飛鳥池遺跡(読み)あすかいけいせき

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「飛鳥池遺跡」の意味・わかりやすい解説

飛鳥池遺跡
あすかいけいせき

奈良県大和盆地南部,明日香村にある飛鳥寺の南東地域で発見された古代の巨大工房遺跡。1998年以後に,工芸品の一大生産拠点であったことをうかがわせる金,銀,銅,ガラスの鋳造関係資料,板金・鍛造関係資料,木簡などの遺物が大量に出土している。鋳造関係としては,日本最古の銅銭である富本銭のほか,銅鏡(海獣葡萄鏡),板菩薩,ガラス玉などを生産し,未成品,失敗品,坩堝などの鋳銅用品が炭や灰とともに大量に見つかった。板金製品としては銅の人形(祭祀具),金銅(こんどう。金メッキした銅)の飾り金具などがあり,鍛造品としては鉄鏃,鉄刀子,鉄釘などがある。木簡は 7世紀後半のものが主体をなしていて,最古級の木簡資料群としてきわめて重要である。遺跡の中央部では天皇,皇子とかかわる出土品が多く,飛鳥寺に近い北部では寺院,僧侶関係の出土品が多い。また日本の各地から輸送された物資荷札も多数みつかっている。これらから天皇,,五十戸(さと。→)の表記など天武朝を中心とする古代国家の仕組みを復元する多くの情報が得られている。飛鳥池遺跡の特色は,鋳銭のような国家的生産活動を行なっていることと,非常に広範な分野の生産を狭い地区に集中させていることにある。これは,古墳時代の氏族集団が手工業を分掌する仕組み(鏡作鍛冶鞍作など)とも,奈良時代以後の官司役所)ごとに手工業を管理する官営工房の仕組みとも,大きく異なるものである。飛鳥池遺跡での生産は,古代律令国家(→律令制)の形成期に試行された国家的試験事業であった可能性が高い。

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日本歴史地名大系 「飛鳥池遺跡」の解説

飛鳥池遺跡
あすかいけいせき

[現在地名]明日香村大字飛鳥 古池

七世紀後半から八世紀前半の官営工房跡。酒船さかぶね石のある丘陵から二つの支脈北方に延び、その間を近世に堰止めて飛鳥池とよばれる溜池が造られていた。溜池廃止後、農地造成や美術館建設地となったため、平成一一年(一九九九)事前調査が実施された。

幅四〇〜五〇メートル、長さ八〇メートル以上にわたり、谷筋に掘立柱建物、多数の炉跡が斜面を造成したテラスに設けられていた。

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百科事典マイペディア 「飛鳥池遺跡」の意味・わかりやすい解説

飛鳥池遺跡【あすかいけいせき】

飛鳥寺の東南の谷筋で発見された,飛鳥時代の大規模な工房遺跡で,国の史跡。県立万葉文化館の敷地内で,発掘の結果ガラス・水晶・金・銀・銅製品などの製作が分かっており,大量の木簡も出土。また,和同開珎よりも古い最古の鋳造銭とされる富本銭の製造地であることも判明している。
→関連項目富本銭和同開珎

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