東京都千代田区北部(神田駿河台)から文京区南東部(湯島)にかけての地名。行政名にはなくJR中央線,および地下鉄丸ノ内線の御茶ノ水駅周辺をさす通称名であるが,お茶の水,御茶の水などの書き方もある。古くから茶をたてるのに良い水が出るため,この地名が出たとされている。本郷湯島台と神田駿河台とを分かつ掘割(神田川)は茗渓(めいけい)または仙台堀とも呼ばれ,江戸初期に江戸城防衛のための外堀の一部としてつくられた人工河川で,1660年(万治3)拡張されて船の通行が可能になった。掘割にはアーチ式の聖(ひじり)橋とラーメン式のお茶の水橋が架かり,近くに湯島聖堂(史),ニコライ堂がそびえる。明治初年に官立(東京)師範学校と官立女子師範学校が現在の東京医科歯科大学のところに建てられたが,のちともに文京区大塚に移転し,1949年の新制大学発足により,前者は東京教育大学,後者はお茶の水女子大学となった。付近は明治大学,日本大学,東京医科歯科大学,順天堂大学などの大学や,病院,書店の多いところとしても知られる。
執筆者:正井 泰夫
狂言の曲名。出家狂言。寺の住持が,新発意(しんぼち)(出家して間もない少年)に命じて,野中の清水へお茶の水をくみにやろうとする。が,新発意が言いつけにそむくので,住持は門前のいちゃ(若い女の通り名)に行かせる。かねていちゃに思いを寄せている新発意はあとをつけ,水をくむいちゃに,小歌まじりに求愛し戯れる。そこへ,いちゃの帰りの遅いのを案じた住持が迎えにき,新発意を見て叱責しこらしめる。反抗する新発意と住持との組み合いになるが,いちゃが新発意に加勢して住持を倒し,2人連れ立って逃げ入る。登場人物は新発意,住持,いちゃの3人で,新発意がシテ。和泉流の《水汲(みずくみ)》は異名同曲だが,住持が登場せず,小歌中心に清水のほとりで若い男女が語らう場面だけで一曲が構成されている。本曲で歌われる小歌は中世の流行歌謡で,歌詞の大部分は《閑吟集》所載。原形を示す狂言に《天正狂言本》所収の《糸縒(よ)り》がある。
執筆者:羽田 昶
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東京都千代田区神田駿河台(かんだするがだい)から文京区湯島(ゆしま)にまたがる地区。お茶の水とも書く。区境の旧外堀(神田川)の南側のJR御茶ノ水駅を中心とし、その北に東京地下鉄丸ノ内線御茶ノ水駅、南に同千代田線新御茶ノ水駅がある。江戸初期、外堀を掘るための神田山(台地)切り崩し中、高林寺の境内から清水が湧(わ)き出し、それを徳川将軍家のお茶をたてる水として献上したことが地名の由来。御茶ノ水の別名、茗渓(めいけい)の名でもよばれた。この境内の一部に1874年(明治7)東京師範学校(現在の筑波大学(つくばだいがく))、女子師範学校(現在のお茶の水女子大学)が設立された。現在は東京医科歯科大学の敷地となる。その東側が1690年(元禄3)建設の湯島聖堂で、その南側の橋はそれにちなんで聖橋(ひじりばし)とよぶ。外堀の南側には私学の日本、明治の各大学、アテネ・フランセなど各種の学校がある。なお、南側に1891年設立のビザンティン式建築のニコライ堂がある。古くから文教地区で、書籍・出版関係の会社も多く、学生の街として繁栄している。
[沢田 清]
狂言の曲名。出家狂言、新発意物(しんぼちもの)。『御茶の水』は大蔵(おおくら)流の曲名で、和泉(いずみ)流では『水汲(みずくみ)』。寺の住持が新発意(シテ。出家してまもない者)に野中(のなか)の清水で水を汲(く)んでこいと命ずるが承知しないので、かわりに門前のいちゃ(若い女の通名)をやる。いちゃが夕暮れ時の寂しさを小歌にまぎらしながら水を汲んでいると、あとを追ってきた新発意が恋心を謡(うたい)にこめて娘の袖(そで)をとる。娘はたしなめるが、なお謡い交わしながらともに水を汲み入れる。迎えにきた住持がこのようすを見て新発意を折檻(せっかん)すると、いちゃは新発意に同情し、2人で住持を倒し入っていく。以上は大蔵流の筋である。和泉流では、いちゃが濯(すす)ぎ物をしているところへ新発意がきて、お茶の水を汲んでほしいと頼み、小歌を謡って慕い寄るが、いちゃは水の入った桶(おけ)を新発意の頭にかぶせ去っていくという筋で、住持は出ない。小歌のやりとりを中心とする叙情的な曲。
[小林 責]
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※「御茶の水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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