2人以上の者が共同して犯罪を実現すること。これに対し、単独で犯罪を実現する場合を単独犯という。
この意味の共犯には必要的共犯と任意的共犯とがある。必要的共犯とは、たとえば騒乱罪(刑法106条)、重婚罪(同法184条)のように、当該刑罰法規がもともと2人以上の者による犯行が不可欠であることを予定している場合であるのに対して、任意的共犯とは、一般の犯罪のように、刑法上は単独犯が予定されている犯罪を、2人以上の者が共同して実現する場合である。このうち、刑法第1編総則第11章の共犯規定は、任意的共犯に関するものであり、必要的共犯には適用されないものと一般に解されている。この共犯規定には、共犯として、共同正犯、教唆犯、従犯の3種類がある。これら三つをあわせて広義の共犯というのに対して、教唆犯と従犯(または幇助(ほうじょ)犯)とを狭義の共犯とよぶ。この区別は、共同正犯が共犯である一面とともに、正犯の一種でもあることに基づくものである。
[名和鐵郎]
「2人以上共同して犯罪を実行した」場合をいう(刑法60条)。共同正犯が成立するためには、2人以上の行為者の間に、客観的に共同実行(実行行為の分担)を要するとともに、主観的にも、共同実行の意思(意思の連絡)が必要とされる。
[名和鐵郎]
「人を教唆して犯罪を実行させた」場合をいう(刑法61条1項)。教唆犯が成立するためには、他人に対し特定の犯罪を実行する決意(犯意)を生じさせるとともに、これに基づいて被教唆者が犯罪を実行したことが必要である。
[名和鐵郎]
「正犯を幇助した」場合をいう(刑法62条)。従犯の成立には、従犯者が正犯者の実行行為を容易にすることが必要である。なお、拘留または科料のみに処すべき罪の従犯は、特別の規定がない限り不可罰とされる(同法64条)。
[名和鐵郎]
共犯の本質をめぐり、従来次のような根本的対立があり、いずれの見解にたつかによって、共犯の成立範囲に大きな違いが生じる。
[名和鐵郎]
この対立は、共犯とは客観・主観の両面において何を共同にするのか、という点に関するものである。犯罪共同説においては、おおむね旧派的立場を前提として、共犯は特定の犯罪につき客観的・主観的に共同することを要するものと解される。したがって、この立場からは、異なる犯罪類型(類型的に重なる場合は別)相互には、客観面において共犯の成立が認められないし、また、過失犯に関しては、故意犯と過失犯であれ、過失犯内部であれ、主観的に意思(すなわち犯意)の連絡がないから、共犯は否定されるものと一般に解されてきた。ただ、この立場でも、過失の共同正犯につきこれを肯定する見解もみられる。これに対して行為共同説は、新派的立場を前提としつつ、前法的にみて自然的行為(すなわち行為)につき共同があれば足りると解する。この見解によれば、前述のすべての場合につき客観・主観の両面で行為の共同が存在する限り、共犯を肯定しうるものとしている。さらに、両説の間には、いわゆる片面的共犯や承継的共犯についても、共犯の成立範囲に広狭の差が生じることになる。
[名和鐵郎]
正犯と狭義の共犯(教唆犯、従犯)との関係をめぐって、共犯従属性説が、共犯は正犯に従属性を有し、正犯が一定の行為を行った場合にのみ、その共犯は成立しうると説くのに対して、共犯独立性説においては、共犯は正犯とは別の意味で犯罪の実現に向けて参画するものであるから、共犯は正犯と独立して可罰性を帯びるものと解される。このうち、おおむね前説は旧派的立場、後説は新派的立場に対応するものといえる。両説における解釈論的な違いは、とくに、正犯者が犯罪の実行に着手しなくてもその共犯は処罰されうるか、という点(実行従属性)にある。この点につき前説では実行従属性を要求するのに対して、後説ではこれを要しないものと解している。このうち、共犯従属性説が通説・判例の立場であるが、共犯の成立にとって、正犯者によるどの程度の行為を要するか(従属性の程度)については、従来、正犯が構成要件に該当する違法、有責の行為を必要とすると解する極端従属性説が支配的であったが、今日ではむしろ、構成要件に該当する違法な行為が存在すれば足りると解する制限従属性説が通説化している。このうち、たとえば責任無能力者に対する共犯の成否につき、極端従属性説では共犯が成立する余地はなく、間接正犯と解されてきたが、制限従属性説では、これを肯定しうるから、14歳未満の者に犯罪を教唆するのも教唆犯として処罰しうることになる。
[名和鐵郎]
このように、理論的にもまた実定法的にも、共犯につき共同正犯、教唆犯、従犯は明確に区別されてはいるが、わが国における法運用の実際をみると、共謀共同正犯の理論が広く適用され、ある犯罪につき共謀に参加した者は、その一部が実行に出た以上、直接には実行に参加していなくても共謀者全員が共同正犯として処罰されている。そこで、この理論のもとでは、大部分の教唆犯や事前の無形的従犯(精神的幇助)は「共謀」に参加した場合として、共同正犯が認められる結果、三つの共犯形態のうち、大部分を共同正犯が占め、教唆犯は非常に少ないことになる。
