酵母(読み)コウボ(英語表記)yeast

翻訳|yeast

デジタル大辞泉 「酵母」の意味・読み・例文・類語

こう‐ぼ〔カウ‐〕【酵母】

子嚢菌しのうきんの球形または楕円形単細胞の菌。ふつう、出芽によって増殖し、アルコール発酵を行うので、酒の醸造やパン製造に利用される。酒酵母・ビール酵母・ぶどう酒酵母・パン酵母など、多くの種類があり、それぞれ別種の固有の菌で醸造または発酵される。イースト酵母菌
[補説]書名別項。→酵母
[類語]細菌バクテリア球菌乳酸菌黴菌雑菌病原菌病原体大腸菌サルモネラ菌ピロリ菌ヘリコバクターピロリスピロヘータリケッチアウイルスイースト青黴麹黴

こうぼ【酵母】[書名]

《原題Yeastチャールズ=キングズリーの処女小説。1848年発表、1851年刊行。社会・宗教問題をテーマに描かれた。

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精選版 日本国語大辞典 「酵母」の意味・読み・例文・類語

こう‐ぼカウ‥【酵母】

  1. 〘 名詞 〙こうぼきん(酵母菌)」の略。
    1. [初出の実例]「人生百般の事業は譬へば猶ほ酒の如し。自由は譬へば猶ほ酵母の如し」(出典:三酔人経綸問答(1887)〈中江兆民〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「酵母」の意味・わかりやすい解説

酵母 (こうぼ)
yeast

通常の生育状態が主として単細胞で,出芽または分裂により増殖する菌類の総称。酵母菌ともいうが,いずれも分類学上の用語ではない。子囊胞子を形成するサッカロミケスSaccharomyces,ピキアPichia,ハンゼヌラHansenula,デバリオミケスDebaryomycesなどは子囊菌類に由来し,冬胞子(テリオスポアーteliospore)を形成するロドスポリディウムRhodosporidium,レウコスポリディウムLeucosporidium,その半数体のロドトルラRhodotorulaスポロボロミケスSporobolomycesなどは担子菌類に由来すると考えられている。また,胞子を形成しないため,その由来の明らかでないカンジダCandidaのような無胞子酵母がある。細胞はおおむね円形ないし楕円形で,楕円形の場合短径が約3~4μm,長径が8~10μmである。

 出芽によって増殖する場合,出芽する場所の一定していないサッカロミケスのような酵母と細胞の両極より出芽するハンゼニアスポラHanseniasporaやクレッケラKloeckeraのような酵母がある。またカンジダのように偽菌糸や隔壁のある真正菌糸をつくるものがある。菌糸状の細胞が切断して生じる単細胞を分節胞子という。スポロボロミケスは細胞の表面から特殊な突起状の細胞を出し,その先端に生じた胞子は水滴がはじけるような機構で飛散する。このような胞子を射出胞子という。子囊菌類由来の酵母は細胞どうしの接合により子囊のなかに子囊胞子を形成し,その数は1~4個であるが,ある種の酵母では16個以上つくることがある。この場合,ホモタリズムヘテロタリズムが知られている。胞子の形状は球状,帽子状,土星状などあり,分類の指標となっている。担子菌類由来のロドスポリディウムでは接合型の異なる半数体細胞が接合し,担子菌類特有のカスガイ連結をとおして核が移動し,カリオガミー(核の合一)ののち,減数分裂をおこない,プロマイセリウム(前菌糸体)に4個の半数体細胞(小生子)が生じ,生活環が完成する。生活環の明らかでない無胞子酵母ではその類縁性を研究するのが困難であったが,最近では接合型の発見とともにDNAの塩基組成,DNA分子間の相同性,呼吸に関係するキノンの構造,各種酵素の電気泳動パターンにより類縁を研究する化学分類学の技法が発達し,この分野からの情報が無胞子酵母の類縁性の研究に役だっている。

