デジタル大辞泉
「染」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
そ・める【染】
〘他マ下一〙 そ・む 〘他マ下二〙
① 色のある液に浸したり、
絵の具・墨・紅
(べに)などを塗ったりして、色や模様をつける。
※万葉(8C後)二〇・四四二四「色深く背なが衣は曾米(ソメ)ましを御坂たばらばまさやかに見む」
※平家(13C前)四「御あしよりいづる血は、いさごをそめて紅の如し」
② (秋の紅葉や黄葉は、
しぐれや露や霜によると考えられていたところから) 露、雨、霜などが木の葉や花に色をつける。
※
古今(905‐914)秋下・二五七「しらつゆの色はひとつをいかにして秋の木の葉をちぢにそむらん〈
藤原敏行〉」
③ (①の比喩的用法。多く「心をそむ」「身をそむ」などの形で) 色がしみこむように、深く思い込む。深くかかわる。また動詞の
連用形について、その動作を深くする意を添える。「思いそめる」「乱れそめる」など。→「
そめる(初)」の補注。
※古今(905‐914)春上・七「心ざし深くそめてしをりければきえあへぬ雪の花と見ゆらん〈よみ人しらず〉」
④ (筆に)墨を含ませる。また、書きはじめる。
※平家(13C前)六「
冥官、筆を染て一々に是をかく」
⑤ (「手をそめる」などの形で) ある
物事を始める。その事に関係する。
※藤十郎の恋(1919)〈
菊池寛〉五「不義非道な
色事には、一指をだに染めることをしなかった」
⑥ 興奮、恥ずかしさなどのため顔を赤くする。
しゅ・む【染】
〘自マ四〙 (「しむ(染)」の変化した語)
① ある色に染まる。
※雑俳・花笠(1705)「しゅみました・けんぼうやの手はぬり杓子」
② 刺激がからだにつよく作用する。また、液体や塩分などの刺激で痛みを覚える。
※雑俳・千枚分銅(1704)「目にしゅむしゅむそれは目にしゅむ」
③ 物事が佳境に入る。興が増す。陽気でにぎやかになる。
※俳諧・雑談集(1692)下「灯火はをのれを消し恋ごろも〈粛山〉 よ所にしゅんたる踊ゆかしき〈信徳〉」
※談義本・身体山吹色(1799)三「二人の売女(おやま)が来た斗りに少し席(ざしき)がしゅむ物也」
④ 陰気になる。しんみりと沈みがちになる。また、地味なさまになる。みすぼらしくなる。けちくさい感じになる。
※
洒落本・秘事真告(1757頃)堀江の相「つい求
(か)ふ肴でも、あれでやき物がいくつとれて、片身が取ざかな、骨つきを吸物と、あてはめた了簡もしゅんだものなり」
※
滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)八「どふやらおざしきがしゅんできた
さかい、是からわっさりと額風呂へなりこみの」
⑤ 所帯持ちの苦労が身についたさまになる。いかにも所帯持ちといった感じになる。所帯じみる。
※歌舞伎・近江
源氏𨉷講釈(1772)四「エエしゅんだものぢゃわい。〈略〉今この女のかざは、
洗濯物の糊のかざで」
しみ【染】
① 色、香りなどのしみこむこと。また、染(そ)めたりして彩色すること。また、そのもの。
※草根集(1473頃)八「しみふかく人のとめても枕香をこがるるむねにおきあかしつつ」
② 液などが部分的にしみついて汚れること。また、その部分。転じて、精神的な傷、汚れ。また、業績、経歴などの不名誉な、あるいは好ましくない点。汚点(おてん)。
※滑稽本・四十八癖(1812‐18)三「ハテ胴裏はしみが有ても貪着はねえ」
※あらくれ(1915)〈徳田秋声〉三「自分の幸福にさへ黒い汚点(シミ)が出来たやうに思はれた」
③ しみじみとした持ち味。
※申楽談儀(1430)能書く様、その一「石河の女郎の能は、十番を一通りして、中年寄りて元雅すべき能也。千方も、年寄りて、しみ出で来てすべし」
④ 人の皮膚に生じる、褐色の比較的境界がはっきりしている色素沈着斑。
内分泌や肝臓機能の障害によることが多い。肝斑
(かんぱん)の俗称。
※雁の寺(1961)〈
水上勉〉一「頬や掌に斑点
(シミ)のできはじめるのはこの年ごろからであるから」
そま・る【染】
〘自ラ五(四)〙
① 色を出す。色がかわる。
(イ) 他のものにしみ込んだり、
表面に付着したりすることによって、色を出す。
※
書紀(720)神代上(兼方本訓)「斬
(き)る血
(ち)激灑
(そそ)いで
石礫(いしむら)樹草
(きくさ)に染
(ソマ)る」
(ロ) 他のものがしみたり付着したりして、もとの色が変わる。
※貞享版沙石集(1283)八「ぬれたる木はもえず。あかづける衣はそまらず」
② 光線の加減や、紅葉その他の
自然現象のために、色が変わる。
※野の花(1901)〈田山花袋〉一三「夕日がすっかり落ちて、天末が火事のやうに赤く染って」
③ 好ましくない物事に影響されて、それに感化されたり、よくない習慣が身についたりする。
※日葡辞書(1603‐04)「ショアクニ somaru(ソマル)」
そ・む【染】
[1] 〘自マ四〙
① 他のものにしみ込んだり付着したりすることによって、色を出す。また、他のものがしみこんだり付着したりして、色が変わる。染まる。
※古今(905‐914)雑体・一〇一〇「きみがさすみかさの山のもみぢばのいろ かみな月しぐれの雨のそめるなりけり〈紀貫之〉」
② したしみ影響を受けて、それに感化される。ある風(ふう)に感染する。染まる。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「この世にそみたる程の、にごり深きにやあらむかし」
③ 深く感じる。また、心にかなう。
※詞花(1151頃)春・一九「白雲はたちへだつれど紅のうす花桜こころにぞそむ〈藤原師実〉」
※浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)九「心に染(ソマ)ぬ諂(へつら)ひも、主人を大事と存ずるから」
じ・みる【染】
〘接尾〙 (上一段型活用)
① 体言に付いて、そういうもの、様子、状態らしく感じられる意を表わす。じむ。
※洒落本・傾城買四十八手(1790)真の手「愚痴にばかりなりて人ばかり恨(うらみ)じみて来てけっく面白く無し」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「生質(おひたち)の善(いい)者も居候染(ジミ)ると心がさもしく成ものさ」
② 体言に付いて、それが染みついてみえる意を表わす。「垢じみる」「油じみる」「汗じみる」など。
じ・む【染】
※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)上「所帯じうで気がこうとうよい女房に」
ぜん【染】
〘名〙 (形動) 仏語。不純であること。けがれていること。また、そのさま。
※米沢本沙石集(1283)一〇本「一には外は浄に内は染なる、〈略〉仏法の中の賊なり」
そめ【染】
〘名〙 (動詞「そめる(染)」の連用形の名詞化) 染めること。また、染めた色や染めた物。
※万金産業袋(1732)四「茶屋染。中古はもっぱら此染を好みし」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報