超越(読み)チョウエツ(その他表記)transcendence

翻訳|transcendence

デジタル大辞泉 「超越」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐えつ〔テウヱツ〕【超越】

[名](スル)
普通に考えられる程度をはるかにこえていること。ずばぬけていること。「人間の能力を超越した技術」
ある限界や枠をはるかにこえていること。また、その物事からかけ離れた境地にあって、問題にしないこと。「時代を超越した作品」「世俗超越する」
《〈ドイツTranszendenz哲学で、
㋐人間一般の経験や認識の範囲(次元)外にこえ出ていること。
カント哲学では、あらゆる可能的経験をこえた、超感性的なものについての認識を超越的といい、超越論的(先験的)と区別した。超絶。
現象学では、意識内在に対し、自然的態度に付着する意識超越をいう。
順序をとびこえて高い地位につくこと。とびこすこと。ちょうおつ。
「数のほかの四の宮に―せられ」〈保元・上〉
[類語]超凡非凡上回る超える超す過ぎる追い越す追い抜くはみ出す凌ぐ行き過ぎる超過する突破凌駕過剰オーバー

ちょう‐おつ〔テウヲツ〕【超越】

ちょうえつ(超越)4」に同じ。
「次男宗盛中納言にておはせしが、数輩の上﨟を―して」〈平家・一〉

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精選版 日本国語大辞典 「超越」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐えつテウヱツ【超越】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 他のもの、また標準をはるかにこえてまさること。ぬきんでること。超絶。
    1. [初出の実例]「清行才名超越於時輩」(出典:江談抄(1111頃)五)
    2. 「若し全屋を権衡して較べるときは、其重量は迥(はる)かに超越すべしと云」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一)
    3. [その他の文献]〔石崇‐大雅吟〕
  3. とびこえること。順序をとび越えて高い境地や位につくこと。ちょうおつ。
    1. [初出の実例]「則不経三僧祇、父母所生身、超越十地位、速証入心仏」(出典:性霊集‐九(1079)奉勧諸有縁衆応奉写秘密蔵法文)
  4. ある生活態度や考え方などから脱して、より高い立場にあること。超絶。
    1. [初出の実例]「齷齪たる塵事を超越(テウヱツ)するんだ」(出典:二百十日(1906)〈夏目漱石〉三)
  5. ( [ドイツ語] Transzendenz の訳語 ) 哲学で、一般に制限や不完全さ、理解や自然などからはるかにぬきんでていること。スコラ哲学で、アリストテレスの範疇にはいらない存在、善、神といった概念のあり方。カント哲学で、超感性的なものがわれわれの経験から独立であること。実存哲学で、無自覚な日常的存在の立場から哲学的自覚の立場へ超えて進むこと。超絶。⇔内在

ちょう‐おつテウヲツ【超越】

  1. 〘 名詞 〙ちょうえつ(超越)色葉字類抄(1177‐81)〕
    1. [初出の実例]「次男宗盛中納言にておはせしが、数輩の上臈を超越(テウヲツ)して」(出典:高野本平家(13C前)一)

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改訂新版 世界大百科事典 「超越」の意味・わかりやすい解説

超越 (ちょうえつ)
transcendence

もろもろの類genusを超え出るものを意味する,中世スコラ哲学・神学の重要な概念。ふつう〈一unum〉〈真verum〉〈善bonum〉などが〈超越(するもの)transcendens,transcendentia〉と呼ばれ,〈ものres〉〈或(あ)るものaliquid〉〈美pulchrum〉などが加えられることもある。超越理論の歴史は〈在るもの〉と〈一〉とをめぐるアリストテレスの形而上学的思索にまでさかのぼり,新プラトン主義哲学,およびその影響を受けたキリスト教およびイスラムの思想家たちによって発展させられたが,その体系的解明は13世紀において,とりわけトマス・アクイナスによって成就された。トマスによると,超越あるいは〈超越的名称nomina transcendentia〉とは,すべての〈在るものens〉にともなう特性もしくはそのあり方をさす。それら特性は〈在るもの〉という言葉が用いられるときにはつねに含意されているが,〈在るもの〉と言っただけでは明示的に言いあらわされてはいない。そこで,すべての〈在るもの〉が,まさに〈在るもの〉としてふくむ特性を明確に示し,〈在るもの〉の豊かさ,完全性を明らかにすることが超越理論の課題である。〈一〉〈真〉〈善〉〈美〉などの超越的特性は,第一原因あるいは存在そのものである神からすべての〈在るもの〉へと,いわば流入する完全性とみなされるところから,それらは始原である神を名付けるのにもっともふさわしい名称とされ,トマスにおいては超越理論は神名論として展開された。

 現代カトリック神学においては,すべての経験の成立根拠である根源的経験を超越的経験としてとらえ,この立場からスコラ的超越理論を再解釈し,活性化しようとする試みが見られる。またプロテスタント神学においても,中世的な形而上学的超越,近代的な主体的ないし実存的超越に対して,現代においては歴史への強い関心にともなって,終末論的超越の観点から,キリスト教的な人間および神理解を推進しなければならないとする立場が見いだされる。
執筆者:

近・現代の哲学における超越概念はきわめて多義的であるが,ほぼ次の四つに整理しうる。

(1)認識論的超越概念 近代の認識論においては主観の意識に内在する表象・観念に対して,意識を超えてその外にある対象が〈超越的〉とよばれる。内在的観念がいかにしてその超越的対象に適合しうるかが認識論の中心問題だったのである。したがって,ここでは超越とは主観-客観の認識関係にほかならない。カントが対象の認識を成立せしめるア・プリオリな認識を〈超越論的transzendental〉とよんだのは,それが主観-客観の超越関係を可能にするものだからである。

