一般的には,富裕な商工業者や財産所有者で構成されている社会層をいい,有産者階級などと訳される。ブルジョアジーという語は,ブルジョアbourgeoisの集合名詞であり,ブルジョアというのは,もともと町の人(町人)とか市民とかいう意味であるから,ブルジョアジーは,町人身分とか市民階級とか訳される場合もある。そして,主としてマルクス主義の用語法においては,ブルジョアジーは,近代資本主義社会における資本の所有者という意味で用いられ,したがって資本家階級と訳され,労働者階級としてのプロレタリアートの反対語とされる。このように,ブルジョアジーという語がかなり多義的であるのは,中世以来のその歴史的背景によるのである。
ブルジョアおよびブルジョアジーの語源は中世ラテン語のburgusであり,これは,もともと城砦という意味であったが,それがフランス語のブールbourgになると意味が変わって,市(いち)の開催される村という意味になり,そこからさらに転じて,町または都市という意味になったから,中世および近世においては,ブルジョアおよびブルジョアジーは,町の人とか町人身分とかいう意味で用いられるようになった。そして,当時の町ないし都市において正規の町人ないし市民と認定されるためには,一定の租税ないし権利金を支払うことが必要とされ,そのような支払をなしうる者は,富裕な商工業者,もしくは自己の財産からの収入(不動産からの地代や家賃,動産からの利子)によって生活しうる者だけに限られていたから,ブルジョアおよびブルジョアジーは,そのような有産者および有産者層を指すことになった。また,中世においてだけではなく,近世(ほぼ16世紀から18世紀末まで)においても,ヨーロッパの社会では,なお身分制の原理が存続していたから,町人とか有産者とかいう意味でのブルジョアおよびブルジョアジーは,一つの身分として理解されるようになり,いわゆる第三身分(聖職身分および貴族身分以外の社会層)のなかでの町人身分ないし有産者身分(商工業者や地主など)を指すものとして,農民身分と対立する語として用いられるようになった(身分制社会)。
近世以降のヨーロッパにおいては,しだいに資本主義的生産様式が形成されるようになったが,その資本主義の形成を担ったのは,まずもって商工業者たちであったから,商工業者という意味でのブルジョアおよびブルジョアジーは,やがて,資本主義の担い手としての資本家という意味を帯びるようになった。そして,18世紀末以降に確立する近代資本主義社会においては,資本家と労働者とが二大階級を構成することになったので,ブルジョアジーという語は,プロレタリアートに対立するものとして,資本家階級を意味するようになったのである。
→近代社会 →市民革命
執筆者:遅塚 忠躬
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資本主義社会における資本家階級。フランスにおける中世以来の都市商工業者たる市民をブルジョアbourgeois(フランス語)というが、彼らは中世も末期になると、その営業と生活を発展させ、資本主義的な生産に道を開いた。さらに上層農民の一部も農村工業を発展させ、資本主義への流れに合流する。こうして近代的資本家が形成される。そして都市商工業者とこの資本家の手によってブルジョア革命が達成され、資本主義社会がつくりあげられる。
資本主義社会では、ブルジョアと彼らに雇われた賃金労働者とが、基本的な階級を構成する。マルクスはこの事態をとらえて、ブルジョアジーとプロレタリアート(労働者階級)の対抗として社会の本質を規定した。それ以来、ブルジョアジーとは階級としての資本家をさすようになった。
[元島邦夫]
『J・スコット、J・ウェスターガード、渡辺雅男・宮崎犀一著、渡辺景子訳『階級論の現在――イギリスと日本』(1998・青木書店)』▽『K・マルクス、F・エンゲルス著、大内兵衛・向坂逸郎訳『共産党宣言』(岩波文庫)』
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…これらの社団を大きく包み込むものとして,中世以来の伝統的な身分制秩序が受け継がれていた。第一身分としての聖職者clergé,第二身分としての貴族noblesse,そしてブルジョアジー以下の第三身分le tiers étatがそれである。革命前夜の総人口2600万のうち,聖職者は約12万,貴族は約35万にすぎないが,彼らは,王税を免除された特権階層を形成していた。…
