( 1 )汚穢・罪障・厄災などを取り除くために行なう儀礼を「はらえ」というが、「みそぎ」はその中でも特に川や海の水につかって行なうもの。記紀神話の中で、イザナギが亡き妻イザナミを黄泉の国に訪ねたが、汚いものを見てしまい、そこから逃げ帰ったあと、筑紫の日向で行なったのが「みそぎ」の最初という。
( 2 )中古には、年中行事のうち、特に六月晦日に行なわれる「夏越(なごし)の禊」(夏越の祓え)と強く結びつき、和歌にもよく詠まれている。
( 3 )中世以降、真言宗や修験道で修行的な要素が加わったものが「水垢離(みずごり)」と称されて広まった。
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川や海の清い水につかり身体を洗い滌(そそ)ぎ、ツミやケガレを祓(はら)い清めること。「祓(はらえ)」の一種。「禊祓(みそぎはらえ)」ともいう。語源説としては、水滌(みずそそ)ぎあるいは身清(みすす)ぎの意であるとするほか、ツミ・ケガレを身体から取り去る身削(みそ)ぎの意と解する説もある。記紀神話に、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が神避(さか)りました妻の伊弉冉(いざなみ)尊を黄泉(よみ)国に訪ねたのち、その身体についた汚穢(おえ)を祓い清めるために、筑紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小戸(おど)の檍原(あわぎはら)に出(い)でまして禊祓をされたとあるのに始まるとされ、そのおりに生成した日神(なおびのかみ)、また祓戸(はらえど)神の神威により、禍津日(まがつひ)神の所為であるツミ、ケガレ、トガ、ワザワイが消除されると信じられる。『万葉集』はもとより平安以降の和歌集にも多く禊を詠んだ和歌があり、「風そよぐ楢(なら)の小川の夕暮はみそぎぞ夏のしるしなりける」(新勅撰(ちょくせん)和歌集)、「六月(みなつき)の名越(なごし)の祓へする人は千年(ちとせ)の命延ぶといふなり」(拾遺(しゅうい)集)といった和歌に代表されるように六月大祓の名越祓としての禊が広く行われた。また中世以降は水垢離(みずごり)などとも称し、修行的な要素も加わり、精神的な清浄も重視された。とくに神祇祭祀(じんぎさいし)に関しては潔斎(けっさい)の重要な行事として厳修されるが、「手水(てみず)」はその簡略化された形式といえる。近世以後、神道(しんとう)の修錬行法ともなり、明治の神道家川面凡児(かわづらぼんじ)はこれを実践提唱した。この改良形式の禊が今日も神職の錬成行事として行われる。
[佐野和史]
水浴して身体を清める宗教儀礼。神道では〈禊祓(みそぎはらい)〉といって身心の罪や穢れを水で洗い清める祓,すなわち浄化の所作とする。神事に当たって物忌のあと積極的に身心を聖化する手段の一つだが,服喪など異常な忌の状態から正常な日常へ立ち戻る一種の再生儀礼(生まれ清まり)でもある。古代中国では,《後漢書》礼儀志や《晋書》礼志にみえるように,〈春禊〉と〈秋禊〉とがあって,陰暦3月3日(古くは上巳)と7月14日に官民こぞって東方の流水に浴して〈宿垢〉を去ったという。《魏志倭人伝》にも,倭人は十余日の服喪の後に遺族が〈沐浴〉すると伝えている。神道では,禊祓の起源を記紀神話におけるイザナキノミコトの黄泉返(よみがえり)の条に求める。すなわち,妻のイザナミを黄泉(よみ)の国(死者の世界)に訪問して危うく逃げ帰り,身に着いた死の穢悪を清めるために日向(ひむか)の河水で水浴し,しかもそれによってイザナキはアマテラス,ツクヨミ,スサノオの三貴神を生んだとされる。平安時代以降はもっぱら穢れを祓除する意味が強まり,密教系の垢離(こり)の観念にも習合して水垢離,浜垢離,寒垢離,滝行,水行などの修行形式に発展した。中世から近世にかけて修験道や社家神道でその行法を各地の祭礼神事に広め,幕末の神道家井上正鉄(まさかね)は伯家(はつけ)神道の禊法を採用して後の禊教の基をひらいた。
執筆者:薗田 稔
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禊祓(みそぎはらえ)とも。明浄を尊ぶ神道にあって,心身の罪や穢(けがれ)をはらう方法で,清浄な海川におりて水で身をすすぎ清める行事。一般に神に祈って罪穢や災厄を取りのぞく神事を祓といい,禊はそのなかで最も主要な方法。記紀神話には,イザナキが黄泉国(よみのくに)でふれた穢を洗い清めるために行ったのが始まりと語られる。古来,場所の選定や採物(とりもの)の種類などについての作法があった。一方,祓は直接水には入らないものの,古代の七瀬(ななせ)の祓の際に各地の川がその場所として選ばれ,形代(かたしろ)に天皇の穢を移したあとに流す作法が行われたように,水はきわめて重視される。(水)垢離(こり)というのも禊の簡略化された方法である。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…ほかに神祇令や喪葬令を見ると,やはり人畜の死と出産に伴う穢を忌む期間が規定されている点は,穢が罪とちがって生命的異常にかかわる事象であることを示している。浄化の儀礼的手段にしても罪は祓除すなわち祓(はらい)として一種の贖い(贖物(あがもの))によるが,穢は一定期間の非日常的な謹慎のあと禊(みそぎ)すなわち水浴による清めを要する。罪と穢は共同体の日常的安定に災いをもたらす原因としても忌避されるが,とくにハレ(晴)の行事すなわち非日常的な神事にあたっては普段にも増して聖浄な状況を要するため,斎戒において罪穢は一体となって禊祓の対象となる。…
… 日本には古来,人間による悪行とともに穢(けが)れや禍(わざわい)などをも含めた神道的な罪の観念があった。すなわち農耕を妨害して神祭りを冒瀆する天津罪(あまつつみ)や社会秩序を破壊する国津罪(くにつつみ)は前者の悪行に属するが(天津罪・国津罪),同時に死や病気,けがや出産の穢れ,天変地異など人間生活を脅かすものも罪であるとし,それらを除去して正常な状態にひきもどすためいろいろな祓(はらい)や禊(みそぎ)が必要であるとされた。日本の場合,罪は祓や禊によって容易に除去されるという意識が強く働き,先の浄土教的な罪業意識は深くは浸透しなかったといえよう。…
※「禊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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