登記の一種で,不動産の客観的状況およびその不動産に関する権利関係を不動産登記簿に記載して公示すること,またはその登記簿上の記載そのものをいう。
不動産登記は,不動産そのものの客観的状況を公示する〈表示に関する登記〉と,その不動産に関する物権の得喪・変更を公示する〈権利に関する登記〉に分けられるが,この表示に関する登記と権利に関する登記とがあいまって,不動産の取引に入ろうとする第三者を保護し,不動産取引の安全と円滑が図られることになる。
日本で不動産登記といえば一般には,不動産登記法(1899公布)に定める土地または建物についての登記をいうが,より広い意味では〈立木ニ関スル法律〉(1909公布)による立木(りゆうぼく)の登記あるいは工場抵当法(1905公布)等の特別法による各種の財団登記等を含めて不動産登記と総称することもある。
登記には,対抗力,権利推定力,形式的確定力などの効力が付与されているが,このうち中心的なものは対抗力である。すなわち,不動産に関する物権の得喪および変更は,不動産登記法の定めるところによりその登記をしなければ,これをもって第三者に対抗することができないものとされ(民法177条),登記は物権変動の効果を第三者に主張するための対抗要件とされている。
登記事務は,一定の国家機関により行われ,これをつかさどる国家機関(官庁)を登記所という。日本においては,法務局,地方法務局またはその支局,出張所が登記所として登記事務をつかさどるものとされており(不動産登記法8条1項),〈登記所〉という名称を有する官庁が存在するわけではない。登記所の管轄区域は行政区画を基準として定められ,各登記所は原則としてその管轄区域に所在する不動産に限って登記事務を行うことができる。また,不動産が数個の登記所の管轄区域にまたがるときは管轄登記所が指定される(8条2項)。
各登記所における登記事務は,法務局,地方法務局またはその支局,出張所に勤務する法務事務官で,法務局,地方法務局の長により指定されたものが登記官としてこれを取り扱う(12条)。登記官は登記所の規模に応じて1人ないし数人が置かれ,おのおの独立した職務権限を有するものとされる。また,登記官はその職務執行に公正でなければならないから,登記官と一定の身分関係にある者等が申請人となる場合は,登記官の職務執行が制限されている(13条)。
登記所には,不動産の現況およびこれに関する権利関係を記載するための帳簿として登記簿が設けられる。なお,1960年に不動産登記法(1899公布)が改正されて土地台帳,家屋台帳が廃止されるまでは台帳制度と登記制度が併存し,不動産の現況を把握するものとして土地台帳,家屋台帳(台帳は,もとは課税台帳として税務署に備え付けられていたが,シャウプ勧告に基づく税制改革により,1950年から登記所に移管されたもの)が備え付けられ,登記簿はもっぱら不動産の権利関係を公示するものとされていた。その後,いわば二元的機能の不便等を解消するため,台帳のもっている機能を登記簿に吸収,統合させる一元化が行われ,登記簿に不動産に関する客観的状況および権利関係を公示する機能を営ませることとなった。
不動産登記簿には,土地登記簿および建物登記簿があり,また登記簿の一部とみなされるものとして信託原簿および共同担保目録がある。登記簿は,1筆の土地または1個の建物ごとに一登記用紙が設けられ,各登記用紙は,表題部,甲区および乙区をもって編成され,これら表題部および各区はおのおの別葉の用紙を用いることとされている。
表題部の用紙には,土地または建物の表示に関する事項が記載され,土地の場合は,(1)土地の所在(郡,市,区,町村,字),(2)地番,(3)地目(土地の現況および利用目的によって定められる土地の種別,たとえば,田,宅地など),(4)地積(土地の面積),(5)所有権の登記がない土地については所有者の氏名・住所,もし所有者が2名以上あるときはその持分(もちぶん),建物の場合は,(1)建物の所在(郡,市,区,町村,字,地番),(2)家屋番号,(3)種類,構造,床面積(たとえば,居宅,木造瓦葺平家建,100.00m2など),(4)建物の番号があるときはその番号(たとえば,ひばりが丘1号館など),(5)付属建物があるときは,その種類,構造,床面積,(6)所有権の登記がない建物については,所有者の氏名・住所,もし所有者が2名以上であるときはその持分,また,土地,建物について登記の原因および日付(たとえば,昭和60年1月1日新築など)ならびに登記の年月日が所定欄に記載される。
また,甲区用紙には,所有権に関する事項(所有権の保存,移転,変更,処分の制限または消滅など)が記載され,乙区用紙には,所有権以外の権利に関する事項(地上権,永小作権,地役権,先取特権,質権,抵当権,賃借権,採石権およびこれらの権利を目的とする他の権利の設定,保存,移転,変更,処分の制限または消滅など)が記載される。
登記簿は,バインダー式帳簿に表紙,目録および登記用紙(表題部,甲区,乙区)を編綴して調製される。
不動産登記法において,登記しうる不動産は,土地および建物である。土地とは日本領土内の陸地部分を人為的に区画した一定の範囲のものをいい,建物とは屋根および周壁またはこれに類するものを有し土地に定着した建造物であって,その目的とする用途に供しうる状態にあるものをいう。
不動産登記法が規定する登記しうる権利は,所有権,地上権,永小作権,地役権,先取特権,質権,抵当権(根(ね)抵当権を含む),賃借権および採石権の9種である(1条)。占有権,留置権は,占有という外形的事実が伴っていることから,登記をもって公示する必要がなく,入会(いりあい)権は,その内容が各地方の慣習によって定められ,その実体関係は一様でないため,登記によって公示することは事実上不可能であるなどの理由により,これらの権利は登記することができないものとされている。また,買戻(かいもどし)権については売買による所有権移転の登記と同時にする場合に限り登記することができ(民法581条,不動産登記法37条),不動産登記法1条に掲げた権利およびその権利に関する請求権については仮登記をすることが認められている(2条)。
