長野県南西部にある木曾川上流の谷。地形的には鳥居峠以南~岐阜県境付近までの木曾川に沿う谷をさすが,歴史的には旧中山道の一部である木曾路の経路をさすことが多い。長さは約60kmに及ぶが,谷の南東には木曾山脈(中央アルプス),北西には飛驒山脈(北アルプス)や御嶽(おんたけ)山などがそびえてV字谷をなし,幅は大部分が数百mと狭い。国道19号線(中山道),JR中央本線などの交通路が貫通しており,木曾福島,上松(あげまつ)など主要集落は旧中山道時代の宿場町から発達したものである。周辺の山地は木曾山と呼ばれる美林地帯で,尾張藩時代には,木曾の五木(ヒノキ,サワラ,コウヤマキ,アスナロ,ネズコ)が厳しく保護され,藩の重要な財源となった。現在も林業を主とし,漆器,おけなど小規模な木工業が行われている。平たん地は木曾川の形成した河岸段丘面が主で,水田などの耕地や集落に利用されているが,天竜川沿いの伊那谷(伊那盆地)と比べると狭いため,経済活動はあまり活発ではなく,水力資源は豊富であるがそれを利用する近代工業もあまり発達していない。そのため木曾谷の自然はよく保存され,また江戸時代,明治時代の町並みも当時のおもかげを伝えており,観光地として有名になった。馬籠(まごめ)出身の島崎藤村は明治直前の木曾谷の人々の生活を《夜明け前》に描いている。旧中山道の宿場景観は南木曾(なぎそ)町の妻籠(つまご),塩尻市の奈良井などによく残っており,木曾町には福島関跡(史),木曾義仲の墓がある。木曾谷の盆踊歌として《木曾節》が広く知られる。
→木曾路 →木曾山
執筆者:市川 健夫
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