長野・岐阜・愛知の三県境に接する木曾山脈の
川の名は、すでに承和二年(八三五)六月二九日の太政官符(類聚三代格)に「飽海川」(現豊川)とともに「参河国飽海矢作両河各四艘元各二艘。今加各二艘(中略)右河等崖岸広遠不得造橋」とみえる。従来からの官渡船二艘に新たに二艘を加えるというもので、川幅が広いので橋は架けられなかった。当時の川は乱流していて、渡場や渡河点も一定せず、岡崎市を例にとると西岸では
この地方への真宗(一向宗)の布教は建長八年(一二五六)親鸞の高弟真仏・顕智らが矢作の薬師堂で念仏勧進を行ったのが最初といわれるが、三河三ヵ寺の一つ
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
木曾山脈南部の阿(あずま)岳南斜面を源とし,愛知県の中央部を南流して三河湾に注ぐ川。幹川流路延長117km,全流域面積1830km2。上流山間地はほとんどが花コウ岩類からなり,多量に土砂を流出し,県内第3位の広さをもつ西三河平野(岡崎平野)を形成している。巴川,乙(おと)川など主要な支流は三河高原から西流して矢作川左岸に合流している。現在の矢作川の下流部は1605年(慶長10)に開削された人工の水路で,旧本流(矢作古川)は西尾市小島町付近で分流し,同市の旧吉良町を通って三河湾に達する。矢作川の沖積地は弥生時代から水田として利用されたが,近世以降本格的な干拓が進められ,多数の新田が沖へ向かって開発された。矢作川舟運は近世から明治期に栄え,上り荷として塩,酒,肥料,下り荷として米,木炭,繭,瀬戸物などがあり,挙母(ころも)(現,豊田市)や岡崎が中継地としてにぎわった。明治・大正期には矢作川の水と西三河産のワタを原料として水車紡績や船紡績が発達し,岡崎はガラ紡の全国的産地になった。
農業用水源としても重要で,明治時代に枝下(しだれ)・明治両用水が開削され,碧海台地を一大農業地域に変貌させた。1971年には西三河地域一帯に農業・工業・上水道用水を供給する矢作ダム(総貯水量8000万m3)が完成した。上流部は愛知高原国定公園に指定され,奥矢作湖,香嵐渓,勘八峡,鞍ヶ池などの観光地がある。矢作川と支流の乙川を天然の堀とする岡崎城は徳川家康生誕の城である。
執筆者:溝口 常俊
矢作川の付替え工事は1605年国役普請として江戸幕府が一部の費用を負担し,他を地元の三河に所領をもつ領主と本百姓に負担させたものである。普請奉行は徳川家康の近臣で前年に三河の検地奉行をつとめた米津(よねきづ)清右衛門尉という。中世に岡崎から8kmほど下流の浅井村と江原村(ともに現,西尾市)の間の山を掘って川を通したが,工事が難航したので川幅を狭くした。ところが洪水になると逆流して8km川上の矢作(現,岡崎市)まで滞水し,岡崎より下の村の堤が切れて周辺の村が水難を受けた。そこで瀬替え工事はこの山を避け碧海郡の藤井村(現,安城市)で分流させ,西尾の西を経て幡豆(はず)郡平坂(へいさか)村(現,西尾市)で知多湾に注ぐようにした。また,上流の岡崎で合流させた支流の菅生(すごう)川の旧流路は肥沃な耕地に変わった。しかしこの工事で木戸村(現,安城市)から米津村(現,西尾市)までを急こう配にしたので,上流からの土砂が年とともに増加し,海は浅瀬となり,さらに川底を埋め,川の流れが緩慢となり,周辺の村は慢性的水損地となった。
執筆者:岡 光夫
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愛知県西三河地方を北から南に貫流する川。源流は長野・岐阜両県の山地、途中は花崗(かこう)岩類の三河山地、岡崎平野を経て三河湾(衣ヶ浦(ころもがうら)湾)に注ぐ。延長117キロメートル、流域面積1830平方キロメートル。矢作古川(やはぎふるかわ)が旧本流であるが、1605年(慶長10)に人工開削によって現本流は衣ヶ浦湾に注ぐようになった。上流は山地、下流は岡崎平野、湾岸はノリ養殖の盛んな農漁村で、岡崎平野の豊田(とよた)、岡崎、刈谷(かりや)、安城(あんじょう)、西尾、碧南(へきなん)、知立(ちりゅう)、高浜の八都市は自動車産業を中心に工業の盛んな地域である。すなわち、上流は山村、下流は漁村、中間に工業都市という配置から厳しい水資源の問題を抱えている。明治期の矢作川は農業用水の給源で、「明治用水」「枝下用水(しだれようすい)」が開削され、碧海(へきかい)台地は二用水の通水によって約1万ヘクタールの水田と化した。
[伊藤郷平]
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