高・貴(読み)たかい

精選版 日本国語大辞典 「高・貴」の意味・読み・例文・類語

たか・い【高・貴】

〘形口〙 たか・し 〘形ク〙 相対的に、上下関係として把握(はあく)できる事柄で、上位にあるさま。
[一] 空間的に上の方にあったり、上の方まで広がってあったりするさま。
① 上の方にある。
書紀(720)雄略九年七月(前田本訓)「其の馬時に濩略(もこよか)にして龍のごとくに翥(と)ぶ。(あかしま)に聳(タカク)(ぬけい)てて、鴻(かり)のごとくに驚く」
源氏(1001‐14頃)夕顔「日たかくなれど、起き上り給はねば」
② 盛り上がったり積もったりして、上の方まである。積もって多い。
※書紀(720)天武二年八月(北野本訓)「時寒(このころ)波嶮(タカシ)
※伊勢物語(10C前)八三「比叡の山の麓なれば、雪いとたかし」
※門(1910)〈夏目漱石〉「行き当りが高い崖で」
③ 丈(たけ)が長い。
※書紀(720)景行四〇年七月(北野本訓)「身体(みみむくろ)(タカク)(おほき)にして容姿(すがた)端正(きらきら)し」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「草もたかくなり、野分に、いとど荒れたる心地して」
④ 外部に盛り上がり、突き出ている。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「『あな、かたは』と見ゆる物は鼻なりけり。〈略〉あさましうたかうのびらかに」
※門(1910)〈夏目漱石〉一「小六は御米の後姿の、羽織が帯で高くなった辺を眺めてゐた」
[二] 音や声が大きかったり、その振動数が多いさま。また、広く知れているさま。
① 音や声が大きくて強い。
万葉(8C後)一七・四〇〇六「海人小舟(をぶね)入江漕ぐ 楫の音多可之(タカシ)
※十五年間(1946)〈太宰治〉「まったく新しい現実。ああ、これをもっともっと高く強く言ひたい!」
高音である。音や声の振動数が多い。
※玉塵抄(1563)一「てうしの高う、つをうあるは陽ぞ。ひくうこわいは陰の音なり」
③ (音が広くひろがるさまの意から) 広く知れわたっている。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「先帝の四の宮の御かたちすぐれ給へる聞え高くおはします」
[三] 価値や序列について、上位にあるさま。
① 身分や地位が上位にある。高貴である。
※書紀(720)雄略即位前(前田本訓)「天位(タカキみくら)(〈別訓〉たかみくら)」
徒然草(1331頃)一一七「友とするにわろき者、七つあり。一つには、高くやん事なき人」
② 容姿や品位がすぐれている。上品である。
※書紀(720)持統称制前一〇月「皇子大津は〈略〉容止(みかほ)墻岸(タカクさかしく)て」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「品たかくうつくしげなり」
③ 精神的にすぐれている。思念、理想などが、すぐれている。
※書紀(720)皇極三年正月「意気(こころばへ)の高(タカク)(すぐ)れて」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「たかき心ざし深くて」
④ みずからすぐれていると思ったり、振る舞ったりするさまである。高慢である。「お高い人」
歌舞伎幼稚子敵討(1753)口明「『矢流の奥方桂様でござりますとな〈略〉』『それにしては高いものでござる』」
※野分(1907)〈夏目漱石〉一「あなたの様に高(タカ)く許り構へて居らっしゃるから人に嫌はれるんですよ」
⑤ (抽象的な事柄について) その力量・機能などの点ですぐれている。「目が高い」「見識が高い」
※現代文学における意図の問題(1957)〈十返肇〉三「実質以上の高い評価を世間から浴びるのは」
※現代経済を考える(1973)〈伊東光晴〉V「もっともっと生産性の高い技術を生みださなければならない」
[四] 数量が多いさま。
① 時間が多く経過している。
※書紀(720)顕宗二年八月(図書寮本訓)「老(としタカキ)(さかしきひと)
※中国知識人の自己改造(1951)〈竹内好〉三「かれは年齢も相当高いし」
② 金のかかるさまである。高価である。
※玉塵抄(1563)六「食物大切でたかいことは」
※門(1910)〈夏目漱石〉五「思ったより高い療治代を取られるかも知れないと」
③ 温度、湿度緯度などの数値が大きい。また、評判の度合が大きい。
※護持院原の敵討(1913)〈森鴎外〉「熱が高いので譫語(うはこと)に」
※憲法講話(1967)〈宮沢俊義〉七「比例代表の人気がいちばん高かった」
[語誌](1)「岳(たけ)」と同根。空間的用法が原義であり、もっとも一般的な用法として、上代からみえ、現代に至る。
(2)現代語では形容詞ヒクイと対義関係をなしているが、ヒクイ(古語ではヒキシ)の成立は、ヒキシが鎌倉時代以降、ヒクイが室町時代末期とタカシに比べて遅い。したがって、それ以前は形容動詞ヒキナリ、ヒキヤカナリなどのほか、形容詞ミジカシ、イヤシ、連語クダレリ、オクレタリなどがタカシの対義語として用いられた。
たか‐さ
〘名〙
たか‐み
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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