哺乳(ほにゅう)綱食肉目イヌ科に属する家畜イヌのうち、日本土着の立ち耳、巻き尾または差し尾をもつ品種の総称。犬種団体(日本犬保存会、JKCなど)が認める日本犬は、秋田犬、北海道犬、紀州犬、四国犬、甲斐犬(かいけん)、柴犬(しばいぬ)の6犬種である。ほかに、土着ではないが日本を原産国とする品種としては、チン、日本テリア、土佐闘犬、日本スピッツなどがあるが、これらは日本犬とはよばない。
[増井光子]
日本にもイヌ科の野生種としてニホンオオカミが生息したが、これは日本犬の先祖とは考えられていない。日本犬の先祖は、人の移住につれて日本へ渡来したとみなされている。日本最古の家イヌの化石は、神奈川県などの貝塚で発掘され、9500年ほど前のものといわれている。日本犬は主として獣猟犬として、中形のものはクマ、シカ、野生イノシシ猟に、小形のものは小獣、鳥猟などに用いられてきたが、西洋犬種のように体形に著しい人為的影響を及ぼすような作出はなされず、むしろ自然のままに飼育されてきた。
[増井光子]
長い歴史を有する日本犬であるが、大正時代に入るまでは特別に保存しようという運動もおこらなかった。西洋犬種の渡来は1583年(天正11)にすでにみられ、外国との交流がしげくなるにつれてしだいにその数を増し、在来種との交流も進んだ。とくに明治時代になると、闘犬の流行もあって雑化は急速に進んだ。身近に見慣れた在来種より、珍しい西洋犬に人々の目がひかれた結果、徐々に純度の高い日本犬は姿を消していった。しかし、数が少なくなってようやく保存運動がおこり、1928年(昭和3)日本犬保存会が設立され、血統台帳の作成や、品種の保存と改良が本格的に行われるようになった。
かつて日本犬には、全国各地にその土地の名をつけられた多くの系統がみられた。文部省(現、文部科学省)は純度の高い在来種を文化財として天然記念物に指定し保存を図った。日本犬種のうち天然記念物の指定を受けた品種には秋田犬(1931年7月指定)、甲斐犬(1934年1月)、紀州犬(1934年5月)、越の犬(こしのいぬ)(1934年12月。絶滅とみなされる)、柴犬(1936年12月)、四国犬(1937年6月)、北海道犬(1937年12月)がある。
[増井光子]
日本犬は品種として固定され、根強いファンを有している。第二次世界大戦後、秋田犬はアメリカ合衆国西部に渡り愛好者を増やした。小形の柴犬の海外進出もみられ、日本犬のなかで飼育数、輸出数ともその伸びが著しい。前述の6犬種のほか、かつてはマタギ犬なども存在したが、現在はごく少数が愛好者に飼育されているにすぎず、戦後多少みられた岩手マタギは中形犬のなかに吸収されたとみられる。このマタギ犬の衰退には、専門猟師の減少のほかにドッグショーが関与していると思われる。犬種団体はかつては日本犬を大形、中形、小形と分け、地域色を重視しなかったため、ドッグショーの上位入賞を目ざして、中形どうしなら北海道犬と四国犬とか、紀州犬と四国犬といった異系交配がなされたことがある。中形に入るにはサイズが大きすぎ、大形には不足のマタギ犬はショーでは不利で、自然に中形犬のなかに吸収されたようである。
小形犬である柴犬にも、信州柴のほか山陰小形などがあったが、現在の柴犬はほとんど信州柴の系統である。しかし、地域的には山陰小形もまだ飼育されている。また、異系交配は影を潜め、各地方色豊かな犬種がそれぞれ一犬種として認められている。山陰小形にも復活の道は残されていよう。岐阜・愛知地方には、第二次世界大戦前から美濃柴(みのしば)といわれる小形犬がいた。この美濃柴は、短胴のものがみられること、毛色が独特の緋赤(ひあか)のものが多いこと、舌に黒斑(こくはん)をもつものが出ることなどから、その純度を疑われ公認犬種にはなっていない。しかし、遺伝子構成上は紛れもない日本犬の一系統とされるものであり、信州柴に押される山陰小形ともども貴重な在来種といえよう。そのほかの小形犬種としては、薩摩(さつま)犬、四国小形もみられなくなっている。
[増井光子]
前述のように日本犬は、古い骨からみてニホンオオカミ(すでに絶滅した)から家畜化されたのではないと考えられている。その理由は、古い日本犬の骨は小形であったのに対し、ニホンオオカミの骨は、大形であったことである。
イヌの血液に含まれている種々のタンパク質の型について生化遺伝学的に調べられ、その型を支配している遺伝子の構成比率の犬種間の違いについてコンピュータを使って分析が行われた。その結果、血液タンパク質型を支配している遺伝子構成が、日本犬種と西洋犬種とは著しく異なっていた。日本犬種のなかでは、北海道犬は台湾の高山地方の在来犬種と近かった。また北海道犬を除く日本犬種の遺伝子構成は、韓国の在来犬種である珍島犬と多くの類似性がみいだされた。このことから、日本国土には初め南方から入った古いイヌがいて、その後朝鮮半島から新たにイヌが入り、この両者の混血により現在の大部分の日本犬種の祖先がつくられたと考えられた。北海道犬では、この混血がほとんど行われなかったと推定された。このような日本犬の起源は、日本に先住民族として縄文人がおり、その後朝鮮半島を経て弥生(やよい)人が渡来したという、人の歴史との関連が注目される。北海道のアイヌが古い型のイヌをもっており、これが現在の北海道犬になったと考えられる。
[田名部雄一]
『田名部雄一著『犬から探る古代日本人の謎』(1985・PHP研究所)』
日本在来のイヌで,大型,中型,小型の3種に大別される。大型犬は秋田犬に代表され,中型犬は北海道犬,紀州犬,四国犬などで,小型犬は柴犬に代表される。秋田犬は闘犬の時代を経て観賞犬として発展してきたが,中・小型犬は縄文・弥生文化時代から獣猟犬として,全国各地域でそれぞれの特徴をもって今日に伝えられている。いずれも体軀(たいく)頑健で粗食に耐え,被毛は粗剛,尾は力強く巻き,耳は小さい三角形でやや前傾して立ち,性質は強豪で闘争心に富み,獣猟に最適である。しかし,主人やその家族にはきわめて忠実である。各犬種にはそれぞれの保存会や日本犬保存会が組織され,良質の遺伝形質の保存と改良がはかられ,いずれも文部省指定の天然記念物になっている。
執筆者:一木 彦三
大型,中型,小型の3種のうち,小型犬と中型犬は新石器時代から日本に生息し,南アジアに半野生の状態で分布するパリア犬に酷似するといわれている。パリア犬はディンゴとともにプチアチニ直系の原始的な品種(単一品種かどうかは疑わしい)と考えられるが,日本の小・中型犬もおそらく同じ系統のものであろう。大型の秋田犬は日本の中型犬に北方系の樺太犬などを交配してつくりだしたといわれる。日本犬にはニホンオオカミの血が混じっているとの説もあるが,形態的にはそのような兆候はみられない。ニホンオオカミは多くの点で大陸のオオカミとも違っており,イヌとの血縁はオオカミよりも明らかに遠い。
執筆者:今泉 吉典
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