 酵母の生化学的特徴はアルコール発酵に見られ,古くからブドウ酒,ビール,日本酒などの酒類の醸造に用いられている。また,発酵にともない炭酸ガスを生成するので,この性質はパンの製造に用いられている。パン酵母(イースト)を用いたブドウ糖の解糖系の研究は有名である。酵母には多数の種類があるので,サッカロミケスのようにアルコール発酵をして,醸造に用いられるものも,ロドトルラのようにアルコール発酵をしない酵母もある。酵母菌体はタンパク質やその他の栄養成分に富むので,食糧,飼料として注目されている。古くは第1次世界大戦のさい,ドイツが酵母菌体より人造肉をつくった。また,亜硫酸パルプ廃液キシロースなどの糖類を含むので,これらの糖類を利用する酵母を用いる菌体生産が実用化されている。最近では,炭化水素メタノールのような物質からの微生物タンパク質single cell protein(SCP)の生産が研究されている。酵母菌体より核酸を抽出し,加水分解し,核酸調味料を製造する技術は日本の研究者により開発,実用化された。

 酵母は自然界に広く分布しているが,一般に糖分を含む試料より多数分離される。果実,野菜,発酵食品ナチュラルチーズなどはよい分離源であるが,土壌,河水,海水などからも分離される。カンジダ・アルビカンスCandida albicansはいわゆるカンジダ症の原因菌で,本症の患者の粘膜,皮膚などから分離される。現在酵母のカテゴリーに入るものは約60属,約450種が知られている。
菌類
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化学辞典 第2版 「酵母」の解説

酵母
コウボ
yeast

菌類の一種で,形状は丸みを帯び,大きさが6~7 μm の真核生物.生活環の大部分が単細胞であり,主として出芽によって増殖する.真核生物のモデルとして,突然変異体を利用した遺伝学的解析に広く用いられている.糖質をアルコールと二酸化炭素にかえる発酵能を有するものが多く,古くから酒,しょう油などの醸造や,パンの製造などに用いられている.ビタミンB群が多く含まれるので,健康食品としても扱われている.酵母の分類には不確かなところもあるが,およそ40属350種類が同定されている(菌類全体の0.8% 弱に相当する).Saccharomyces属は古くから発酵醸造に用いられている.通常は出芽によって増えるが,次のような有性生殖を行う場合もある.まず,細胞が接合し,ついで減数分裂を行って4個の子のう胞子をつくる.この過程を利用すると4分子解析が可能で,遺伝学のよい材料となっている.このほか,Schizosaccharomyces pombeのように,出芽ではなく,隔壁を形成して分裂することにより増殖するもの(fission yeast),カンジダ症を引き起こすCandida属,発酵能を欠くDebaryomyces属など多様な酵母が存在する.

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百科事典マイペディア 「酵母」の意味・わかりやすい解説

酵母【こうぼ】

酵母菌とも。出芽または分裂によって増殖し,生活環のほとんどを単細胞で過ごす菌類の総称。地中,水中,植物体,有機物上などに存在。多くは糖分を分解してアルコール発酵を行うので,古くから酒の醸造に用いられてきた。また発酵に際して,炭酸ガスを発生して,液面に多量の泡(あわ)を立てる性質はパンの製造に利用される。酵母の成分は種類や培養法によって異なるが,タンパク質,ビタミン類に富み栄養価は高い。実用的種類にはビール酵母,清酒酵母,ブドウ酒酵母,パン酵母(イースト),薬用酵母(乾燥酵母)などがある。
→関連項目真菌

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「酵母」の意味・わかりやすい解説

酵母
こうぼ

イーストともいい、酵母菌類に属する菌。古くは酒のもろみ(諸味)中でアルコール発酵のもと(原因)となったものを酒母(しゅも)とよんだが、明治以後これを広く解釈して醸母(じょうも)とよぶようになった。アルコール発酵の原理が解明され、いつしか酵母というようになった。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「酵母」の意味・わかりやすい解説

酵母
こうぼ
yeast

真菌類に属する単細胞の生きている菌の塊で,パンの製造やビール,ぶどう酒醸造などに用いられる。この細胞は楕円形で出芽によって増殖する。蛋白質を多く含み,ビタミン,酵素類に富んでいるので,栄養価はきわめて高い。英語のイースト yeastは,ギリシア語の「沸騰する」の意からきている。

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とっさの日本語便利帳 「酵母」の解説

酵母

糖分をアルコールに変える微生物。香りの成分も作り出す。日本醸造協会が頒布するきょうかい酵母が一般的。中でも熊本県の「香露」を造る蔵元から採取された9号は、香り高く品質の良い酒ができると、吟醸酒造りに使う蔵が多い。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

栄養・生化学辞典 「酵母」の解説

酵母

 単細胞で,形がほぼ球形の真核微生物.生活環の大部分を,単細胞で経過する.[Saccharomyces]属など,酒,食品の発酵に有用な菌もある.

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