(読み)じつ

精選版 日本国語大辞典 「実」の意味・読み・例文・類語

じつ【実】

[1] 〘名〙
① いつわりでないこと。ほんとうのところ。まことのもの。事実。⇔虚(きょ)
※玉葉‐承安二年(1172)一二月二二日「君不食子細、人又不実、衰世也」
※太平記(14C後)一四「尊氏が不義叡聞(えいぶん)に達すと雖ども、未だ其の実(ジツ)を知らず」 〔易経‐泰卦〕
② 仏語。世間の真実に対して、特に出世間の真実をいう。仏に具現される究極不変の真実。
※勝鬘経義疏(611)歎仏真実功徳章「真実者聖体円備非偽曰真。至徳凝然無虚曰実」
実体。「名」に対していう。
※菅家文草(900頃)五・哭田詩伯「自是春風秋月下、詩人名在実応無」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)仙台「且紺の染緒つけたる草鞋二足餞(はなむけ)す。さればこそ風流のしれもの、爰に至りて其実を顕す」 〔孫子‐虚実〕
④ 結果。成果
今昔(1120頃か)二〇「俄(にはか)に大魔障出来て妨ぐるは、功徳の実なれば」
まごころ。実意。
※中華若木詩抄(1520頃)下「軽薄は、字なりは、軽く薄なり。人の軽忽にして、実もなく、をちつかぬありさま也」
※評判記・難波立聞昔語(1686)竹嶋幸左衛門「好色も人よりこゑてすくといふやつしも実も人に越つつ」
⑦ 数学用語。
(イ) 被乗数被除数のこと。⇔。〔ロドリゲス日本大文典(1604‐08)〕
(ロ) 実数であること。
⑧ 和算で、天元術の定数項のこと。
[2] 〘形動〙
① 真実であるさま。また、実際的なさま。現実的なさま。
日葡辞書(1603‐04)「Iitna(ジツナ) coto(コト)〈訳〉 真実の事」
※浮世草子・傾城禁短気(1711)三「よい所へ嫁入りする、兼而の心がけに、かく金銀を欲しがるかと思へば、さふした実(ジツ)な欲にもあらず」
誠実であるさま。まごころのこもっているさま。
※浮世草子・好色一代女(1686)二「実(ジツ)なる筆のあゆみには自然と肝にこたへ其人にまざまざとあへるここちせり」
[3] 〘副〙 本当に。まことに。真実に。→実に
洒落本・通人三国師(1781)発端「実(ジツ)おめへのやうに何によらず世話をゑゑてくんなはる人はねヱ」

ざ‐ね【実】

〘接尾〙 「さね(実)」の変化した語。
根本のもの、原物の意を表わす。
古事記(712)上「先に生れし三柱の女子(をみなご)物実(ざね)(いまし)が物に因りて成れり。故(かれ)、乃ち汝が子ぞ」
② まさしく実体そのものであることを表わす。
書紀(720)景行四〇年一〇月(北野本南北朝期訓)「爰(ここ)日本武尊、主神化虵(かみサネなれるをろち)と云ことを知りたまはずして謂(のたま)て」
③ ある語について、その中の主たるものである意を表わす。
伊勢物語(10C前)一〇一「うへにありける左中弁藤原の良近といふをなむ、まらうどさねにて、その日はあるじまうけしたりける」

じち【実】

〘名〙 (形動) 事実。真実。まこと。じつ。また、まことであるさま。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「此の事じちに定まりなば、又の日法師になりなん」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「じちの母君よりも、この御方をばむつまじき物に、頼みきこえ給へり」

じっ‐・す【実】

〘自サ変〙
① 充実する。空白が充たされる。
② 意図がみのる。成果があがる。
※史記抄(1477)一一「上は喩ぞ。此は実したぞ」

み‐な・る【実】

〘自ラ四〙 実がなる。みのる。
※書紀(720)推古二五年是歳(岩崎本訓)「五穀(たなつもの)(ミナレ)り」

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デジタル大辞泉 「実」の意味・読み・例文・類語

じつ【実〔實〕】[漢字項目]

[音]ジツ(慣) [訓]み みのる まこと
学習漢字]3年
〈ジツ〉
草や木のみ。「果実結実綿実油
中身が詰まる。内容がみちる。「充実
中身。内容。「内実名実有名無実
まごころ。まこと。「実直質実誠実忠実不実
そらごとでない。本当。本当の事柄。「実演実感実業実験実現実行実際実証実績実態実弾実物実務実用実力実例実生活確実現実故実史実事実写実真実切実如実
血がつながっている。「実家実兄実母
〈み〉「実生みしょう花実
[名のり]これ・さね・ちか・つね・なお・のり・ま・みつ・みる

