翻訳|geochemistry
地球科学の一部門として、化学的な考え方や技術・方法を用いることによって地球の各部分に対する研究を行い、地球の全体像を解明しようとする学問。地球物理学と比べて地球化学の大きな特色は「物質」そのものを研究対象として取り扱うことで、化学分析が主体となり、一つの系内部や別の系との間の化学反応や化学平衡に関する問題などについても研究を行うことである。
[脇田 宏]
地球化学や地球物理学、地質学などから得られる知見を総合して初めて整合性のある地球の姿が得られる。地球化学のもっとも重要な研究課題は地球の起源や進化に関する諸問題である。そのために、地球を構成する物質についての知識や、原始地球の集積されていく過程や形成の過程を解明することが必要であり、それと関連して、地球化学は、太陽系の物質(隕石(いんせき)や月の岩石、宇宙塵(じん)など)の研究から発展した「宇宙化学」や「惑星化学」などの分野をも包括する。地球は大気圏、水圏、岩石圏(リソスフェア)に大別することができ、さらに生物圏がある。地球化学的研究によって、地球の各部分を構成する物質の化学組成、同位体組成、さまざまな化学種の存在度や分布状態、それらの移動・循環の動態、酸化還元状態の推移や系内・系間の相互作用が明らかにされ、各系の進化に対する時間的尺度が得られる。
大気圏では、大気の起源と進化、微量成分およびエーロゾル(浮遊微粒子、煙霧質、エアロゾルともいう)を考慮した大気組成の動態、化学・光化学反応、気体―粒子間の変換過程、自然的・人為的変動要因とその効果や影響などがおもな研究課題となる。大気圏と地球表面の75%を占める水圏との相互作用は、大気中の炭酸ガス(二酸化炭素)などのように地球の「温室効果」あるいは「冷却効果」と関連性をもち、今日の大きな問題となっている。水圏は陸水と海洋とに区分できる。陸水については、海洋への供給源として、また、風化・侵食による影響、地すべり災害、あるいは水資源の問題とも関連して化学的作用の解明が重要である。海洋は、起源と進化、海水の化学組成、深海を含めた海洋循環、海水中の物質の循環、堆積(たいせき)環境、海水―岩石相互作用、熱水反応、海底温泉、海底火山活動、鉱床の形成などと関連して、岩石圏の研究とも密接に結び付いてくる。岩石圏ではマントルと地殻との相互作用が主要な問題となる。マグマの生成、進化に関する機構の解明、元素の分配、高温・高圧状態での化学反応など基礎的な研究、岩石・鉱物を対象とした多岐にわたる研究がある。また、地殻は火山の噴火、地震の発生など人間の社会生活にも大きな影響を与える場であり、地殻内部での化学変化、地下水のダイナミックス(移動・循環・変質など)に関する研究や観測から、災害の軽減を目ざした領域も開かれている。文明の発達に伴い解決が急がれている環境の悪化、公害などの防止を目的として社会地球化学的研究も行われている。資源問題に関連して、鉱床、石油、天然ガス、地熱などの探査や研究も地球化学の分野である。
外国の著名な地球化学者としては、クラーク数として知られる地表付近における元素存在度の推定を試みたアメリカのF・W・クラーク、岩石中の元素の分配がイオン半径と電荷に支配されることを示したノルウェーのV・M・ゴルトシュミット、隕石の研究から宇宙化学を発展させたアメリカのH・C・ユーリーなどがいる。日本では柴田雄次(しばたゆうじ)が先導的研究を始めた。
[脇田 宏]
『半谷高久・一国雅巳他著『地球化学入門』(1988・丸善)』▽『兼岡一郎他著『地球化学』(1989・講談社)』▽『藤原鎮男編『地球化学の発展と展望』(1997・東海大学出版会)』▽『日本地球化学会監修『地球化学講座』全8巻(2003~2010・培風館)』▽『野津憲治著『宇宙・地球化学』(2010・朝倉書店)』
地球全体と地球の構成部分を化学的に研究する学問分野で,地球科学の中で一つの柱となる分野である。隕石や月試料など地球外物質を扱う宇宙化学も含めて地球化学と称することも多い。歴史的にみると,19世紀には岩石や鉱物,温泉水の分析が行われ,新元素発見にも寄与したが,学問としての体系化には至らなかった。なお,〈地球化学〉という用語は,ドイツのC.F.シェーンバインにより,1838年初めて用いられた。20世紀の初頭にアメリカのクラークF.W.Clarke,ノルウェーのV.M.ゴルトシュミット,ソ連のベルナツキーVladimir Ivanovich Vernadskii(1863-1945)らにより体系化され,地球化学の基礎が築かれた。日本の地球化学は柴田雄次によって始められ,1926年,国民新聞に〈地球化学〉という新語が初めて紹介された。
地球化学では,地球およびその構成部分に存在する元素,同位体,化学種(化合物,イオン種など)の分布,移動,変化を空間的,時間的に取り扱い,それらを支配する法則や原理を見いだす。全地球的な問題として,地球の化学組成,地球の起源と層状構造の形成,大気や海洋の起源と進化,地球上での化学進化と生命の起源などは,地球化学の扱う重要なテーマである。個別の対象としては,岩石,造岩鉱物,鉱床など固体地球,海洋,河川,湖沼,雪氷雨,地下水,温泉水など水圏諸成分,大気,火山ガス,天然ガスなど気体成分,石油・石炭を含めて化石生物や現生生物など多岐にわたる。地球化学では過去から現在にわたる地球の変化を扱うので,地球構成物質の年代測定も重要なテーマである。自然現象の未来を予測する観点で,火山噴火予知や地震予知も地球化学的手法で行われている。近年では,人工的な地球の汚染を扱う環境化学も地球化学の一分野となりつつある。
地球化学は,岩石鉱物学,地質学,地球物理学など他の地球科学と重なっている部分も多く,分析化学の手法を応用し,無機,有機,物理化学の考え方を応用する点で,一つの学際領域といえる。
執筆者:野津 憲治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地球を研究対象とする自然科学の一部門.とくに化学的手法を用い,地球全体および各部分の化学組成,元素の存在度,元素の地球化学的分配,地球表面での岩石,鉱物,生物,天然水などの研究から,大自然の化学像の全容と,その詳細を描き出そうとする学問.地球だけでなく太陽系,さらに広く全宇宙を含めての化学的研究をいう場合もある.最初に体系づけたのはF.W. Clark(クラーク),V.M. Goldschmidt(ゴルトシュミット)であり,20世紀初頭からである.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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…またシリコーンに代表されるケイ素高分子も,20世紀に入ってキッピングFrederic Stanley Kipping(1863‐1949),ロショーEugene G.Rochow(1909‐ )らによって開発された。 化学の多様化の例として地球化学,宇宙化学の例を挙げることができる。〈地球化学〉という語はすでに1838年C.F.シェーンバインによって用いられたが,19世紀末から20世紀初めにかけてのクラークFrank Wigglesworth Clarke(1847‐1931)は,地殻中の元素の量の標準値を求めた(クラーク数)。…
※「地球化学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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