胞全面に分布する繊毛の打つ方向を逆転させ後退する。このいわゆる逃避反応は、多くの動物が危険を知らせる刺激に対して示す逃避反射の原型と考えられる。危険から逃げるためには、瞬間的に統制のとれた行動をとる必要があり、多くの動物が速い伝導経路による逃避反射をもっている。とくに伝導速度の大きい有髄神経をもたない無脊椎(せきつい)動物では、特別に径の太い巨大繊維を介して逃避反射がおこるものが多い。穴から半分出ているミミズが、頭部を刺激されるとすばやく穴に潜る反射は、ミミズがもつ3本の巨大神経繊維のもっとも太い1本が興奮したときにおこる。このように、特定の行動をおこす運動ニューロン群の協調した活動の引き金を引くニューロンを司令ニューロンという。いろいろの動物の多くの反射が特定の司令ニューロンの活動を介しておこることが知られている。一つの反射が、それだけで終わる1回の応答で完了することも多いが、また異なる次の反射をおこすこともある。これを反射の連鎖という。反射の連鎖によって、歩行や産卵行動など、より複雑な行動が形成される。動物の体には、関節の開角や筋肉の長さ・張力など、自己の体の状態を知るための自己受容器があるが、多くの運動は、その入力による反射(自己受容反射)を介した調節を受けている。しかし、バッタの飛翔(ひしょう)においては、前翅(ぜんし)と後翅の運動の協調は、はねの実際の動きとは関係なく中枢神経系でつくられ、自己受容器からの入力は、はねを打つ頻度の調節に関係しているといわれている。

[村上 彰]

ヒトにおける反射

ヒト生理学における反射とは、感覚受容器から求心性神経によって伝えられた神経インパルス(インパルス。伝導性の電気的興奮)が、中枢神経内のどこかで意志とは無関係に切り替えられて遠心性神経に伝えられ、効果器にその応答が現れる現象をいう。インパルスの通過する経路を反射弓、切り替えの場所を反射中枢とよぶ。切り替え(シナプス接続)が1回だけ行われる反射を「単シナプス反射」、介在ニューロンがかかわって2回以上シナプスを変える場合を「多シナプス反射」という。反射においては、シナプスの数が多くなるほど、反射の抑制や反射の拡延などといった複雑な性質が認められる。なお、シナプスとは、2個以上のニューロン(神経細胞)が間隙(かんげき)を隔てて接触し、その間に情報伝達が行われる部位をいう。

 反射は、反射中枢がどこにあるかによって、脊髄(せきずい)反射、延髄反射、中脳反射などに区別される。また、効果器が骨格筋である場合には体性反射とよばれ、効果器が心臓、血管、胃腸などの内臓臓器である場合には内臓反射とよばれる。反射の機構がもっとも詳しく研究されているのは脊髄反射であり、その代表的なものとして伸張反射と屈曲反射がある。

[鳥居鎮夫]

伸張反射

伸張反射とは、骨格筋が急速に引き伸ばされると、筋紡錘がただちに興奮して、引き伸ばされた筋が収縮する反射である。この伸張反射は、受容器が効果器である筋の中にあるため、自己受容反射または固有反射ともよばれる。また、臨床医学では、伸張反射をおこさせるために腱(けん)をたたく方法が用いられることから、腱反射の名でよばれることもある(膝蓋(しつがい)腱反射、アキレス腱反射など)。しかし、腱反射においても、その受容器は腱にはなく、筋紡錘が引き伸ばされて伸張反射がおこっているわけである。なお、腱にも伸張受容器はあるが、これが刺激された場合には、伸張反射はおこらず、筋はむしろ抑制されることとなる。