じつ【実】

[名]
うそ偽りのないこと。真実。本当。「のところ」「を言うと」「の子」⇔きょ
内容。実体。実質。「名を捨ててを取る」
誠実な気持ち。まごころ。「のある人」
実際の成績。充実した成果。実績。「改革のを上げる」
珠算で、被乗数。または、被除数。→
[副]まことに。本当に。
「―うしても出家は遂げられんか」〈円朝真景累ヶ淵
[形動ナリ]現実的なさま。また、真心のこもっているさま。
「かく金銀を欲しがるかと思へば、さうした―な欲にもあらず」〈浮・禁短気・三〉
[類語]2中身実質実体内実内容3真心誠意真情誠心本当

み【実/子】

《「」と同語源》
植物の種子果実。みのり。「花が咲いて―がなる」
汁の中に入っている肉や野菜の類。「味噌汁の―」
内容。中身。「―のない議論」「花も―もある取り計らい」
[類語](1果実木の実草の実青果/(2材料たね浮き実加薬薬味

さ‐ね【実/核】

《「」の意》
果実の中心にある堅い部分。種。
板と板をつなぎ合わせるとき、一方の板の側面に作る細長い突起。
陰核。
障子や壁の下地となる骨組み。壁下地。
根本のもの。実体。
「学問し候ふべき器量などのあるを後世者ごせぢゃの―と申しあひて候ふなり」〈一言芳談
[類語]種子種物種皮菜種

ざ‐ね【実/核】

[接尾]《「さね」の音変化》名詞に付く。
根本のもの、そのものとなる意を表す。
「先にれし三柱の女子をみなごは、物―いましが物に因りて成れり」〈・上〉
その中の主となるものであること、特に重んじるものであることの意を表す。
「上にありける左中弁藤原の良近まさちかといふをなむ、まらうど―にて」〈伊勢・一〇一〉

じち【実】

真実。事実。じつ。
「―には似ざらめど、さてありぬべし」〈・帚木〉

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百科事典マイペディア 「実」の意味・わかりやすい解説

実【み】

果実ともいう。種子植物の花が発達してできたものの総称。受粉後ふつう子房が発達してでき,中に胚珠が生長した種子を入れる。子房をつくる心皮は受精後は果皮といい,果実は果皮の性質から,幾つかの型に分けられる。果皮の厚いものを多肉果,薄いものを乾果という。多肉果は果皮の最内層が堅い核をつくる石果(核果とも。モモ),核のない水分の多い液果(ブドウ),ナシ状果(ナシ),ウリ状果(ヘチマ)などに分けられる。乾果は果皮が割れるかどうかによって,閉果と裂開果に分けられる。閉果には痩果(そうか)(タンポポ),穎果(えいか)(イネ),翼果(カエデ)などがあり,裂開果には豆果(ダイズ),【さく】果(さくか)(スミレ,カタバミ)などがある。以上は1個のめしべをもつ花からできる単果であるが,2個以上の離生めしべをもつ花に由来する複合果(モクレン,キイチゴ),多数の花にする由来するが見かけ上1個の果実を構成する集合果(イチジク,バラ)がある。また子房が発達してできる真果に対し,花の他の部分(花托,おしべ,萼(がく))が加わってできるものを偽果という区別の仕方もある。バナナ,ウンシュウミカンなどのように種子を作らぬものを,普通の両性結果に対して,単為結果という。→果物(くだもの)

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世界大百科事典 第2版 「実」の意味・わかりやすい解説

み【実 fruit】

果実ともいう。花が受粉・受精したあと,主としてめしべの子房が発達してできるもので,子房の内部では胚珠が生長して種子をつくる。それゆえ実は成熟した花ともいえる。被子植物だけに発達した器官で,熟すとさまざまな方法で種子を散布させる。このため実の形,大きさ,色,裂開の仕方など形態学的にたいへん変化に富んでいて,実を正確に定義することはきわめて難しい。狭義には子房の発達したものであるが,萼,花托など子房以外の部分が残存し,発達したものも多く,これらのものも広義には実と呼ばれる。

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世界大百科事典内のの言及

【虚実】より

…〈虚〉を実体のないもの,うそ,偽り,〈実〉を実体のあるもの,まこととみる一般的な考え方と,〈虚〉は超越的な存在根拠であり,〈実〉はその具体的な現れであるという《荘子》風の考え方とがある。中国では古く《荘子》関係の思想書にこの言葉が見られ,以後詩文,書画,医学,兵学等の分野でもしばしば用いられた。…

【面子】より

…この〈礼〉の外面的要素が強調されたものが面子の重視に結びつくのである。いま一つは,春秋戦国期から存在する文(あるべき理想形)と実(現実)の二元論的思考である。《春秋》の記事において現実には天子の軍が敗北したのに,それをあるべからざることとして表現方法を変えるのは,面子の重視であり実を認めつつ文に固執するものにほかならない。…

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