渡る(読み)ワタル

デジタル大辞泉 「渡る」の意味・読み・例文・類語

わた・る【渡る/渉る】

[動ラ五(四)]
間を隔てているものの一方から他方へ越えていく。「浅瀬を歩いて―・る」「橋を―・る」「廊下を―・る」
船や飛行機で海外へ行く。また、海外から来る。鳥が繁殖地と越冬地の間をいききすることもいう。「アメリカに―・る」「ツバメの―・ってくる季節」
通り過ぎていく。「木々を―・る風」「時雨しぐれが―・る」
あちらこちらと動いていく。わたりあるく。「方々の店を―・ってくる」
(「亘る」とも書く)ある範囲にまで及ぶ。また、広く通じる。「関東一円に―・って被害がでた」「彼の知識は古今東西に―・っている」
ある事柄にかかわりをもつ。関係する。「私事に―・って恐縮です」
ある時間・期間とぎれずに引き続く。「長時間に―・って論議する」「十年に―・る大工事」
世の中を生きていく。暮らす。「世の中を巧みに―・る」
他の人の所有物となる。「家屋敷人手に―・る」
10 配られて、ある範囲全体に届く。ゆきわたる。「資料が出席者全員に―・る」
11 相撲で、双方互角に組む。「四つに―・る」
12 一方から他方へ移動する。行く、または、来る。
「御みづからも―・り給へり」〈澪標
13 (中世以降、「せ給ふ」「せおはします」などと共に用いて)「ある」「居る」の尊敬語。おありになる。いらっしゃる。補助動詞としても用いる。
法皇、都の内にも―・らせ給はず」〈平家・七〉
「御ゆづりは此の宮にてこそ―・らせおはしましさぶらはめ」〈平家・八〉
14 (動詞の連用形に付いて)一面に、また、広く…する。また、…しつづける。「晴れ―・る」「鳴り―・る」「行き―・る」「さえ―・る」
[可能]わたれる
[下接句]危ない橋を渡る石橋をたたいて渡る負うた子に教えられて浅瀬を渡る剃刀かみそりの刃を渡る人手に渡る世を渡る
[類語]越える越す過ぎる通り越すまたぐ越境する踏み越える超す追い越す追い抜く行き過ぎる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「渡る」の意味・読み・例文・類語

