日本映画。最後の時代劇スターといわれる市川雷蔵の最初のシリーズで,1962年の《忍びの者》から66年の《新書・忍びの者》まで,計8本がつくられ,勝新太郎の《座頭市》シリーズとともに大映の屋台骨になった。いずれも戦国時代が舞台で,史実に取材し,歴史の裏面で暗躍した忍者たちの姿を実録ふうに描く。山本薩夫監督による第1作は,伊賀の下忍(げにん)(下級の忍者)石川五右衛門を主人公に,織田信長の命を狙う忍者たちの活動を実証的リアリズムで描き,忍者の掟と人間らしい愛との相克に苦悩する主人公をとおして,組織の非情さ,政治の非人間性を浮彫りにした。忍術使いを忍びの者といいかえたことに象徴されるように,そして,実在の大泥棒として知られる石川五右衛門を忍者組織の一員にしたこと,忍びの技を合理的解釈で描くこと,物語に史実を巧みにからめたことなどに見られるように,かつての荒唐無稽な忍術映画は,ここでリアリズム映画に一変したといえる。この第1作のヒットを受け,その後の石川五右衛門を描く形で,同じ山本薩夫監督の第2作《続・忍びの者》(1963),森一生監督の第3作《新・忍びの者》(1963)がつくられた。以上3作品は,《赤旗》に連載された村山知義の小説が原作で,実証的リアリズムはこの原作に基づいている。だが,田中徳三監督による第4作《忍びの者・霧隠才蔵》(1964)以降は,虚構の人物が主人公になった。実録ふうであることには変りないものの,実証的リアリズムの気配は弱まって虚構の人物が史実とかかわっていくドラマ展開におもしろみが発揮された。全8作とも,当時としては珍しく白黒作品で,陰影の濃い画面のなか,主演の市川雷蔵が反逆と苦悩の闘いを軽快に見せるほか,第1作で敵対する二つの忍者集団の頭領2人を巧みに演じわけた伊藤雄之助,第2作の服部半蔵役の天知茂,第3作の淀君役の若尾文子,第2作,第3作の豊臣秀吉役の東野英治郎など,毎回,多彩な脇役を配したところに,娯楽映画としての強さがうかがえる。
すでに1950年代末から,山田風太郎の忍者小説《忍法帖》シリーズや白土三平の劇画《忍者武芸帳》が,幻想性と現実性の激しい混交によって人気を呼び,静かな〈忍者ブーム〉を起こしつつあって,村山知義の小説とその映画化がそれに火をつけ,63年からは東映が《十七人の忍者》《忍者狩り》や山田風太郎の小説の映画化作品(中島貞夫監督《くノ一忍法》など)を連作して,日本映画界に〈忍者ブーム〉が広がった。なお,《忍びの者》は64年,品川隆二を主役にテレビ映画としてもシリーズ化されている。
執筆者:山根 貞男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…野間宏原作)をつくり,55年に設立した山本プロでは全国農村映画協会作品《荷車の歌》(1959),日教組を財政的なバックとした《人間の壁》(1959)をつくるなど,精力的な仕事をつづけた。62年に〈レッドパージ〉が時効となり,大映で《忍びの者》(1962。村山知義原作)と《傷だらけの山河》(1964),日活で《戦争と人間》三部作(1970‐73。…
※「忍びの者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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