(2)神学的超越概念 神学においては,有限な偶然的存在を超え出た必然的存在者つまり神を〈超越者〉とよぶ。そこから転じて,信仰によって世俗的生活を脱却し超越者に直面せんとすることや,さらにはヤスパースサルトル実存主義においてのように,人間がおのれの無自覚な惰性的存在を脱して,決断と選択の絶対的自由をもつ主体的実存へ飛躍することが〈超越〉とよばれるようになった。しかし,超越の上記の二つの意味はしばしば混同され,またもつれ合ってきた。たとえばカントにあっても,主観の〈外〉にあり,その意味で主観を超越しているものといわれるとき,単なる認識の対象が考えられていることもあれば,人間認識には近づきえない〈物自体〉が考えられていることもあり,むしろそのもつれ合いが彼の哲学的思索の原動力となったとさえ考えられるくらいである。

(3)現象学的超越概念 現象学の創唱者フッサールもある時期から,言葉だけはカントに学んで〈超越論的〉という概念を使う。この場合は,客観的世界の存在を無条件に想定する自然的態度を中断し,おのれ自身の意識体験をもはや世界の内部で(たとえば物理的刺激によってひき起こされるような事実的できごととして)見ることをやめ,すべての存在者がそこに現れ,その現れ方によってはじめてその存在意味を確立されることになるような根源的場面として,つまりもはや世界内部の経験的事実ではないという意味で〈純粋〉な意識として見る立場・態度が超越論的とよばれるのである。したがってここでは,おのれが世界のうちに生きていると信ずる自然的態度に対して,それを超え出た態度が超越論的態度なのである。

(4)存在論的超越概念 ハイデッガーにあっては,人間存在の存在構造がそのまま〈超越〉とよばれる。彼の考えでは,人間は他の動物のようにそのつど出会う対象にかかりきりになるのではなく,それらからいわば身を引きはなして,すべてのものをまず〈在るもの〉として,〈存在者〉として見ることができる。〈存在者を存在者として(それが存在するという点に関して)〉見ることができるところに人間の人間たるゆえんがあるのである。そのようにそのつど出会う個々の対象を超え出て,すべての存在者が現れ出てくる場面(世界)を開いている人間のその在り方を,彼は超越とよぶのである。個々の存在者を世界へ向かって超越しているその在り方を,ハイデッガーは〈世界内存在〉ともよんでいる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「超越」の意味・わかりやすい解説

超越
ちょうえつ
transcendence 英語
transcendence フランス語
Transzendenz ドイツ語

超越とは、ある領域を超え出ること、または超え出ていることで、当の領域内にとどまる「内在」に対立する。また超え出た先の領域に存在するものも、超越もしくは超越者とよばれるが、その内容は超え出られる領域がどのような領域であるかによって種々異なる。

 キリスト教では、神は世界から超越した超越神であって、世界の外にあって無から世界を創造し、それを維持していく超越因と考えられる(これに反してスピノザなどの汎神(はんしん)論では、神は世界のなかにあって世界を規制する内在因である)。さらにキリスト教では、信仰の領域は人間の知力の及ぶ合理的認識の領域を超えるものとされ、そこから、たとえばグノーシス派は、超越的な神を認識するのに、合理的知識とは異なる神秘的な知識、すなわちグノーシスの必要を説いた。

 また、超え出られる領域が感覚を通じて現れる現象界である場合は、感覚によってはとらえられず、ただ理性によってのみ知られる世界が超越界であって、たとえばプラトンのイデア界がそれにあたる。

 近世に入ると、人間の意識を基準として意識内の内在と意識外の超越とが区別されるが、その際意識の外に超越するものを認めないですべてを意識内の表象に還元するのが内在主義で、その極端な形式が唯我(ゆいが)論的な観念論である。他方、意識外の超越を認めて意識からの対象の独立を説くのが、素朴実在論に始まる各種の実在論で、唯物論もこの系列に属する。

[宇都宮芳明]

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普及版 字通 「超越」の読み・字形・画数・意味

【超越】ちようえつ(てうゑつ)

遠くこえる。晋・干宝〔晋紀総論〕大は其のを極め、小は其のす。事の失、十に恆(つね)に、九。世族貴戚の子弟、陵(りようまい)超越して、(本来の順序)に拘(かか)はらず。

字通「超」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「超越」の意味・わかりやすい解説

超越
ちょうえつ
transcendence; Transzendenz

内在に対する哲学,神学用語。神が現実世界をこえてその外にあるとか,対象が人間の意識の外に,あるいは意識と独立に存在すると考える場合などがその例。ラテン語 transcendensは元来スコラ哲学における用語で,アリストテレスの 10範疇のなかに包摂されない存在の属性をいう。カントでは可能的経験をこえるものをいった。現代実存哲学では,人間が日常的現実を乗越えてゆくことに本来の人間のあり方をみ,これを「超越する」といった。

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世界大百科事典(旧版)内の超越の言及

【カトリシズム】より

… だがカトリシズムの〈カトリック性〉は思想内容を指示する言葉として理解することも可能である。それは,日常的経験,科学的探求,神秘的観想,神的啓示など,いかなる経路,方法を通じて到達されたものであろうと,およそすべての真理にたいしてみずからを根元的に開こうとする態度を核心とするところの思想であり,一言でいえば〈超越〉の思想である。〈神の死〉を自明の前提とする〈内在主義〉――唯物論,観念論,進化論,自然主義の諸形態をふくめて――が人間を最高の存在へたかめるのにたいして,カトリシズムは人間が〈創られたもの〉〈神のかたどり〉であることの自覚から出発し,そこに人間の卑小と偉大,悲惨と栄光を読みとる。…

※「超越」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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