わた・る【渡・済・渉・亙】

  1. 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙
  2. [ 一 ] ある経路を通って一方から他方へ行く。
    1. 船や馬などに乗って、また、泳いだり浅瀬を歩いたり、橋を使ったりして、海や川の一方の岸から他方の岸へ行く。
      1. [初出の実例]「山越えて 海倭(ワタル)とも おもしろき 今城のうちは 忘らゆましじ」(出典:日本書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡)
      2. 「龍田河紅葉乱れてながるめりわたらば錦中やたえなむ〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・二八三)
    2. 船や航空機で他国へ行く。また、他国から来る。渡航する。物が渡来することにもいう。
      1. [初出の実例]「すめろきの 遠の朝廷(みかど)と 韓国に 和多流(ワタル)わが背は」(出典:万葉集(8C後)一五・三六八八)
      2. 「宋朝より勝れたる名医わたれり」(出典:平家物語(13C前)三)
    3. 鳥が空中を飛び過ぎる。
      1. [初出の実例]「行方なくあり渡るともほととぎす鳴きし和多良(ワタラ)ばかくやしのはむ」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇九〇)
    4. 日や月が空を移動して行く。
      1. [初出の実例]「和多流(ワタル)日の影にきほひて尋ねてな清きその道またもあはむため」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四六九)
    5. 風などが吹き過ぎる。
      1. [初出の実例]「み山べの松の梢をわたるなり嵐にやどすさをしかの声〈惟明親王〉」(出典:新古今和歌集(1205)秋下・四四二)
      2. 「平畦に菜を蒔立(まきたて)したばこ跡〈支考〉 秋風わたる門の居風呂〈惟然〉」(出典:俳諧・続猿蓑(1698)上)
    6. ある所へ移動して行く。また、ある所へやって来る。
      1. [初出の実例]「かくや姫のみ御心にかかりて、ただひとりずみし給ふ。よしなく御かたがたにもわたり給はず」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「今一度北へわたれと仰ありければ、又北へわたりぬ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一五)
    7. ある場所を通り過ぎる。また、橋・道・廊下などを通って行く。
      1. [初出の実例]「後涼殿のはさまをわたりければ」(出典:伊勢物語(10C前)一〇〇)
      2. 「往来をわたって向う側の医院へ入って行った」(出典:抱擁家族(1965)〈小島信夫〉一)
  3. [ 二 ] 一方から他方へつながる。また、広がりおよぶ。
    1. 一方から他方へずっと続きつらなる。
      1. [初出の実例]「雲のうすくわたれるが、にび色なるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)薄雲)
    2. 現象や行為などが、ある範囲や年月に広がりおよぶ。
      1. [初出の実例]「之を大きにすれば則ち宇宙に彌(ワタリ)」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)六)
      2. 「このいましめ、万事にわたるべし」(出典:徒然草(1331頃)九二)
    3. 金銭、品物、憑き物、役目などがある人から他の人へ移る。
      1. [初出の実例]「朱雀院よりわたりまゐれる琵琶、琴(きん)」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
      2. 「からうじて、御もののけ、わたるべきに申しなしたるに」(出典:たまきはる(1219))
      3. 「月給は明後日でなければ渡らないとすると」(出典:破戒(1906)〈島崎藤村〉一)
    4. 話をつける。両者の間がうまくいくように交渉する。
      1. [初出の実例]「このあまもこのあまだ。なぜおれにわたらずにでた」(出典:洒落本・其あんか(1786)其ほのう)
    5. ( 転じて、他動詞的に ) 心付けなどを与える。
      1. [初出の実例]「おい与ス公、席料を渡りやせう。ト金を包んでやる」(出典:歌舞伎・網模様燈籠菊桐(小猿七之助)(1857)序幕)
    6. 囲碁で、低位の石と石とを連絡させるように、石を打つ。ふつう、三線以下に打つことをいう。
      1. [初出の実例]「定石知らぬ力碁に、先手も後手も打乱れ、渡り兼ねてぞこすみける」(出典:浄瑠璃・右大将鎌倉実記(1724)三)
    7. 相撲で、相方互角に組む。
  4. [ 三 ] 時間が経過する。
    1. 月日が過ぎて行く。
      1. [初出の実例]「向ひゐて一日もおちず見しかども厭はぬ妹を月和多流(ワタル)まで」(出典:万葉集(8C後)一五・三七五六)
    2. 日を送る。世を生きて行く。
      1. [初出の実例]「此の時は 如何にしつつか 汝が世は和多流(ワタル)」(出典:万葉集(8C後)五・八九二)
      2. 「ふねも往ぬまかぢもみえじ今日よりはうき世中をいかでわたらむ」(出典:大和物語(947‐957頃)一五七)
  5. [ 四 ] 「あり」「をり」の尊敬語。おありになる。「給ふ」「せ給ふ」を添えて用いることが多い。
    1. [初出の実例]「乱逆打つづいて、君やすい御心もわたらせ給はざりしに」(出典:平家物語(13C前)三)
  6. [ 五 ]助動詞として用いる。
    1. ( 動詞の連用形に付く ) あたり一面に…する。
      1. [初出の実例]「狭井河よ 雲立ち和多理(ワタリ) 畝火山 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす」(出典:古事記(712)中・歌謡)
      2. 「梢も庭もめづらしく青みわたりたる卯月ばかりのあけぼの」(出典:徒然草(1331頃)一〇四)
    2. ( 動詞の連用形に付く ) ある期間ずっと…しつづける。
      1. [初出の実例]「奥山の樒(しきみ)が花の名のごとやしくしく君に恋ひ和多利(ワタリ)なむ」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四七六)
    3. ( 形容詞形容動詞の連用形および断定の助動詞の連用形、または、それに助詞「て」を添えた形に付く ) …でいらっしゃる。…でおいでになる。
      1. [初出の実例]「さきのきさいの宮にて、幽なる御ありさまにてわたらせ給しかば」(出典:平家物語(13C前)一)
      2. 「おろかにわたらせたまふ物かな」(出典:曾我物語(南北朝頃)三)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android