狩猟に使役するイヌ。鳥や獣を見つけ出し,追いかけ,つかまえることが得意な種類のイヌをいい,一般に獣猟に使う猟犬を獣猟犬,鳥猟に使う猟犬を鳥猟犬と呼ぶ。古くから獣猟にはイヌが大きな役割を果たし,その特性は現在の獣猟犬にも受けつがれている。すなわち,身軽で駿足,勇敢,適度な追い鳴きの能力をもったイヌで,英語ではハウンドhoundと呼ばれるグループ。グレーハウンド,ダックスフント,ビーグル,ボルゾイ,サルキーなどで,日本でシカ,イノシシなどの大物猟に用いられる紀州犬,甲斐犬,秋田犬(秋田マタギ)などもハウンドに分類される。日本犬の場合,猟芸のよい,狩猟に向いたイヌを交配するので,必ずしも純血種がよいとは限らない。
鳥猟としては鷹狩が古く,その際イヌは獲物の発見と追いたてを受け持ったが,猟銃による狩猟が行われるようになると,イヌは狩猟者を補佐し,獲物の発見,追いたて,追跡,回収などの仕事の一部分を受け持つようになった。獲物の方位を前肢を曲げてポイント(指示)するポインターpointerや,セット(伏せる姿勢のことであるが,現在は伏せず立ち止まって頭を向ける姿勢も含む)して知らせるセッターsetter(セターともいう),撃ち落とされた獲物をくわえてレトリーブ(回収)するレトリーバーretriever,あるいはその全般をこなすスパニエルspanielが知られている。なかでもイングリッシュ・ポインター,イングリッシュ・セッターが鳥猟犬として,日本ではもっとも多く使用されている。
獣猟犬と鳥猟犬のほかにテリアterrierがあり,小獣の狩猟に用いられる。テリアの語源はラテン語terra(土地)で,地中の穴に棲息するアナグマ,イタチ,ウサギ,ネズミなど主として害獣を駆除する目的でつくられたイヌである。
→イヌ
執筆者:岩堂 憲人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狩猟に使役するイヌ。人類がイヌを使役し始めたのは、少なくとも9500年以上の昔と推定されているが、イヌはそうした古代から人類の狩猟の助手を務めてきたため、多くの犬種(品種)や系統に分かれている。
猟犬には指示犬、狩出犬、回収犬、緩追犬、速追犬、格闘犬などがある。指示犬の主要犬種は、ポインター、イングリッシュセッター、アイリッシュセッター、ゴードンセッター、ブリタニースパニエル、ワイマラナー、マジャールビスラ、ジャーマンショートヘアードなどで、キジ、ヤマドリ、コジュケイ、ウズラなど、草むらに隠れている狩猟鳥をすばやく突き止めて、主人に教えるように仕込まれる。狩出犬はおもにスパニエル族がこれに属し、狩猟鳥の潜んでいる周囲を跳ね回って追い立て、主人に発砲の機会を与える。コッカースパニエル、スプリンガースパニエルなどがその代表で、小形日本犬(柴犬(しばいぬ))などもこれに含まれる。回収犬は、深い茂みや水生植物の中に落とされた獲物や、負傷して逃亡する獲物などを回収するためのイヌで、ラブラドルレトリバー、チェサピークベイ、ゴールデンレトリバー、ウォータースパニエルなど。緩追犬はノウサギ、タヌキ、アナグマなど小形獣類の足臭をゆっくりたどって主人のほうへ追ったり、自らかみ伏せたりする犬種で、ビーグルが代表。速追犬はシカ、イノシシ、キツネなどを俊敏に追いかけてかみ伏せ、主人に発砲の機会を与える犬種で、ウォーカーハウンド、プロットハウンドなどが著名。格闘犬は、イノシシ、クマなど大形野獣と格闘して倒したり、主人が現場にくるまで獲物が逃げぬようほえ続ける気丈な犬種で、代表的なものは紀州犬やエアデールテリアなど。
猟犬の訓練は、銃声に慣らすこと、獲物の捜索法、獲物を発見してからこれを主人に撃たせるための攻め方、撃った獲物の処理方法(回収または看守。負傷逃亡するものは追跡して捕捉(ほそく))などが課目で、完成にはほぼ3年かかるとみてよい。
[白井邦彦]
『白井邦彦著『鳥猟犬』上下(1963・西東社)』
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…チワワ(イラスト)はこの類に近い。
[用途別分類]
系統的な分類がきわめて不安定なため,一般には用途別の分類が行われており,ふつう猟犬と非猟犬に大別する。[1]猟犬 (A)獣猟犬 獲物を追う方法から視覚型と嗅覚(きゆうかく)型に分ける。…
…こういう狩りには最低でも20頭(そのためには30頭飼っていなければならない)の犬が要り,多額の費用がかかる。狼狩りを除いては国有林での狩猟は個人には禁じられているし,森の狩猟では地主の許可も要るので,鹿狩りは特権階級のスポーツとなり,銃と散弾の発達は猟犬1,2頭でできる鳥猟を19世紀に普及させ,鷹狩りは急速に衰えた。 フランスでは大統領が外交団を招待する鹿狩りがランブイエの森で行われている。…
※「猟犬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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