歴史的風土保存区域(読み)レキシテキフウドホゾンクイキ

デジタル大辞泉 「歴史的風土保存区域」の意味・読み・例文・類語

れきしてきふうど‐ほぞんくいき〔‐ホゾンクヰキ〕【歴史的風土保存区域】

古都保存法に基づいて指定された「古都」の歴史的風土を保存するために定められた区域。歴史上意義を有する建造物遺跡などが周囲の自然的環境と一体をなして古都の伝統と文化を具現または形成している区域の状況が保存されている。「鎌倉市および逗子市」「京都市」「奈良市」「奈良県生駒郡斑鳩町」「天理市橿原市および桜井市」「大津市」の6区域32地区が指定されている。→歴史的風土特別保存地区歴史的風土保存地区
[補説]明日香村(奈良県高市郡)については、明日香村法に基づいて「飛鳥宮跡」「石舞台」「岡寺」「高松塚」の4地区が「歴史的風土保存地区」に指定されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歴史的風土保存区域」の意味・わかりやすい解説

歴史的風土保存区域
れきしてきふうどほぞんくいき

歴史的風土を保存するため、史跡・建造物などの周辺の開発が停止され(現状凍結)、地形地質・植生などの自然的環境が古くからのままに保存されている地域をいう。1966年(昭和41)に議員立法国会で議決された「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」(昭和41年法律1号、略称古都保存法)に基づき5区域が指定されている。

[浅香幸雄]

古都保存法制定の背景

1960年ごろに始まった政府の所得倍増計画の進行によってわが国の産業経済は急速に発展し、大都市周辺の丘陵林野は宅地開発の波に影響されて、それまで保全されてきた自然の美観はしだいに損なわれ、緑の山肌が姿を消しつつあった。そうした被害は京都、奈良、鎌倉などの古都でも例外ではなく、関係住民からは「民族遺産を守れ」「古都の美を保存しよう」との声が急に高まった。そこで京都市が中心となって関係の県・市が古都保存連絡協議会を組織し、古都保存のための特別立法制定の機運が醸成され、国会や政府に働きかけて古都保存法制定の契機をつくった。

 もともと古都における文化財保護については文化財保護法をはじめ、風致保存には風致地区制度(都市計画法)、保安林制度、自然公園法などがあって、それぞれ必要な措置が講ぜられ、さらに地域立法としては近畿圏整備法による保全地域の措置も行われ、京都・奈良両市については京都・奈良国際観光都市建設法などが制定されており、風致保存関係の法律はけっして少なくなかった。しかしこれらの法律の施行実績をみると、関係行政機関が多岐に分かれていて総合施策に乏しく、とくに財源の裏づけを欠いているなどのため現実には効果を伴わず、古都の当面する緊急事態を解決するための決め手たりえないとされていた。そこで国でも関連法規を新たに検討し、行政施策を強化確立する必要に迫られたのである。そしてこの法律は広い世論の支持によって制定が望まれ、促進されたのであった。それにはまた当時古都地域において相次いで起こった諸事件が、この法の制定促進に大きな役割を果たした。すなわち、当時、京都では双ヶ岡(ならびがおか)売却問題、奈良では生駒(いこま)山周辺の宅地化、鎌倉では鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)裏山の宅地造成などが相次いで報道され、この特別立法制定の必要性をいやがうえにも高めた。この法が世論立法といわれ、議員立法で急ぎ成立したのにはこうした事情が関連していたのであった。

[浅香幸雄]

全国の保存区域の指定

「歴史的風土保存区域」は国土交通大臣が指定し、その保存計画を定める。ついで府県知事がその計画に基づいて、その区域内でもとくに歴史的風土保存上の枢要な地域について都市計画として「特別保存地区」を指定することになっている。その特別保存地区内では、古都保存の見地からその土地利用についてはとくに厳しい規制が加えられ、府県知事の許可を受けねばならないこととなっている。この結果不許可処分によって損害を受けた場合は、府県はその損害を補償するとともに、土地所有者からその土地を買い取り、その費用については国は府県に対して相当高率の補助をすることとし、その財源の裏づけを明らかにしている。このように古都保存法は、国・府県の協調方式によって古都保存の実効を確保しようとした点、とくに古都の美を守るために責任体制を明確にした点が特色としてあげられる。この法は著しい規制措置と国の責任を明示したものであり、この点、画期的な法律といわれている。

[浅香幸雄]

保存区域

歴史的風土保存区域は次のとおり(1999年3月31日)。(1)京都市14地区(8513ヘクタール)、(2)奈良市3地区(2776ヘクタール)、(3)鎌倉市5地区(956ヘクタール)、(4)奈良県生駒郡斑鳩(いかるが)町1地区(536ヘクタール)、(5)天理市、橿原(かしはら)市および桜井市4地区(2712ヘクタール)。以上5区域27地区(1万5493ヘクタール)。

 また上の区域内で、とくに枢要な地域である歴史的風土特別保存地区としては、京都市24地区(2861ヘクタール)、奈良市6地区(1809ヘクタール)、鎌倉市13地区(570.6ヘクタール)、斑鳩町1地区(80.9ヘクタール)、天理市2地区、橿原市4地区、桜井市1地区(3市7地区合せて598.2ヘクタール)、計51地区(5919.7ヘクタール)が指定されている。さらに、1980年(昭和55)「明日香(あすか)保存特別措置法」が公布された明日香村の全域が、歴史的風土特別保存地区に指定されている。明日香村の場合は、とくに重要な4地区125.6ヘクタールが、第一種歴史的風土保存地区に、残り2278.4ヘクタールが第二種歴史的風土保存地区となっている。

 なお、文化財保護法による町並保存、伝統的建造物群保存地区については、「歴史的町並保存地区」を参照されたい。

[浅香幸雄]

『太田博太郎著『歴史的風土の保存』(1981・彰国社)』『『歴史的風土保存区域及び歴史的風土保存計画』(1983・総理府)』『『我が国の文化財行政』(1986・文化庁)』『大河直躬著『歴史的遺産の保存・活用とまちづくり』(1997・学芸出版社)』

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世界大百科事典(旧版)内の歴史的風土保存区域の言及

【古都保存法】より

…本法にいう古都とは,京都市,奈良市,鎌倉市および政令で定めるその他の市町村であり,1984年9月現在,天理市,橿原(かしはら)市,桜井市,斑鳩(いかるが)町,明日香(あすか)村が政令により指定されている(2条1項)。内閣総理大臣は,古都における歴史的風土を保存するため必要な区域を歴史的風土保存区域として指定し(4条1項),同区域内における行為の規制その他歴史的風土の維持・保存に関する事項などを内容とする歴史的風土保存計画を決定しなければならない(5条1,2項)。また,同区域内において建築物の新築・改築・増築,宅地造成,木竹の伐採などをする場合には知事への届出を要する(7条1項)。…

※「歴史的風土保存区域」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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