市川団十郎(9世)(読み)いちかわだんじゅうろう[きゅうせい]

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「市川団十郎(9世)」の意味・わかりやすい解説

市川団十郎(9世)
いちかわだんじゅうろう[きゅうせい]

[生]天保9(1838)
[没]1903.9.13.
歌舞伎俳優。屋号成田屋。7世市川団十郎の子。6世河原崎権之助の養子となり,初め1世河原崎長十郎を名のった。容姿音声に恵まれ,立役女方を兼ね,明治劇壇の巨星として俳優の社会的地位を向上させた。活歴物創始,また新歌舞伎十八番制定。5世尾上菊五郎,1世市川左団次とともに「団菊左」と称された。

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世界大百科事典(旧版)内の市川団十郎(9世)の言及

【演劇改良運動】より

…江戸時代に悪所とみなされた芝居に対して,明治初年から20年代にかけて試みられたさまざまな改良運動をいう。明治政府の欧化政策や社会各分野の新時代の気運に応じて,まず興行者の12世守田勘弥と9世市川団十郎が,依田学海らの協力を得て,歌舞伎を高尚な演劇に革新することをめざした。有職故実家による史実や時代考証の重視,道徳的規範にのっとった人物像の設定など,いわゆる〈活歴劇〉がそれで,1878年6月,勘弥の新富座開場に際して団十郎は《松栄千代田神徳(まつのさかえちよだのしんとく)》を上演したが,民衆の支持を得られなかった。…

【活歴物】より

…歌舞伎狂言の一系統。明治10年代以降9世市川団十郎を中心に行われた歌舞伎の革新運動のなかで,旧来の荒唐無稽な時代物でなく,史実によって脚色し時代考証による扮装・演出に重きをおいた時代物の作品群をいう。団十郎のこの運動には1872年(明治5)に新劇場を新富町に建設して旧制度の打破を試みた興行師の12世守田勘弥,作者界の第一人者河竹黙阿弥らが協力した。…

【歌舞伎】より

…〈事(こと)〉と呼んだ,演技・演出の類型が数多く形成された。江戸では,初世市川団十郎が創始したとされる荒事(あらごと)が,武士階級を中心に形成された新興都市の荒々しい気風に合致して喜ばれ,非常な人気を獲得した。一方,京都では,初世坂田藤十郎を代表として,初期歌舞伎の傾城買の狂言の伝統を受け継ぐ和事(わごと)の演技様式が確立する。…

【芸談】より

…近代には,〈芸談〉が読み物の一種として歓迎された。その中心は歌舞伎俳優の芸談で,9世市川団十郎の《団州百話(だんしゆうひやくわ)》(1903,松居松葉編),5世尾上菊五郎の《尾上菊五郎自伝》(1903,伊坂梅雪編)が先蹤(せんしよう)となり,以後《魁玉夜話(かいぎよくやわ)》(5世中村歌右衛門),《》《おどり》(6世尾上菊五郎),《梅の下風》《女形の事》(6世尾上梅幸),《松のみどり》(7世松本幸四郎),《三津五郎芸談》(7世坂東三津五郎)など,数多くのすぐれた芸談の書物が出版され,こんにちでは歌舞伎の伝承と創造にとって貴重な財産となっている。歌舞伎以外の分野では,能,狂言で《六平太芸談》(喜多六平太),《兼資芸談》(野口兼資),《万三郎芸談》(梅若万三郎),《狂言八十年》(茂山千作),《狂言の道》(野村万蔵)など,人形浄瑠璃で《吉田栄三自伝》,《文五郎自伝》(吉田文五郎),《山城少掾聞書》(豊竹山城少掾)などがそれぞれ代表的な書物である。…

【談洲楼燕枝】より

…1881,82年(明治14,15)ごろから三遊派の一枚看板三遊亭円朝に対して,柳派の一枚看板として並び称された。人情噺,芝居噺の名人で,歌舞伎役者の9世市川団十郎を崇拝して談洲楼と号した。晩年は,森田思軒,幸田露伴,饗庭篁村(あえばこうそん)らの根岸派文士と親交を結び,芸に深みを加えた。…

【時桔梗出世請状】より

…南北作品としては一方に片寄ってしまったといえる。明治期,9世市川団十郎は陽性で逞しい反逆児の型を,7世市川団蔵は陰性で執念の反逆児の型を残した。【広末 保】。…

【花柳流】より

…寿輔は4世西川扇蔵の門弟として西川芳次郎を名のったが,4世扇蔵の没後,西川流から独立して,1849年(嘉永2)花柳芳次郎と改名,花柳流を創立した。初世は振付の才能に恵まれ,幕末から明治の劇壇で名振付師として活躍したが,9世市川団十郎と不和が生じ,劇壇から遠ざかり,1903年没した。実子の花柳芳三郎は6世尾上菊五郎の門弟として俳優修業を志したが,18年門弟たちに望まれ,2世寿輔を襲名した。…

【肚芸(腹芸)】より

…一種のリアリズム演技で,役の性根(しようね)を〈肚〉と称するところから出た用語である。明治期の9世市川団十郎は肚芸を強調し,とくにみずから始めた〈活歴〉における重要な演技術となり,今日にまで大きな影響を残している。【井草 利夫】。…

【船弁慶】より

…振付初世花柳寿輔。演者9世市川団十郎。(1)に拠った松羽目物。…

【北条九代名家功】より

…1884年11月東京猿若座初演。配役は北条高時を9世市川団十郎,衣笠を4世中村福助(のちの5世歌右衛門),大仏(おさらぎ)陸奥守を市川権十郎ら。〈求古会〉のために新史劇をという希望により,いわゆる演劇改良運動の一つとして書かれた活歴劇(活歴物)で,上・中・下の3巻に分かれる。…

【松羽目物】より

…しかし歌舞伎舞踊に大きな地位を占める〈石橋物(しやつきようもの)〉(石橋)や〈道成寺物〉など能取りの所作事も,能を直訳的に歌舞伎に移すのではなく,単に題名や詞章の一部を借りるのみで,自由な発想ともどきの趣向によって換骨奪胎し,みごとに歌舞伎化していた。7世市川団十郎は能の様式にあこがれ,その演出を積極的にとり入れようとした。その具体的なあらわれが《勧進帳》である。…

【紅葉狩】より

…作曲鶴沢安太郎,6世岸沢式佐,3世杵屋正次郎。振付9世市川団十郎。演者は団十郎のほか初世市川左団次,4世中村芝翫など。…

【夜討曾我狩場曙】より

…1881年6月東京新富座初演。配役は工藤祐経・曾我五郎を9世市川団十郎,鬼王新左衛門を5世尾上菊五郎,曾我十郎・頼朝を中村宗十郎,団三郎を初世市川左団次,和田義盛を4世中村芝翫,五郎丸を5世市川小団次,喜瀬川の亀菊を8世岩井半四郎など。《曾我物語》その他の作に拠り,これより前の1874年同作者の《蝶千鳥曾我実伝(ちようちどりそがのじつでん)》を改作したもの。…

※「市川団十郎(9世)」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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