 伸張反射はすべての骨格筋にみられるが、とくに重力に拮抗(きっこう)して直立姿勢を保つときに働く抗重力筋においてよく発達している(ただし、声帯筋だけは例外で、まったく伸張反射の受容器がない)。伸張反射の場合、筋紡錘は筋の長さの検出器として働いている。つまり、筋が引き伸ばされると、求心性インパルスが脊髄に送られ、伸張反射をおこしてその筋を収縮させるため、引き伸ばされた筋は元の長さに戻ることとなる。したがって、伸張反射は筋をつねに一定の長さに保つように働いているといえる。

 骨格筋に存在している遠心性神経線維には、直径の太いもの(α(アルファ)線維)と細いもの(γ(ガンマ)線維)との2種類がある。α線維は筋線維に行く運動ニューロンであるが、γ線維は筋紡錘内の錘内筋線維を支配している。このため、γ線維を刺激すると錘内筋線維の両極部に収縮がおこり、中央部の張力受容器が引き伸ばされる。たとえば筋に随意収縮がおきると、γ線維もいっしょに興奮するため、求心性インパルスが脊髄に向かって発射されていく。こうした仕組みによって、骨格筋の運動は円滑に進行していくこととなる。

[鳥居鎮夫]

屈曲反射

伸張反射が、筋を引き伸ばすと、その筋が収縮するのに対し、四肢の皮膚を強く刺激すると、それと同じ側の屈筋が収縮して、刺激から逃避する反射がおこる。これを屈曲反射(屈筋反射)という。この反射は、危害から逃れるのに役だつことから、侵害受容反射、または危害反射、防御反射などともよばれる。屈曲反射がおこるときには、屈筋が収縮するばかりでなく、その拮抗筋(伸筋)の緊張も下がる(これを拮抗性抑制という)。こうした仕組みによって身体の屈曲運動は円滑に行われるわけである。臨床医学で使われるおもな屈曲反射としては、腹壁の皮膚をこすると腹壁筋が収縮する腹壁反射、大腿(だいたい)内側の皮膚をこすると挙睾(きょこう)筋の収縮によって睾丸(こうがん)が挙上する挙睾筋反射、足底外側の皮膚をこすると足指が足底に向かって曲がる足底反射などがある。このほか、病的反射としてバビンスキー反射(バビンスキー現象)がある。これは、足底反射と同じように足底の外側をこすると、母指(親指)が逆に足の背に向かって曲がり、他の足指は広がるというものである。原因は錐体(すいたい)路の傷害である。しかし、この反射は、生後3、4か月の乳児においては生理的に認められる。

[鳥居鎮夫]

その他の反射

内臓にある受容器からのインパルスによって内臓に引き起こされる反射を内臓反射といい、その反射中枢は主として延髄にある。たとえば、頸(けい)動脈洞にある圧受容器が血圧の変化を検知すると、インパルスは迷走神経を介して延髄に送られ、反射的に血圧を調節する。これを頸動脈洞反射という。このほか、排尿反射、排便反射、嘔吐(おうと)反射なども内臓反射である。また、内臓からの求心性インパルスによって体性運動系に引き起こされる反射もある。たとえば、肺に分布する迷走神経求心性線維からの情報は、呼吸中枢に伝えられ、さらにそこから呼吸筋(肋間(ろっかん)筋と横隔膜筋)に送られて呼吸運動を行うなどである。逆に、体性神経求心性線維からのインパルスによって内臓に引き起こされる反射もある。光刺激によって瞳孔(どうこう)が縮小する対光反射などがこの例である。なお、目に関するいろいろな反射の中枢は中脳にある。

 反射といえば、反射弓で示されるように中枢が関与するが、末梢(まっしょう)神経のなかで、一見、反射のような過程をおこすものがある。これを軸索反射という。たとえば、皮膚を刺激して血管拡張がおこる経過は、反射に似ているが真の反射ではない。これは、感覚線維の末端が枝分れして血管にも達しているため、反射中枢を介さずに末梢神経線維の軸索側枝を通って血管を拡張させるものである。

[鳥居鎮夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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