① 中にとりこめて周囲をふさぐこと。回りをとり囲むこと。また、そのもの。
※玄玉(1191‐92頃)天地上「しめはへてしづのあらまく小山田の春のかこひは霞成りけり〈俊恵〉」
② 屋敷などを囲う塀(へい)、垣根などの造作。
※堀河百首(1105‐06頃)雑「かこひなき柴の庵はかりそめのいなばぞ秋のまがきなりける〈源国信〉」
③ 寒さを防ぐなどのために植物に覆いをすること。また、そのもの。
※甲陽軍鑑(17C初)品五「喩ば牡丹芍薬を庭にうへて見るに、冬のかこひを能くして春養いをすれば」
④ 茶室の
一種。元来は広い部屋の
一部分を囲って茶席としたものだが、のちには、独立した家屋の茶室をも意味するようになった。茶道の開祖珠光
(しゅこう)が、
足利義政の時代に、京都東山慈照寺の四畳半座敷を方丈になぞらえ、屏障
(へいしょう)でかこいをしたところから起こったともいう。
※咄本・
醒睡笑(1628)跋「又かこひにて茶をたてて給うたるしほらしさ」
⑤ 野菜・果物などをその出回りの時期の過ぎたあとまで貯えておくこと。また、そのところ。
※精進献立集二篇(1824)二三番「水物〈略〉かこひのびわ、あらひて」
⑥
品物を使ったり売ったりしないでとどめておくこと。買い置きをすること。
※俳諧・大坂檀林桜千句(1678)第五「あがりまたるる物は買置〈如昔〉 囲ひよりつつけてはなしはなしては〈本秋〉」
⑦
賭博の一種「
きんご」で一四になって札を伏せておくこと。転じて一四の数。〔
随筆・嬉遊笑覧(1830)〕
⑧ (初め揚げ代が銀一四匁だったので、⑦から転じた称という) 江戸時代、京都島原、大坂新町の遊郭で、太夫、
天神に次ぐ第三級の遊女。のちに銀一五匁になって、「きんご」の最高点が一五なので、「きんご」ともいうようになり、銀一六匁になって、九九
(くく)で四四
(しし)が一六になるから鹿
(しし)の字をあて、「鹿恋」「鹿子位」などと書くようになった。鹿職
(かしょく)。鹿子位
(ろくじい)。
鹿州。もみじ。
※評判記・難波物語(1655)「此ほどのはらゐせに、
わきへちらして、かこひをはなしたるものは天神をはなし」
※浮世草子・好色訓蒙図彙(1686)上「鹿恋(カコヒ)は十六匁、四々の十六といふ九々より、鹿恋といひそめしとかや」
※雑俳・柳多留‐七(1772)「囲(かこイ)とはいへど大きなばれおんな」
⑩ 歌舞伎で舞台を広く使うため、大臣柱の外側の部分(上手は揚げ幕の部分、
下手は黒簾
(くろみす)の前)を囲う張り物。
[補注]⑧の由来については「むかしかこひとつけしいはれは、太夫天神にくらべ見るに、万貧なる事のみ、〈略〉万わびたるさまにて、お茶たてらるるというゑんによりて、かこひといふとかや」〔好色由来揃〕、また「鹿恋」の字については「閑
(しづか)な処より
深山の鹿のことにかかり、小男鹿の恋るといふこころより鹿恋とかきやす」〔街能噂〕などの説もある。