土倉(読み)ドソウ

デジタル大辞泉 「土倉」の意味・読み・例文・類語

ど‐そう〔‐サウ〕【土倉】

中世の金融業者。現在の質屋にあたるもので、質物保管のための土蔵を建てていたのでこの名がある。鎌倉時代より発生し、室町時代に京都・奈良で発展、幕府は土倉役を課して大きな財源とした。資本のある酒屋などの兼業も多く、たびたび土一揆つちいっきの襲撃を受けた。つちくら。とくら。

つち‐ぐら【土倉/×窖】

穀物などを保存するために地下に穴を掘ってつくった倉。あなぐら。
土で塗った倉。土蔵どぞう

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精選版 日本国語大辞典 「土倉」の意味・読み・例文・類語

ど‐そう‥サウ【土倉】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 火災を防ぐためにまわりの壁を土で塗り固めた倉。土蔵(どぞう)。つちぐら。
    1. [初出の実例]「四口盖瓦之中二口双倉 一口土倉 一口甲倉」(出典:法隆寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747)二月一一日)
  3. 中世の金融業者。担保貸付をする無尽銭からおこった高利貸業者。鎌倉中期ごろから質物を火災や盗難から防ぐために堅固な土倉を備えるようになって、南北朝時代以後にはこれが質屋をさす代名詞となった。また、酒屋が兼業することが多かったので酒屋土倉と併称された。室町時代に最も発達し、京都に三百余軒、奈良に二百余軒あったという。農民や都市住民らの徳政一揆の対象となったが、幕府・社寺に対して土倉役や分一銭などを負担してその保護をうけた。とくら。土蔵。つちぐら。
    1. [初出の実例]「一昨日火事実説〈略〉払地焼亡、土倉不二レ知員数、商賈充満、海内之財貨只在其所云々」(出典:明月記‐文暦元年(1234)八月五日)

つち‐ぐら【土倉・窖】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 地下に穴を掘ってつくった倉。あなぐら。〔十巻本和名抄(934頃)〕
  3. 土で塗った倉。土蔵。どそう。〔易林本節用集(1597)〕
  4. 室町時代、質屋をいう。→どそう(土倉)

と‐くら【土倉】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「どくら」とも ) =どそう(土倉)
    1. [初出の実例]「下京四条トクラ町屋戸在之云々」(出典:鹿苑日録‐天文六年(1537)六月一一日)

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改訂新版 世界大百科事典 「土倉」の意味・わかりやすい解説

土倉 (どそう)

本来は文字通り土壁を持つ倉庫建築のことであったが,室町時代には質物を収める土倉によって象徴される金融業者のこと。質屋。土壁の倉庫は奈良時代の国衙や寺院の倉庫として見られたが,都市の中の建造物となるのは平安時代末期から鎌倉時代のことで,富裕な商人らがこれを作り,商品や財産を保管する場としていた。一方,土倉を持つ商人に縁故のある者も,火災や盗難から財産を守るために土倉に財産を預託することがあり,時としては預託財産を担保とした金融も行われていた。鎌倉時代後期には質物を預かって金融を行うことを業とする者を〈無尽銭(むじんせん)土倉〉と称し,南北朝期ごろになると単に〈土倉〉と呼ぶようになった。このころまでの京都の土倉は山門(延暦寺)や祇園社など有力寺社の被官であるものが多く,ことに山門の影響下にあるものが8割を超えたという史料もある。また〈酒屋・土倉〉と連称されることが多いことから酒屋を営む者に土倉が多かったと考えられている。

 室町幕府がこれら土倉を支配下に入れるのは1393年(明徳4)である。幕府はこのとき旧来の権門勢家の既得権をすべて否定し,年額6000貫の酒屋土倉役と引換えに,その他の臨時課役いっさいを免除した。とはいえ幕府に土倉を直接掌握できるだけの組織があったわけではなく,土倉の中の有力者を介して役銭の徴収を行っており,彼らが後に〈納銭方〉と呼ばれるものになった。6代将軍足利義教の永享初年(1430ころ)には,土倉にも的な組織ができ,土倉営業のためには〈土倉方一衆〉に加入することが必要となった。

