デジタル大辞泉
「暫」の意味・読み・例文・類語
ざん【暫】[漢字項目]
[常用漢字] [音]ザン(呉) [訓]しばらく しばし
わずかの間。しばらく。「暫時・暫定」
しば【▽暫】
[副]しばらく。
「―させ給へと呼ばはったり」〈浄・先代萩〉
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しばら‐く【暫く・且く・姑く・須臾く】
- [ 1 ] 〘 副詞 〙 ( 「しまらく(暫━)」の変化した語 )
- ①
- (イ) 少しの間。一時。ちょっと。
- [初出の実例]「且(シハラク)停(ととま)れ、勿復進(またなすすみそ)」(出典:日本書紀(720)神武即位前(北野本室町時代訓))
- 「此三のものは須臾(シバラク)も不二相離一、処に付て有もの也」(出典:敬斎箴講義(17C後))
- 「何といわゐけるぞと、しばらくやうすを見しに」(出典:浮世草子・世間胸算用(1692)三)
- (ロ) ( 相手の行動を制止させるために呼びかけるのに用いる ) ちょっと待て。
- [初出の実例]「ああ暫らく、さやうのことをば船中にては申さぬことにて候」(出典:謡曲・舟弁慶(1516頃))
- ② ( その状態が一時的なものと見て ) 仮に。かりそめに。一応。当分の間。〔観智院本名義抄(1241)〕
- [初出の実例]「匂ひなどは仮のものなるに、しばらく衣裳に薫物すと知りながら」(出典:徒然草(1331頃)八)
- ③
- (イ) 久しく。少し長い間。
- [初出の実例]「久(シバ)らく文壇を彷徨(うろうろ)してゐる中に、当り作が漸く一つ出来た」(出典:平凡(1907)〈二葉亭四迷〉四八)
- (ロ) 久しぶりに会ったときなどのあいさつの語。「やあ、しばらく」「しばらくでした」
- [初出の実例]「ほんたうに久濶(シバラク)でございましたネエ」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一)
- ④ つぎの行動や考察を一時対象外とすることを表わす。ひとまず。当分。当面。
- [初出の実例]「これらの底意の当否は、しばらく別としよう」(出典:憲法講話(1967)〈宮沢俊義〉一)
- [ 2 ] ( 暫 ) 歌舞伎十八番の一つ。悪公卿が善良な人々を殺害しようとする瞬間、主役が「しばらく」と声をかけて花道から登場し、悪人どもをこらしめるという形式の一幕物。元祿五年(一六九二)、江戸森田座で初世市川団十郎が演じた「大福帳朝日奈百物語」に始まり、さらに一〇年、江戸中村座で演じた「参会名護屋」で今の演出の原型ができる。これを継承した二世市川団十郎が正徳四年(一七一四)に演じた「万民大福帳」以降、江戸歌舞伎では、毎年一一月の顔見世狂言に、市川家の俳優によって演じられたが、狂言の標題や主役の名はその年によって異なった。明治二八年(一八九五)東京歌舞伎座で九世団十郎が演じて以来、形式が定まる。華やかな様式美・絵画美と連(つらね)の雄弁さを持った、荒事(あらごと)の代表的演目。「女暫」などの変則的演出もある。
暫[ 二 ]〈風流四方屏風〉
- [初出の実例]「しばらくぢゃしばらくぢゃなどいふ事を、芝居にてよび物といふ也」(出典:滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上)
暫の語誌
→「しばし」の語誌
しば【暫】
- 〘 副詞 〙 しばらく。ちょっと。
- [初出の実例]「暫(しば)させ給ひとてもさらば、暮るるを待ちて月の夜声に、歌ひ給はばわれもまた、まことの姿を現はすべし」(出典:謡曲・山姥(1430頃))
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普及版 字通
「暫」の読み・字形・画数・意味
暫
常用漢字 15画
[字音] ザン
[字訓] しばらく
[説文解字]
[字形] 形声
声符は斬(ざん)。斬に一時断絶した状態にあることを示す意がある。〔説文〕七上に「久しからざるなり」という。漸と声義近く、漸は次第に他に及ぶ意で、暫が時間的であるのに対して、漸は場所的に浸透することをいう。
[訓義]
1. しばらく、しばし、つかのま、わずかのま。
2. にわかに。
3. 字はまた(ざん)に作る。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕暫 シバラク・カリソメ・アカラサマ 〔字鏡集〕暫 シバラク・アキラサマ・ヤウヤク・スミヤカ・ニハカニ・ハヤシ・ススム
[熟語]
暫雲▶・暫延▶・暫往▶・暫歓▶・暫寄▶・暫寓▶・暫遇▶・暫屈▶・暫憩▶・暫見▶・暫行▶・暫候▶・暫刻▶・暫歯▶・暫時▶・暫爾▶・暫住▶・暫署▶・暫駐▶・暫定▶・暫輟▶・暫免▶・暫面▶・暫来▶・暫離▶・暫斂▶・暫労▶
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暫 (しばらく)