不動産登記法上登記すべき権利変動は,不動産に関する権利の設定,保存,移転,変更,処分の制限,消滅の6種であり,これらの物権変動があれば,その変動の原因のいかんを問わずすべて登記できるが,実体法上,これらのすべてについて登記がないとその物権変動を第三者に対抗しえないというものではない。たとえば,相続の場合,相続による不動産物権の承継(権利移転)を登記することができるが,真正な相続人はその相続分については登記がなくても,第三者に対抗することができる。
不動産の表示に関する登記は,権利の客体としての不動産の現在の客観的状況を把握し,それを明確かつ迅速に登記簿に表すことを目的としていることから,不動産の所有者には登記の申請義務が課され,違反者には罰則が適用される(80条等)。また,登記官は,登記をするのに必要があるときは,実地調査を行うことができ,また職権をもって登記をすることもできる(25条ノ2,50条)。なお,登記官の職権による登記は,所有者に登記の申請を催告しても当該申請が期待できない場合に補充的に行うものとされている。
これに対して不動産の権利に関する登記は,原則として当事者の申請または官公署の嘱託に基づいてのみ行われる(25条)。権利に関する登記は不動産物権の得喪・変更を第三者に対抗するための要件であり,その登記をすることにより私法上の権利を保持するか否かは,〈私的自治の原則〉から当事者の自由な意思にまかせるのが適当であることから,当事者の申請がなければ登記をしないことが原則とされている。なお現行法上例外的に登記官が職権により権利に関する登記をすることが認められている若干の場合がある(64,104,151条等)。
権利に関する登記の申請は,原則として,登記をすることによって直接利益を受ける者(登記権利者)と登記をすることによって不利益を受ける者(登記義務者)とが共同してすることを要し,また,登記権利者および登記義務者またはその代理人が直接登記所に出頭しとしなければならない(26条1項)。現行法において共同申請主義を採用する理由は,登記官に登記の申請について実体的な権利関係の有無を審査するいわゆる実質的審査権を与えていないことから,登記を必要とする実体関係の当事者に共同して登記を申請させ,これにより登記の真正を担保しようとするものである。したがって,たとえば判決による登記のように共同申請によらなくても登記の真正を担保することができる場合,あるいは,たとえば相続による登記,登記名義人の表示変更の登記のように登記の性質上共同申請が考えられない場合においては,登記名義人が単独で申請をすることができる。なお,表示に関する登記については,登記の性質上登記名義人が単独で申請をすることとなり,その際申請人は必ずしも直接登記所へ出頭することを要しない(26条2項)。
登記の申請をする場合は,登記申請書のほか法律の定める添付書面(登記原因証書,登記済証など)を提出しなければならない(35条)。登記申請書には,登記すべき不動産の表示,登記の目的(所有権移転,抵当権設定など)など一定の事項を記載し,申請人がこれに署名・捺印(なついん)をしなければならない(36条)。
登記申請書が登記所に提出されたときは,登記官は受付帳に登記の目的,申請人の氏名,受付年月日および受付番号を記載するとともに申請書にも受付年月日および受付番号を記載しなければならない(47条)。同一の不動産に関する権利の順位は登記の前後により(6条),その登記の前後は,申請書の受付の前後によって決定されることから,登記申請書の受付は重要な役割をもつものである。
登記官は申請書が受け付けられた後,遅滞なく申請に関するすべての事項を調査したうえ,登記を実行すべきか,または,登記申請を却下すべきかを決定しなければならない(49条)。登記官の審査については,二つの方式があり,その一つは審査の対象となる事項が登記申請手続に関する法定の要件に適合しているか否かを申請書類および登記簿を資料として書面上審査を行うものとするいわゆる形式的審査主義であり,もう一つは申請にかかる事項が実体に符合するものであるか否かを判断資料の制限をしないで審査するものとするいわゆる実質的審査主義である。日本では,表示に関する登記については実質的審査主義を,権利に関する登記については形式的審査主義を採っている。
登記申請書を調査した結果,却下事由が認められないときは,その申請に基づき登記をしなければならない。なお,同一不動産について登記の申請が競合している場合は,記載の前後によりその効力が左右されるので必ず受付番号の順序により記載しなければならない(48条)。
登記官は,登記が完了したときは,申請書に添付されている登記原因証書または申請書副本を登記権利者に,登記済証または保証書を登記義務者にそれぞれ登記済の旨を記載し,還付しなければならない(60条)。登記権利者へ還付される登記原因証書または申請書副本は,一般に〈権利証〉と称され,その者が将来登記義務者または登記申請人として各種の登記申請をする場合に使用される。
登記官の処分を不当とする者はその登記官を監督する法務局,地方法務局の長に対し,審査請求をすることができる(152条)。法務局,地方法務局の長が理由ありと判断した場合は登記官に相当の処分を命じなければならない(155条)。また,理由なしとした場合などには裁決でこれを棄却または却下する(行政不服審査法40条)。
執筆者:坂本 昭
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…登記の制度は,一定の事項を一般に公示することにより,その権利の内容を明確にし,取引関係に入ろうとする第三者に不測の損害をこうむらせないようにする制度で,取引の安全と円滑を図るために重要な役割を果たすものである。 日本における現行法上の登記の種類は,(1)不動産登記,立木登記,船舶登記,工場財団登記などの権利に関する登記,(2)夫婦財産契約登記のような財産の帰属に関する登記,(3)商業登記,法人登記などの権利主体に関する登記がある。なお,登記の中では不動産登記が中心的存在であり,国民生活にもっとも密接な関連を有していることから,単に,〈登記〉という場合は不動産登記をさすことが多い。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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