(読み)イヌ

デジタル大辞泉 「犬」の意味・読み・例文・類語

いぬ【犬/×狗】

[名]
食肉目イヌ科の哺乳類嗅覚聴覚が鋭く、古くから猟犬番犬・牧畜犬などとして家畜化。多くの品種がつくられ、大きさや体形毛色などはさまざま。警察犬・軍用犬盲導犬・競走犬・愛玩犬など用途は広い。
他人の秘密などをかぎ回って報告する者。スパイ。「官憲の―」
人をののしっていう語。
「請ふらくは君わが家の―に語れ」〈今昔・九・三〇〉
[接頭]名詞に付く。
卑しめ軽んじる意を表す。「―侍」
むだで役に立たない意を表す。「―死に」
よく似てはいるが、実は違っているという意を表す。「―たで
[補説]書名別項。→
[下接語]秋田犬御伽おとぎ飼い犬甲斐かい狩り犬紀州犬小犬こま里犬地犬しば喪家のいぬたか土佐犬野犬野良犬負け犬むく山犬
[類語]1犬ころ狆ころわんわん子犬小犬小形犬中形犬大形犬猛犬狂犬飼い犬畜犬愛犬野良犬野犬名犬忠犬駄犬負け犬日本犬和犬洋犬番犬猟犬牧羊犬盲導犬聴導犬介助犬警察犬軍用犬尨犬むくいぬ犬種2忍者忍び忍術忍法忍びの者間者くノ一素っ破乱波らっぱ探偵密偵間諜回し者隠密スパイ

けん【犬】[漢字項目]

[音]ケン(呉)(漢) [訓]いぬ
学習漢字]1年
ケン
イヌ。「犬猿犬歯愛犬闘犬番犬名犬猛犬野犬猟犬老犬
つまらぬもののたとえ。「犬馬・犬羊」
〈いぬ〉「犬侍小犬狛犬こまいぬ柴犬しばいぬ山犬野良犬のらいぬ

いぬ【犬】[書名]