歌舞伎狂言。時代物。1幕。初世市川団十郎初演の演目の一部に〈しばらく,しばらく〉と声をかけて登場し,悪人を追い散らす場面があった。初演は1692年(元禄5)正月江戸森田座の《大福帳朝比奈百物語》というが,現存の狂言本で,その内容をつかめるのは97年の《参会名護屋》まで下る。2世団十郎もこの荒事の場面を踏襲し,以来11月顔見世狂言の三建目(序幕)に不可欠のものとなった。歌舞伎十八番の一つに加えられたときから《暫》の俗称が狂言外題として定着した。現行の脚本は,1895年,9世団十郎上演のものを基本とする。福地桜痴によって改訂されたもの。鶴岡八幡などの社頭に,悪公卿(ウケと称する)が青い隈の化粧で登場し,腹を出した赤っ面の家来(腹出しまたは中ウケと称する)たちに命じ,自分に従わない善良な男女(太刀下と称する)を斬ろうとするそのとき,揚幕から〈しばらく〉と声をかけて主人公が登場する。主人公は〈世界〉によって名称を異にするが,現在は鎌倉権五郎景政として上演されることが多い。鬘(かつら)は五本車鬢(ごほんくるまびん)に白い力紙と烏帽子をつける。顔は紅の筋隈,衣装は胴襦袢に胸当,白地に萌葱(もえぎ)色の向い鶴菱模様の上着。その上に三升の紋をつけた柿色の素袍に長袴。素袍の袖には,籐を入れてつっぱらせるので,三升紋の凧を両腕に持ったよう。大小の刀のほかに2m余の大太刀を差して現れる。この独特の扮装は荒事の主人公にふさわしい。花道のほぼ中央で止まって〈つらね〉を述べる。追い返そうとする悪人方を寄せつけず,舞台へ来て肌をぬぎ,仁王襷となり,元禄見得をきる。大太刀を抜いて,仕丁たちの首を一度に斬り落とし,善人たちを助け,大太刀を肩にして〈ヤットコドッチャウントコナ〉の掛声につれて花道を引き返す。50分余の1幕であるが,構成の奇抜さ,色彩の豊かさなど,典型的な江戸歌舞伎の舞台は,歌舞伎の醍醐味を満喫させる。
→荒事 →女暫
執筆者:鳥越 文蔵
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暫
しばらく
歌舞伎(かぶき)劇。時代物。1幕。「歌舞伎十八番」の一つ。公卿(くげ)の悪人が家来に命じて善人たちを殺そうとするとき、超人的な豪傑の主人公が「しばらく」と大声かけて登場、悪人どもを翻弄(ほんろう)して善人たちを救う。主人公は角前髪(すみまえがみ)の鬘(かつら)に紅の筋隈(すじくま)、柿(かき)色の長素袍(ながすおう)、大太刀(おおたち)という扮装(ふんそう)で、花道で「つらね」とよぶ祝言的な長台詞(ながぜりふ)を述べるのをはじめ、終始「荒事(あらごと)」の典型をみせる。敵役(かたきやく)の中心は公卿悪(くげあく)といわれる役柄で、通称「ウケ」、手下の家来たちは大きく腹を出した扮装なので、俗に「腹出し」または「中(なか)ウケ」、斬(き)られそうになる善人側の若殿・姫・家老らは「太刀下(たちした)」とそれぞれよばれ、その他の登場人物も役柄はほぼ定まっている。主役が「しばらく」と声をかけて登場するのが印象的で、役と演出様式、さらには場面の通称として定着したもの。その最初は初世市川団十郎が1692年(元禄5)に演じた『大福帳朝比奈百物語(だいふくちょうあさひなひゃくものがたり)』といわれるが、現存の狂言本で内容がつかめるのは1697年の『参会名護屋(さんかいなごや)』。この様式は2世団十郎も踏襲、以来市川家の家の芸となり、毎年11月の顔見世狂言の一番目三建目(みたてめ)(序幕)にかならず入れられ、台本はそのつど新作されたが、大筋は決まったものとして後世に伝わった。明治以後は独立した一幕として上演され、1895年(明治28)9世団十郎が演じたとき、現在の脚本の定型が完成、近年は役名も主役が鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)、ウケが清原武衡(きよはらのたけひら)とほぼ決まっている。なお、変型として、女方(おんながた)が演じる『女暫』があるが、これは1746年(延享3)嵐小六(あらしころく)によって始められた。
[松井俊諭]
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暫【しばらく】
歌舞伎十八番の一つ。元禄時代初世市川團十郎が初演,のち毎年顔見世狂言の1幕として繰り返し上演され,今日の定型ができた。狂言の標題は年によって異なり,主人公の役名も変わるが,今日では鎌倉権五郎景政として上演されることが多い。大体の筋は一定しており,横暴な公卿によって善人たちが処刑されようとするとき,主人公の英雄が〈しばらく〉と声をかけて登場し助ける。荒事(あらごと)の代表作。
→関連項目つらね
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暫
しばらく
歌舞伎狂言。1幕。歌舞伎十八番の一つ。元禄5 (1692) 年,1世市川団十郎が初演,同 10年の『参会名護屋』で現今のような演出ができあがったという。以後江戸時代を通じて,11月の顔見世興行には必ず上演されてきた。悪人方の公卿が,弱々しい善人方の首を討とうとする。そのとき「しばらく」と声をかけて荒武者が登場,花道で「つらね」 (→連事 ) という長々としたせりふを述べ,舞台へ来て大太刀を抜き,雑兵らの首を一度に切落す。あと大太刀を肩に花道を引揚げるという筋である。主人公は車鬢 (くるまびん) のかつらに,筋隈 (すじくま) という化粧,素袍 (すおう) に太いたすきという様式性の強い扮装が特色。市川家の荒事の代表的演目の一つ。女方が演じる『女暫』もある。
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暫
(通称)
しばらく
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 元の外題
- 万民大福帳 など
- 初演
- 正徳4.11(江戸・中村座)
暫
しばらく
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 作者
- 市川団十郎(1代)
- 初演
- 元禄10.1(江戸・中村座)
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報