〘名〙
① 光がささないで、暗い状態。くらがり。くらやみ。
※
万葉(8C後)四・六九〇「照る月を闇
(やみ)に見なして哭く涙衣ぬらしつ干す人なしに」
※
山家集(12C後)上「錦はる秋の梢を見せぬ哉へだつる霧のやみをつくりて」
② 夜、月のない暗い状態。また、その夜。特に、陰暦二〇日以後まだ月の昇らない夜、または月のない晦(つごもり)の夜。やみよ。
※万葉(8C後)八・一四五二「闇夜(やみ)ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜にいでまさじとや」
※枕(10C終)一「夏は夜、月の頃はさらなり、やみもなほ、蛍のおほく飛びちがひたる」
③ (暗い中ではなにも見えずに、迷うところから) 思慮分別のなくなること。理性を失った状態。
※後撰(951‐953頃)雑一・一一〇二「人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまどひぬる哉〈
藤原兼輔〉」
④ 特に仏教で、さとりの開けないこと。往生の妨げとなる迷い。煩悩(ぼんのう)。
※後拾遺(1086)雑三・一〇二六「君すらもまことの道に入りぬなり一人や長きやみに惑はむ〈選子内親王〉」
⑤ 知識のくらいこと。物事がはっきりとわからないこと。気がつかないこと。
※大鏡(12C前)一「まして
大臣などの御事は、
としごろやみにむかひたるに、
あさひのうららかにさしいでたるにあへらん心地もする哉」
⑥ 先の見通しがつかないこと。希望をもつことができないこと。
方途を失うこと。
⑦ (暗い中では見ることができず、混乱するところから) 乱れておさまらないこと。乱脈なこと。
※後撰(951‐953頃)秋中・三二四「秋の月つねにかく照るものならばやみにふる身はまじらざらまし〈よみ人しらず〉」
⑧ 文字を解しないこと。文字が読めないこと。
※
咄本・醒睡笑(1628)三「
南無の二字ばかりを、いかがしてか見知りたる、その余の文字は闇なる男」
※一兵卒の
銃殺(1917)〈
田山花袋〉二〇「でなくっちゃ闇へやった子に対してもすまないと思ってゐたんだから」
⑩ (陰暦で、月の三〇日は闇夜であるところから) 三、三〇、あるいは三〇〇をいう
馬方、
駕籠舁(かごかき)などの
符丁。
※滑稽本・狂言田舎操(1811)上「今いふ通りだから、三百
(ヤミ)で能かア遣ます
べい」
⑪ (遠くて目標をはっきり見定め難いところから)
鉄砲を撃つ時の、百間(約一八〇メートル)の距離。
※
上杉家文書‐(年月日未詳)(
江戸)鉄砲一巻之事「昔は百間をばやみと申候て放し不
レ申候」
※雑俳・柳多留‐四二(1808)「荒海や闇を着て寐る楽屋番」
⑬ 公定価格または正規の手続きによらないこと。闇取引をすること。また、その取引や商品、値段など。
※華燭(1947)〈中山義秀〉「縹は古い布やヤミの薄い木綿地などを狭い部屋の中いっぱいに散りひろげて」