[名和鐵郎]
2人以上の者が共同して犯罪を行うこと。共犯に対する立法形式は,二つに大別される。一つは,犯罪に関与した者すべてを正犯として処罰する(イタリア刑法等)という方法であり,他は,処罰を犯罪への特定の関与形態に限定し,しかも関与のしかたに応じて処罰に軽重を設ける(ドイツ刑法等)という方法である。日本の刑法は後者に属し,共同正犯(60条),教唆犯(61条),従犯(幇助(ほうじよ)犯ともいう。62条)の規定をもつ。広義の共犯は,共同正犯,教唆犯,従犯のすべてを含むが,狭義の共犯は,正犯(新聞用語では主犯と言うことが多い)に対する意味に用いられ,教唆犯と従犯だけをさす。共同正犯,教唆犯,従犯は任意的共犯とも呼ばれるが,これに対して必要的共犯と呼ばれるものがある。これは,犯罪の性質上,当然に複数の行為者の関与を予想しているもので,騒乱罪等の衆合犯と贈収賄罪等の対向犯がある。通説によれば,衆合犯には教唆等の共犯規定の適用はなく,また,贈収賄罪のような両方に処罰規定のある対向犯には共同正犯の規定の適用はない。そしてわいせつ文書販売罪(175条)のように一方にしか処罰規定のない対向犯の場合には,必要限度内の関与にとどまる限り,必要的共犯者(わいせつ文書の買い手)は共犯としても処罰されない,とされる(反対説もある)。また,刑法によれば,一定の身分をもつ者にのみ成立する犯罪の場合,共犯はその身分のない者にも成立する(65条1項)。たとえば,非公務員が公務員を教唆して収賄させたときは,非公務員は収賄罪の教唆犯となる。また,身分により刑の軽重があるときは,その身分のない者には通常の刑が科せられる(65条2項)。たとえば,第三者が看守者を教唆して被拘禁者に暴行を加えさせたときは,第三者には暴行罪の刑(3年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)が科せられ,看守者には特別公務員暴行罪の刑(7年以下の懲役または禁錮)が科せられる。
共同正犯の成立には,共同実行と意思疎通が必要であると解されている。もっとも,各自がはじめから実行行為の一部を行う必要はなく,ある者が他の者の実行行為に途中から加わってもよい(承継的共同正犯)。ただし,判例は共同実行の要件をゆるめ,犯行を共謀しただけで,実行行為に荷担しなかった者までも共同正犯だとしている(共謀共同正犯。これには強い批判がある)。共同実行の要件とは対照的に,判例・通説は,意思疎通を共同正犯に不可欠の要件とする。意思疎通のない場合は同時犯といって共同正犯とは区別される。
共犯処罰の根拠に関する種々の見解の中で,重要なのは責任共犯説と惹起説である。前者は,教唆犯を主眼に打ち立てられた議論であり,共犯者は正犯者を堕落させ,罪責と刑罰におとしいれたので処罰される,という見解である。これに対して後者は,共犯の処罰根拠を,共犯者が正犯者の実現した犯罪結果をともに惹起した点にみる。さらに,共犯には共犯従属性説と共犯独立性説という対立がある。これは,従来は刑法における客観主義と主観主義の対立を反映したものととらえられていたが,具体的には,教唆者は正犯が実行に着手したときにはじめて処罰されるのか,それとも教唆しただけで処罰されるのか,という実行従属性をめぐる論争であった。しかし現在では,共犯の従属性は実行従属性にとどまらず,三つの側面をもつものと理解されている。すなわち,実行従属性のほかに,共犯が成立するためには,正犯は構成要件該当性,違法性,有責性という犯罪成立の要件をどこまでそなえていればよいのか,という要素従属性の問題があり,さらに共犯と正犯は同じ罪名でなければならないか,それとも異なった罪名でもよいのか,という罪名従属性の問題がある。通説は,これらの問題について,教唆者は正犯が実行に着手したときにはじめて処罰され,共犯が成立するためには正犯は構成要件該当性・違法性の要件をそなえていなければならず,共犯と正犯は異なった罪名でもよい,と解している。
執筆者:大越 義久
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…38条3項参照),また,自分の行為が違法であるということを知っていたけれども他の適法な行為を期待することができない場合(期待可能性がない場合)にも,〈責任〉がないとする見解が有力である。
[未遂と共犯]
刑法各則の条文に示される犯罪類型は,原則として,犯罪が完成して既遂となり(既遂犯),しかも,その犯罪を1人で実行する場合(単独正犯)を予定している(たとえば199条の殺人罪,235条の窃盗罪)。しかし,犯罪はつねに完成して既遂になるとはかぎらないし,また犯罪はつねに1人で行われるわけでもない。…
※「共犯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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