主家を持たない武士。江戸時代における浪人発生の最大の要因は,幕府による大名の改易,減封にあった。関ヶ原の戦や大坂の陣で敗者となり,また幕府の忌諱(きい)に触れ,幕法に違反し,あるいは世嗣の断絶などによって,徳川家康・秀忠・家光の3代,すなわち幕初の50年間に改易,減封となった大名は,実に217家,石高にして875万石余にのぼり,家光の晩年の1650年(慶安3)までに40万もしくは50万の浪人が発生したと推定されている。加えてこの時期には,主君の意に背き,法に触れ,単なる人減しのために召放(めしはな)たれ,また主君の仕打ちに不満を抱き,家中を去って浪人となる者などが跡を絶たなかったという。このように大量に発生した浪人のうちには,新興の大名諸家に改めて召抱(めしかか)えられる者(時代は太平に向かう様相を示したので,既成,新興を問わず家中の人数を制限する家が一般であったから,需要と供給のバランスはとれなかった),百姓,町人になる者,海外に進出する者(途中,鎖国によって不可能となった)などがみられたが,その数は限られたものであったと思われる。残る大多数の者は浪人生活を余儀なくされ,日ごろ再度の仕官を願うものであったが,その実現をみるためには何事か乱の起こることが必要であった。幕府,諸藩は,このような浪人らを危険視し,早くから〈浪人払い〉(追放),〈武家奉公構(かまい)〉(主取りの禁止),〈寄住制限〉などの対策を打ち出していた。この対策は浪人らの生活を極度に脅かした。そのため尾羽打ち枯らして槍,刀の武具の類を手放し,子女を遊女に売り,なかには餓死する者まで現れる有様であった。この生活苦は不満を醸成し,それを反映したものが1651年(慶安4)の由比正雪らの浪人による幕府転覆計画(慶安事件)であった。幕府はこうした事態を憂慮して,幕政の方針を武断から文治へと転換し,浪人の寄住制限を緩和する一方,浪人発生の要因となる大名,旗本の改易にも手心を加えた(世嗣のない者のうち,50歳以内の者には末期養子(まつごようし)を認める)。また,幕閣首脳者による浪人の再仕官の斡旋も行われるようになり,町奉行石谷貞清(いしがいさだきよ)は終生に1000人もの浪人を諸家に世話したという。しかしこの後も,浪人はさまざまな理由によって絶えず発生し,明治に至った。
ところで浪人の仕官は,幕初には由緒や武功,武芸のある,なしによったが,島原の乱を最後に戦争が絶滅してからは,軍学,儒学や医術,算術などのでき,ふできによるようになった。このため多くの浪人らは学術の修業に精励し,そのなかから新井白石や荻生徂徠をはじめ当代一流の学者が輩出した。なかには松尾芭蕉や近松門左衛門のように文芸,演劇の方面に進出した者もあり,身過ぎ世過ぎに町道場を開き武芸の指南をこととし,あるいは寺子(小)屋を営み手習(てならい)の師匠として庶民教育にあたる者などもいた。これをみると,浪人らの江戸文化の発展に果たした役割がいかに大きなものであったかがわかろう。このほか幕末には,政治運動に参加し,歴史の動向に影響を与えた人々のあったことも忘れてはならない。ちなみに,浪人の名儀は,維新に際会して消滅した。また浪人らは,士籍を失ったのちにも苗字帯刀を許されて武士のような体裁を保ったが,町方にあっては裏店(うらだな)の借家に住居し,身柄は町奉行の支配下におかれるなど,その法的身分は百姓,町人らとなんら変わるところはなかった。古代の浪人については〈浮浪・逃亡〉の項目を参照されたい。
執筆者:北原 章男
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…しかしながら,この方式にもいくつかの欠点がある。その第1は,中学校,高等学校での学業成績は,それぞれ個々の学校内での相対的な位置を示してはいるものの,学校差がある場合には,その側面が把握できない,第2としては,とくに大学入試のようにいわゆる浪人が受験する場合,浪人期間中の学力の水準向上がとらえられない,などがそのおもな点である。
[共通一次試験]
現在の日本では,高等学校への入学者選抜では,入学試験の成績と中学校での調査書の両者を組み合わせて,総合的に判定する方式が,一般的にはとられている。…
…また中世後期になると,各地の領主たちが領域内に関所を乱立させる傾向がみられるが,これも流通を阻害し,飢饉をはなはだしくする要因になった。
[飢饉の一般的状況と社会的影響]
飢饉下の農村では租税収奪の重圧も加わって,餓死者を出すだけでなく農民の農村からの離脱を生じ浪人を生み出す。彼らは山で薯蕷(やまいも),野老(ところ)など,河海で魚貝海藻類など自然物を採集して生き延びようとした。…
※「浪人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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