 またこのころより土倉に対する諸規制が行われ,土倉に盗難質物の賠償責任を負わせたり,利子,流質期限などが定められるに至った。利子は100文を1ヵ月借りたときに何文払うかという形で表示され,〈何文子(なんもんし)〉と称された。質物の種類によって異なるが,5ないし6文子くらいが多く,寺社がその財産によって利殖を図る祠堂銭と呼ばれるもので,特に低利だとして徳政令の適用を免れたもので2文子であった。流質期限は品物によって異なるが,12ヵ月から24ヵ月くらいであった。このころになると土倉役は幕府にとって重要な財源となっていたから,火災などによって営業が不能になってもなかなか役銭の免除を行わず,また廃業についても規制した。1441年(嘉吉1)室町幕府にとっては初めての徳政令が発布されると経済界は大混乱を来たし,その余波は土倉役の停止という形で幕府をも襲った。幕府は分一銭(ぶいちせん)の納入を徳政令適用の条件とするとともに(分一徳政),土倉役の徴収に当たる納銭方の業務を請負制にし,収入の安定化を図った。土倉の財産管理業務はこのころでも相変わらず広く行われており,財力のある者は合銭(あいぜに)などと称して土倉に出資して利殖を図り,また将軍家の財産管理に当たる〈公方御倉(くぼうおくら)〉が納銭方になる基礎資格のようにみなされることにもなった。
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百科事典マイペディア 「土倉」の意味・わかりやすい解説

土倉【どそう】

〈とくら〉とも。鎌倉・室町時代の質屋業者。中世後期,商品貨幣経済の発展に伴って,京都・奈良・堺・坂本など主要都市に多く現れた。大資本を擁する酒造業者の(酒屋)兼営が多く,彼らが納める巨額の土倉役(倉役)は,室町幕府の重要な財源となり,有力土倉は幕府の納銭方(のうせんかた),禁裏(きんり)の御倉職(みくらしき)を務めた。京都では町衆の中心となったが,しばしば徳政の対象となり,徳政一揆(いっき)の襲撃の目標とされた。
→関連項目有徳銭有徳人蒲御厨借上高利貸質屋正長の土一揆土一揆

土倉【とくら】

土倉(どそう)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「土倉」の意味・わかりやすい解説

土倉
どそう

中世の質屋、金融業者をいい、「どくら」「つちくら」ともよばれる。平安期には単に土壁塗りの倉庫をいったが、担保物件の保管のために金融業者が土倉をもったため、前代の借上(かしあげ)にかわって金融業者をさすようになった。早い例は、1234年(文暦1)の『明月記(めいげつき)』の火事焼失の記事に「土倉員数を知らず」とあるが、1336年(延元1・建武3)に定められた「建武(けんむ)式目」には「無尽銭(むじんせん)土倉を興行せらるべき事」とあり、このころから一般化して使用されている。南北朝期の京都では土倉は335軒を数え、そのうち280軒が「山門気風の土倉」といわれる比叡山(ひえいざん)支配下のものであった。坂本には35軒、奈良には約200軒といわれた。土倉には山門をはじめとする寺院の僧侶(そうりょ)や、日吉(ひえ)社、春日(かすが)社などの神人(じにん)が多かったが、室町期には、禅宗僧侶が祠堂銭(しどうせん)と称して貸付を行うものが増加した。また酒屋、味噌(みそ)屋など醸造業と兼業するものも多かった。室町幕府は、1393年(明徳4)に「洛中辺土散在土倉并洒屋役条々」という法令を出し、土倉役を課したが、大名、寺社も同様に土倉役を課して大きな財源とした。戦国期には自治都市の大山崎(おおやまざき)も倉役を課している。

 土倉の業務はまず、動産・不動産を担保物件として金銭を貸し付けることで、利子は幕府規定で月4分以下とされ、祠堂銭は月2分以下となっているが、もちろんそれ以上の高利もみられた。そのほか、合銭(ごうせん)とよばれる預金業務や、財宝の保護預かりも行った。朝廷も幕府も府庫をもたず、朝廷は禁裏御倉(きんりみくら)、幕府は公方(くぼう)御倉という御用の土倉を任命し、金融、貢納物の出納、財宝の管理、財産管理を行わせた。土倉はつねに徳政一揆(とくせいいっき)の対象となったため、京都では土倉軍が組織されて一揆と戦った。戦国期には御用商人的な土倉は徳政免除権を許されて保護された。

[脇田晴子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土倉」の意味・わかりやすい解説

土倉
どそう

中世の金融業者。「とくら」とも読む。鎌倉時代には一般に借上 (かしあげ) は質物 (しちもつ) を保管するため堅固な土塗りの倉庫をもっていたので,次第に土倉 (土蔵) と呼ばれるようになり (史料的初見は 1234年) ,南北朝時代以降発展した。特に京都,奈良など大都市や港町に多く,酒屋など醸造業を兼ねる者が多かった。彼らは幕府,禁裏,公家,有力社寺に役銭納入や融資を行い,その保護を受け,貿易に参加する者もあった。有力な者は,幕府の納銭方 (倉役) や禁裏の御倉職に任命され,財政上の実権を握るにいたった。土倉は徳政一揆の襲撃目標となったが,他方町衆の中心として都市自治の中核になった。

