(読み)しば

精選版 日本国語大辞典 「暫」の意味・読み・例文・類語

しば【暫】

〘副〙 しばらく。ちょっと。
謡曲山姥(1430頃)「暫(しば)させ給ひとてもさらば、暮るるを待ちて月の夜声に、歌ひ給はばわれもまた、まことの姿を現はすべし」

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デジタル大辞泉 「暫」の意味・読み・例文・類語

しばらく【暫】

歌舞伎十八番の一。荒事あらごとの代表的演目。元禄10年(1697)江戸中村座の「参会名護屋」で初世市川団十郎が初演。毎年の顔見世狂言に使われた趣向で、明治以後に一幕物として独立した。

ざん【暫】[漢字項目]

常用漢字] [音]ザン(呉) [訓]しばらく しばし
わずかの間。しばらく。「暫時暫定

しば【暫】

[副]しばらく。
「―させ給へと呼ばはったり」〈浄・先代萩

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改訂新版 世界大百科事典 「暫」の意味・わかりやすい解説

暫 (しばらく)

歌舞伎狂言。時代物。1幕。初世市川団十郎初演の演目の一部に〈しばらく,しばらく〉と声をかけて登場し,悪人を追い散らす場面があった。初演は1692年(元禄5)正月江戸森田座の《大福帳朝比奈百物語》というが,現存の狂言本で,その内容をつかめるのは97年の《参会名護屋》まで下る。2世団十郎もこの荒事の場面を踏襲し,以来11月顔見世狂言の三建目(序幕)に不可欠のものとなった。歌舞伎十八番の一つに加えられたときから《暫》の俗称が狂言外題として定着した。現行の脚本は,1895年,9世団十郎上演のものを基本とする。福地桜痴によって改訂されたもの。鶴岡八幡などの社頭に,悪公卿(ウケと称する)が青い隈の化粧で登場し,腹を出した赤っ面の家来(腹出しまたは中ウケと称する)たちに命じ,自分に従わない善良な男女(太刀下と称する)を斬ろうとするそのとき,揚幕から〈しばらく〉と声をかけて主人公が登場する。主人公は〈世界〉によって名称を異にするが,現在は鎌倉権五郎景政として上演されることが多い。鬘(かつら)は五本車鬢(ごほんくるまびん)に白い力紙と烏帽子をつける。顔は紅の筋隈,衣装は胴襦袢に胸当,白地萌葱(もえぎ)色の向い鶴菱模様の上着。その上に三升の紋をつけた柿色の素袍に長袴。素袍の袖には,籐を入れてつっぱらせるので,三升紋の凧を両腕に持ったよう。大小の刀のほかに2m余の大太刀を差して現れる。この独特の扮装は荒事の主人公にふさわしい。花道のほぼ中央で止まって〈つらね〉を述べる。追い返そうとする悪人方を寄せつけず,舞台へ来て肌をぬぎ,仁王襷となり,元禄見得をきる。大太刀を抜いて,仕丁たちの首を一度に斬り落とし,善人たちを助け,大太刀を肩にして〈ヤットコドッチャウントコナ〉の掛声につれて花道を引き返す。50分余の1幕であるが,構成の奇抜さ,色彩の豊かさなど,典型的な江戸歌舞伎の舞台は,歌舞伎の醍醐味を満喫させる。
荒事 →女暫
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「暫」の意味・わかりやすい解説


しばらく

歌舞伎(かぶき)劇。時代物。1幕。「歌舞伎十八番」の一つ。公卿(くげ)の悪人が家来に命じて善人たちを殺そうとするとき、超人的な豪傑の主人公が「しばらく」と大声かけて登場、悪人どもを翻弄(ほんろう)して善人たちを救う。主人公は角前髪(すみまえがみ)の鬘(かつら)に紅の筋隈(すじくま)、柿(かき)色の長素袍(ながすおう)、大太刀(おおたち)という扮装(ふんそう)で、花道で「つらね」とよぶ祝言的な長台詞(ながぜりふ)を述べるのをはじめ、終始「荒事(あらごと)」の典型をみせる。敵役(かたきやく)の中心は公卿悪(くげあく)といわれる役柄で、通称「ウケ」、手下の家来たちは大きく腹を出した扮装なので、俗に「腹出し」または「中(なか)ウケ」、斬(き)られそうになる善人側の若殿・姫・家老らは「太刀下(たちした)」とそれぞれよばれ、その他の登場人物も役柄はほぼ定まっている。主役が「しばらく」と声をかけて登場するのが印象的で、役と演出様式、さらには場面の通称として定着したもの。その最初は初世市川団十郎が1692年(元禄5)に演じた『大福帳朝比奈百物語(だいふくちょうあさひなひゃくものがたり)』といわれるが、現存の狂言本で内容がつかめるのは1697年の『参会名護屋(さんかいなごや)』。この様式は2世団十郎も踏襲、以来市川家の家の芸となり、毎年11月の顔見世狂言の一番目三建目(みたてめ)(序幕)にかならず入れられ、台本はそのつど新作されたが、大筋は決まったものとして後世に伝わった。明治以後は独立した一幕として上演され、1895年(明治28)9世団十郎が演じたとき、現在の脚本の定型が完成、近年は役名も主役が鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)、ウケが清原武衡(きよはらのたけひら)とほぼ決まっている。なお、変型として、女方(おんながた)が演じる『女暫』があるが、これは1746年(延享3)嵐小六(あらしころく)によって始められた。

[松井俊諭]

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百科事典マイペディア 「暫」の意味・わかりやすい解説

暫【しばらく】

歌舞伎十八番の一つ。元禄時代初世市川團十郎が初演,のち毎年顔見世狂言の1幕として繰り返し上演され,今日の定型ができた。狂言の標題は年によって異なり,主人公の役名も変わるが,今日では鎌倉権五郎景政として上演されることが多い。大体の筋は一定しており,横暴な公卿によって善人たちが処刑されようとするとき,主人公の英雄が〈しばらく〉と声をかけて登場し助ける。荒事(あらごと)の代表作。
→関連項目つらね

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「暫」の意味・わかりやすい解説


しばらく

歌舞伎狂言。1幕。歌舞伎十八番の一つ。元禄5 (1692) 年,1世市川団十郎が初演,同 10年の『参会名護屋』で現今のような演出ができあがったという。以後江戸時代を通じて,11月の顔見世興行には必ず上演されてきた。悪人方の公卿が,弱々しい善人方の首を討とうとする。そのとき「しばらく」と声をかけて荒武者が登場,花道で「つらね」 (→連事 ) という長々としたせりふを述べ,舞台へ来て大太刀を抜き,雑兵らの首を一度に切落す。あと大太刀を肩に花道を引揚げるという筋である。主人公は車鬢 (くるまびん) のかつらに,筋隈 (すじくま) という化粧,素袍 (すおう) に太いたすきという様式性の強い扮装が特色。市川家の荒事の代表的演目の一つ。女方が演じる『女暫』もある。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「暫」の解説


(通称)
しばらく

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
万民大福帳 など
初演
正徳4.11(江戸・中村座)


しばらく

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
市川団十郎(1代)
初演
元禄10.1(江戸・中村座)

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