…すなわち当時のイギリスは〈世界の工場〉として最先進工業国たる地位を誇っていたにもかかわらず,中世以来続いた,国王を中核とし貴族と地主(両者を合わせて広義のジェントルマンという)を担い手とする支配体制はゆるぎもみせなかった。そして工業社会において支配者たるべき産業ブルジョアジーも,土地を手に入れて地主階級の一員にならないかぎり,また有名なパブリック・スクールからオックスフォード大学,ケンブリッジ大学に学んでジェントルマンにふさわしい教育を受け,その価値体系を身につけないかぎり,ジェントルマン,すなわち支配体制の一員とはみなされなかった。もちろんジェントルマン階層には,それまでの歴史において,本来その中核であった土地所有者階級のほかに,聖職者・法曹関係者の一部,上級官吏,陸海軍士官,内科医といった専門職業の人びとも加えられており,その数は19世紀初頭で300近い世襲貴族を含め3万家族に達していた。…
…
[マルクスとエンゲルスの階級論]
サン・シモンの時代のフランスはなお産業革命の本格的展開の直前にあたっていたので,彼のいう〈ブルジョア〉は近代産業の所有者・経営者ではなくて法律家・軍人・金利生活者のことであり,〈産業者〉というのは近代産業の労働者ではなくて農業者・製造業者・商業者のことであった。これに対して,産業革命以後の社会における階級構造を,近代的大企業の所有者・経営者としてのブルジョアジーと,その下で生産活動に従事する労働者としてのプロレタリアートとの二大階級から成るものとし,農民・小工業者・小商人・小金利生活者などの中間階級はしだいにプロレタリアートに転落していく,という新たな定式化を提出したのが,マルクスとエンゲルスの《共産党宣言》(1848)であった。マルクスとエンゲルスが当時立てていた見通しによれば,資本主義の発展とともにブルジョアジーは強大になるけれども,これにともなってプロレタリアートはそれよりはるかに大量になり,組織化され,ブルジョアジーに対する闘争力を高め,最後にはプロレタリアートが階級闘争の勝利者になる,とされた。…
…近代国家の形成は,中央集権化を進めることによって,自治都市の諸特権を奪い,その自律性を失わせたが,近代国家自体は都市を範型として構成されたため,自律的市民の理念は,近代国家の理念として再生した。その再生を担ったのは,製造業者やそれと結びついた商人を中心とするブルジョアジーである。彼らは〈財産と教養〉をもつ人々であり,それゆえに自己利益の実現について合理的選択を行うことができた。…
…この略奪は,ヨーロッパへの富の集中とともにその配分をめぐる抗争を生みだし,スペイン,ポルトガル,オランダ,フランス,そして最後に勝利したイギリスなどの指導的中心部は,海上支配権をめぐって熾烈(しれつ)な闘いをくりひろげた。全体としてみれば,アジアからの新しい産物の流入,アメリカからの大量の貴金属の流入,新市場の開放,植民地建設が生みだした需要などが,ヨーロッパにおけるマニュファクチュアの拡大とブルジョアジーの台頭を大いに刺激し,世界資本主義システムの形成をうながしたといってよい。 しかしこの初期の膨張は,一度きりという征服が本来的にもつ限界に直面し,とりわけアメリカ植民地においては1000万人以上ともいわれる原住民人口減少の結果,労働力が枯渇し,それが植民地の構造変化の契機となった。…
… ユグノー戦争の激動は,ブルボン朝初代のアンリ4世の下に一応の決着をみ,続くルイ13世,ルイ14世の時代には,リシュリュー,マザラン,コルベールという有能な政治家に助けられ,王権は急速に強化されていった。国内の政治的・法的統一を希求する法服ブルジョアジーや新貴族,地主層に支えられ,国際商業戦において国家の支援を不可欠とする商人ブルジョアジーの期待に応えつつ,絶対王権はその基礎を固めていく。三十年戦争(1618‐48)への直接参戦をきっかけに,国内引締めと徴税強化のため王国の諸地方には,国王の意を体したアンタンダン(地方長官)が常置されるようになり,コルベールの下では重商主義政策が全面的に展開された(図2)。…
…そして領主の多くは貴族身分に属していたから,貴族と平民との対立は領主と領民との対立に重ね合わせになっていた。 これに対して,18世紀の30年代からフランスの経済は好況に恵まれ,産業の発展に伴って,第三身分の中から,富裕な商工業者や大借地経営農民など,新しい資本主義的生産様式を担う市民階級(ブルジョアジー)が興隆してきた。彼らは,自分たちの権利を認めずに重税をかけてくる絶対王政や,身分的特権をもって自分たちを差別している貴族の支配や,自由な経済活動を阻害する領主制など,旧体制のいっさいに対して強い不満を抱き,その不合理を批判する啓蒙思想の影響を受けて,旧体制の打倒を目ざすようになった。…
※「ブルジョアジー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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