土倉
とくら

土倉」のページをご覧ください。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「土倉」の解説

土倉
どそう

倉・蔵本とも。鎌倉末~室町時代の金融業者。名称は質物を納める土蔵(つちくら)をもつことによる。分布は全国に及び,京都では14世紀初めに330軒をこえた。京都の土倉は延暦寺の山僧など僧侶が主流を占め,酒屋を営む者も多かった。室町幕府は1393年(明徳4)に土倉の支配に乗り出し,年額6000貫の酒屋土倉役を課し,幕府財政の財源とした。幕府はまた流質期限や質物盗難の際の賠償責任,5~6文子(もんし)(月利5~6%)の法定利率などさまざまな営業規定を定め,土倉の統制・保護に努めた。15世紀中頃以降,徳政令・徳政一揆によってしばしば大きな被害をうけ,土倉役の納入も落ちこんだ。

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旺文社日本史事典 三訂版 「土倉」の解説

土倉
どそう

鎌倉末〜室町時代の高利貸業者
「とくら」とも読む。鎌倉時代に発生し,室町時代に盛んになる。酒屋と兼業のものが多く,京都・奈良・近江坂本などに多数集中した。室町幕府の重要財源となる土倉役などを負担。対明貿易にも投資したが,徳政一揆の目標となった。

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世界大百科事典(旧版)内の土倉の言及

【合銭】より

…室町時代,おもに金融業者である土倉・酒屋などが,諸人から借り集めた銭。業者はその銭をさらに高利で他に貸し付け利ざやを収めるなど,営業回転資金としていたのであろう。…

【京都[市]】より

…市街に釘貫(くぎぬき)といって,町の入口に木戸を構えることが,鎌倉前期には確認されるが,これは都市民の間に共同体的な関係が成長していたことを物語っている。商工業者の成長も著しく,なかでも〈山門気風の土倉(どそう)〉といわれる,比叡山延暦寺の管轄する法体の土倉が高利貸業者として活躍した。土倉は室町時代には幕府の財政を支える重要な存在となる。…

【禁裏御倉】より

…中世,禁裏の金銭・年貢米などの出納,御物保管,必要金の用立て,酒饌の進献などを行った御用の土倉(どそう)のことで,上下二つの土倉が任命された。名義は近世にも残り,明治維新まで及んでいる。…

【倉∥蔵】より

…また,柱に太い溝を彫り,上から厚い板を落とし込み,上部を桁で固める〈落し造り〉の板倉も,関西地方から中部・関東地方の山間部の農家でよく使われていた。
[塗籠]
 室町時代の京都では,質屋や金貸しを業務とした土倉(どそう)が数多くあったことが知られている。しかし,室町時代末期の《洛中洛外図屛風》に描かれた京都の町家を見ると,板葺き屋根の粗末な建物ばかりで倉らしい建物はまったく見当たらない。…

【倉役】より

…〈蔵役〉〈土倉役〉〈土倉懸銭〉などともいう。中世,朝廷,幕府,寺社,大名,自治都市などが,金融業者である土倉(どそう)に課した税。…

【商人】より

…近江の湖東では,応仁・文明時代ごろを境にして,仕入れ,運送と市の小売は分化し,前者に従事する問屋的商人は商品流通路の独占を主張するに至っている。 商人にはそのほか,借上(かしあげ),土倉などの金融業者や酒屋などが力をもっていた。京都には土倉,酒屋それぞれ300~400に及んでおり,室町幕府の財源となった。…

【清酒】より

… 民間での酒造も古くから行われていたようで,《万葉集》巻十六には能登の熊来(くまき)酒屋の名が見え,《続日本紀》には761年当時すでに居酒屋風の店のあったことが記録されている。鎌倉時代,京都には藤原定家が〈員数を知らず〉としたほどの土倉があり,その大半は酒屋であった。鎌倉では1252年(建長4),幕府が酒の販売を禁じて醸造量を調査したさい,民家には3万7274壺の酒が保有されていた。…

【納銭方】より

…室町幕府がその支配下にある酒屋土倉(どそう)より役銭を徴収するために設けた機関。室町幕府が洛中洛外の酒屋・土倉を一元的に支配するようになったのは1393年(明徳4)と考えられている。…

【利子】より

…平安期の終りに出現した専業の高利貸資本は,借上(かしあげ)と称して〈田地をもって質となし,あるいは数倍を限って契を成す〉といわれるように,質物を取り,数倍にもなる利子を徴していた。このような高利貸業者は鎌倉中期ころから土倉(どそう)と呼ばれるようになり,京都の土倉は室町期には大部分が山門の支配下にあった。1526年(大永6)の室町幕府法によれば,利平が加えられる借銭には徳政令が適用され,利平のつかない借銭には徳政令が適用されない。…

※「土倉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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