中勘助中編小説。大正11年(1922)、「思想」誌に発表。性描写の過激さから、発禁処分となる。

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精選版 日本国語大辞典 「犬」の意味・読み・例文・類語

いぬ【犬・狗】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. イヌ科の家畜。原種はオオカミと考えられている。家畜となった最初の動物とされ、家畜のうち最も賢く、人に忠実である。嗅覚と聴覚はきわめて鋭く、狩猟用、警察用、労役用、愛玩用などにする。形態は品種によって非常に異なり、全世界に約一六〇品種ある。日本産では秋田犬、甲斐(かい)犬、紀州犬、柴犬、土佐犬、チン、アイヌ犬などが知られる。日本語においては、「ワンワン」というように鳴き声が写される。
      1. [初出の実例]「布を白き犬に(か)け、鈴を著けて」(出典:古事記(712)下)
      2. 「いぬわんわんといふてかみつかふとする」(出典:虎明本狂言・犬山伏(室町末‐近世初))
    2. 飼い主になついて離れず付き従うことから、煩悩の比喩としてもいう。
      1. [初出の実例]「(そとも)のかせぎ緤(つなぎ)がたく、家の犬(イヌ)常になれたり」(出典:発心集(1216頃か)序)
    3. 主人に忠実に仕える者。
      1. [初出の実例]「高麗の王は我が日本の犬也と石壁に書付て」(出典:太平記(14C後)三九)
    4. こっそりと人の秘密をかぎつけて告げ知らせる者をおとしめていう。まわし者。間者。探偵。スパイ。
      1. [初出の実例]「此の在所(ざいしょ)は、大坂からいぬが入」(出典:浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下)
    5. 岡っ引きのこと。
      1. [初出の実例]「江戸にて此徒を岡引と云、おかっぴきと訓ず〈略〉鄙にては此徒を称して犬と云」(出典:随筆・守貞漫稿(1837‐53)六)
    6. 警官をいう隠語。〔日本隠語集(1892)〕
      1. [初出の実例]「犬(同志は、ポリスをさう呼んでゐました)にあやしまれ不審訊問などを受けて」(出典:人間失格(1948)〈太宰治〉第二の手記)
    7. 御殿女中に召し使われる少女。お犬。
      1. [初出の実例]「ひとり娘だとかへって犬が言い」(出典:雑俳・柳多留‐二五(1794))
    8. 人を卑しめ、ののしっていう語。こいつめ。
      1. [初出の実例]「我我が出家はいぬめが仕合、とうとう帰れとののしれば」(出典:浄瑠璃・大覚大僧正御伝記(1691頃)二)
    9. 犬追物(いぬおうもの)のこと。
      1. [初出の実例]「うたひさかもり つらねうた〈略〉犬かさがけに 日をくらし」(出典:狂歌・金言和歌集(1492‐1501頃))
    10. は、人の守りとも魔よけともなり、物の怪(け)を追い払うというところから、幼児の額に「犬」の字を書いたり、そばに犬張子などを置いたりする、その文字や玩具のこと。
      1. [初出の実例]「右衛門督宗通卿御額奉犬字」(出典:為房卿記‐康和五年(1103)八月二七日)
  2. [ 2 ] 雅楽「狛犬(こまいぬ)」のこと。
    1. [初出の実例]「犬 二人」(出典:中右記‐寛治二年(1088)七月二七日)
  3. [ 3 ] 〘 接頭語 〙 名詞の上に付ける。
    1. 卑しめ軽んじる気持、軽蔑の気持を表わす。
      1. [初出の実例]「『女ごもりたらん人は、よきいぬ乞食(かたゐ)なりけり』」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開下)
    2. ( 「いな(否)」からか ) よく似てはいるが、実は違っているものを表わす。「犬桜」「いぬつげ」「いぬたで」など。
    3. 役にたたないこと、むだであることを表わす。「犬死に」など。
      1. [初出の実例]「犬(イヌ)骨折って鷹の餌(ゑ)となりもやせんと」(出典:人情本春色梅児誉美(1832‐33)後)

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普及版 字通 「犬」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 4画

[字音] ケン
[字訓] いぬ

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
犬の形。〔説文〕十上に「狗の縣(けんてい)なり。象形」とし、「孔子曰く、犬の字をるに、畫狗の如きなり」という孔子説を引く。〔説文〕に引く「孔子説」には、俗説が多い。県とは肉中に隠れる爪。卜文の犬の字形は、犠牲として殺された形にみえるものがあり、犬牲を示すものとみられる。金文の〔員鼎(えんてい)〕に「犬を執らしむ」とは猟犬を扱う意。中山王墓には、金銀製の首輪をはめた二犬が埋められていた。

[訓義]
1. いぬ。
2. つまらぬものにたとえる。その意の修飾語に用いる。

[古辞書の訓]
和名抄〕狗 惠奴(ゑぬ)、、犬と同じ 〔名義抄〕犬 イヌ・ホシイママ 〔字鏡集〕犬 イヌ・イヤシ・ホシイママ

[部首]
〔説文〕に狗・尨・(戻)・狂・(類)など八十二字、〔新附〕に四字を属し、次の部に三字がある。〔玉〕の犬部は二百九十三字。古くは犬を犠牲として用いることが多く、(ふつ)は修祓の祓の初文、は犬牲をもって天を祭る祭儀である。

[声系]
〔説文〕に犬声として(がい)の一字を収める。は鳥名であるが、その声の因るところを知りがたい。

[熟語]
犬夷・犬・犬鶏・犬子・犬豕・犬書・犬人・犬声・犬豬・犬・犬馬・犬吠・犬服・犬鋪・犬羊
[下接語]
愛犬・一犬・義犬・狂犬・群犬・鶏犬・守犬・駿犬・蜀犬・駄犬・田犬・闘犬・豚犬・吠犬・番犬・名犬・猛犬・野犬・用犬・鷹犬・猟犬

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動植物名よみかた辞典 普及版 「犬」の解説

犬 (イヌ)

学名:Canis familiaris
動物。イヌ科の哺乳動物

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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