刑事手続に関する日本最初の近代的法典。1880年7月17日に公布され,82年1月1日から施行された。治罪法制定以前,明治初頭の日本の刑事法制は,まず律令法制の復活に始まり,新律綱領(1870),改定律例(1873)があいついで制定された。しかしヨーロッパ近代法--とくにフランス法--を範とした刑事手続の近代化の動きも個々的に進行しており,すでに治罪法制定までの間に,改定律例の自白による断罪を定めた規定の廃止と証拠裁判主義,自由心証主義の採用(1876),検事の公訴による国家訴追主義,弾劾主義の確立(1878),拷問の廃止(1879)等の法改革が進められつつあった。そして治罪法は,近代的刑事手続の法理・法制をはじめて包括的・体系的に法典化して,日本に導入する役割を果たしたのである。法典は6編480条からなり,フランスから招かれたボアソナードが1808年公布のフランス治罪法典code d'instruction criminelleをもとに草案を作成し,これを翻訳・改訂して成立した。そこには,刑事裁判所の構成,公訴は検察官が行うものとする国家訴追主義・起訴独占主義,予審判事による予審の手続,事実認定における自由心証主義,公判における公開主義・口頭弁論主義,弁護人の制度など近代的刑事手続の諸原則が盛り込まれている。ただ,ボアソナード草案にあった陪審制は採用されなかった。治罪法は,大日本帝国憲法と裁判所構成法の制定に伴い1890年公布の(旧々)刑事訴訟法に取って代わられたが,その法律は基本的部分を治罪法から引き継いだものであった。フランス法の影響は,1922年にドイツ法の影響を受けた(旧)刑事訴訟法が制定されるまで続いたのである。
→刑事訴訟法
執筆者:酒巻 匡
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1880年(明治13)に制定され、1882年1月1日に旧刑法とともに施行された刑事訴訟法典。フランス人ボアソナードが原案を起草したもので、フランス法系である。治罪法によって、検事公訴主義、予審、保釈、裁判公開などの制が確立された。ボアソナードの起案以来、重罪裁判所の裁判では陪審制を必須(ひっす)としていたが、内閣では陪審制は時期尚早であるとして、これを削除した。また軽罪につき控訴の道が開かれた。もっとも、治罪法の施行直前、その規定中、刑事の控訴に関する条件は当分実施しないことになった。刑事裁判所についても規定しているが、これはまだ裁判所構成法が制定されていなかったからである。1890年、刑事訴訟法の施行により廃止された。
[石井良助]
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明治中期の刑事手続法。1880年(明治13)7月17日公布,82年1月1日施行で,時代的には断獄則例と旧刑事訴訟法の中間に位置する。起草はボアソナードにゆだねられたが,制定段階で陪審制度導入案は削除された。総則,刑事裁判所の構成及び権限,犯罪の捜査,起訴及び予審・公判,大審院の職務・裁判執行,復権及び特赦の6編,480条からなる。治罪法の実施は司法制度の整備を前提としていたが,法律家・裁判所設備の不足に直面し,「便法」とよばれる太政官布告により刑事控訴の停止など一部の規定の実施が凍結された。日本初の近代的な刑事手続の法典である。90年刑事訴訟法の施行により廃止。
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…新しい統治機構を守る軍事・警察機構は,1872年の陸海軍両省の設置と73年の徴兵令の制定,73年の内務省警保寮設置,74年の警視庁設置によって整備された。治安維持の重要な手段である刑事法は,すでに1870年に新律綱領,73年に改定律例が制定され,さらに1880年には,フランス人のボアソナードによって起草された最初の近代法典である刑法および治罪法(刑事訴訟法)が制定され,82年から施行された。資本主義発展の基礎をつくるための法として重要なものは,人民を把握するための戸籍法(1871公布。…
※「治罪法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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