デジタル大辞泉 「パース」の意味・読み・例文・類語
パース(Perth)
オーストラリア南西部、西オーストラリア州の鉱工業都市。同州の州都。スワン川下流部に位置する。商工業・文化・交通の中心。1829年に自由移民による入植が始まり、1890年代のゴールドラッシュと1960年代以降の同州における地下資源開発により発展。人口、行政区160万(2008)。
アメリカの自然科学者,論理学者,哲学者。プラグマティズムの始祖で,現代記号学(記号に関する一般理論)の創設者のひとり。また記号論理学,数学基礎論,および科学方法論の現代的発展における先駆者のひとりでもあり,〈合衆国が生んだ最も多才で,最も深遠な,そして最も独創的な哲学者〉と言われる。
マサチューセッツ州のケンブリッジに生まれ,父親ベンジャミン・パースBenjamin P.(1809-80,ハーバード大学の数学と自然哲学の教授で,当時のアメリカにおける最大の数学者)の下で特別の家庭教育を受け,ハーバード大学に学んだ。期待どおりに数学,物理学,論理学,科学哲学などの多領域で頭角を現し,大いに将来を嘱望されていたが,その偏屈な性格と離婚問題などに加えて,当時のアメリカの学界はまだ論理学の研究に関心がなかったために,大学に定職を得ることができなかった。1887年にはペンシルベニア州の山村ミルフォードに隠遁,91年には61年以来勤めてきた合衆国沿岸測量部の技師もやめ,晩年は貧困と孤独と病苦のなかで過ごした。隠遁生活のゆえに学界からも遠ざかってまったく無名の人となり,死後も長い間世に埋もれてきた不遇の人である。しかし1931-35年に遺稿が大半を占める《チャールズ・サンダーズ・パース論文集》全6巻(1958年にさらに2巻が加えられて,現在は全8巻)が出版され,そのうえ30年代の半ばころからアメリカの哲学界を風靡(ふうび)した外来の論理実証主義,分析哲学の影響の下で特に形式論理学の研究,数学および経験科学の基礎論的研究などが盛んになるにつれて,それらの分野の最もすぐれた先駆者のひとりであったパースの存在がとりわけ注目されるようになった。爾来パース哲学への関心がひじょうに高まって,その影響はいまや論理学,科学哲学,科学史研究,記号学,現象学,言語学,文学理論などの多領域に及んでいる。
パースはきわめて多面的な哲学者で,その思想はとても一つのイズムには収まらない。一般にはプラグマティストとして知られているが,しかしプラグマティズム(彼は1905年にプラグマティズムをより厳密に再定式化し,W. ジェームズらのそれと区別して,〈プラグマティシズムpragmaticism〉と改名)はパース哲学の重要ではあるがその一部分を占めるにすぎず,全体系を意味するものではない。パースは彼の〈諸科学の分類〉において哲学の構想と体系を示しているが,それによると,彼は厳密な科学的哲学を体系立てようと企図していることがわかる。そしてその科学的哲学は現象学,規範科学(美学,倫理学,論理学を含む),形而上学(存在論,宗教的形而上学,物理的形而上学を含む)の3部門から成る。パースはこの体系を完成することはできなかったが,その厳密な基礎学となるべき〈現象学〉を創設し,さらに,その現象学の原理--パースは〈第一性〉〈第二性〉〈第三性〉と呼ばれる三つの普遍的現象学的カテゴリーを導き出している--に基づいて緻密な記号の分類を行いつつ,きわめて独創的・包括的な記号理論(記号学)を創設した。論理学においても三つのカテゴリーにしたがって論証を〈演繹(えんえき)〉〈帰納〉〈アブダクションabduction〉の三つのタイプに分け,それぞれの論理について多くの著述を残している。形而上学では普遍的一般的法則的なもの(現象学的には〈第三性〉と呼ばれる存在の様式)の実在を主張する独自のスコラ的実在論の立場に立って,それをプラグマティズムの形而上学的前提とし,さらにその立場から形而上学の諸問題を論じている。現在の《論文集》はほぼこの体系にしたがって編集されているが,完全なものではなく,未編集の遺稿はまだかなり残っている。しかし《論文集》で見るかぎりでも,パース哲学は多面的かつ広大な独創的思想の宝庫である。
→プラグマティズム
執筆者:米盛 裕二
オーストラリア南西部,ウェスタン・オーストラリア州の州都。人口148万(2005)で,この国第4位。州の南西部,ダーリング山脈を背後にし,インド洋に面したスワン川河口付近に位置する。平均気温は最暖月(2月)23.9℃,最寒月(7月)13.1℃,年降水量は889mm。市街地は都心部のあるパース市をはじめ23の地方自治体にまたがって広がる。ウェスタン・オーストラリア大学(1913創立),マードック大学(1974創立)がある。国際空港をもち,国内主要都市やシンガポールなど海外各地に連絡する。市街地西部,スワン川河口のフリマントルFremantleは港湾・工業地区で,州の輸入量の大半を取り扱う。その南のクウィナナKwinana地区は製鉄,アルミ精錬,石油精製などの重化学工業地帯である。1829年自由入植地として開基,流刑者導入期(1850-68)を経て,90年代のゴールドラッシュや1960年代以降の鉱産資源開発を背景に急成長してきた。名称はイギリス植民地相の出身地名に由来する。
執筆者:谷内 達
イギリス,スコットランド中東部,テイサイド州(旧,パースシャー)にある工業都市。ローマ時代はウィクトリア,その後はセント・ジョンズタウンと呼ばれたが,17世紀から現地名となった。人口4万1998(1981)。テイ川下流西岸で,ハイランドとローランドの間の戦略的位置を占めるため,1452年までスコットランドの首都となった。現在は牛市が開かれるほか,染色,羊毛,リネンなどの工業が盛んである。1106年に自治都市となり,議会がたびたび開催されたが,1437年にスコットランド王ジェームズ1世がこの地で殺されたのち,首都はエジンバラへ移った。15世紀のセント・ジョン教会が古都の面影を残している。W.スコットの《パースの美少女》(1828)は1396年に起こった氏族間の争いをテーマとしている。
執筆者:長谷川 孝治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカの哲学者、論理学者。プラグマティズムの創唱者として哲学史のなかで特異な位置を占める。ハーバード大学数学教授の子として生まれ、同大学卒業後、一時、同大学で科学哲学を講じたが、その後合衆国沿岸測量部の技師として技術面で貢献するかたわら、哲学および論理学に関する論文を次々に発表した。しかしそのあまりにも先駆的な業績のゆえに、広く学界に注目されるようになったのは、1930年になって全集(全8巻、1958年完結)が出版されるようになってからである。W・ジェームズや、ジェームズの死後はジェームズ夫人の援助を受けるなどして不遇のうちに死を迎えた。
彼によれば、観念の意味は「その観念の意味が真であることから必然的に帰結すると考えられる実際的な結果」にある。たとえば「重さ」という観念の意味は、その観念が適用される対象の支えをとればその対象は落下するということである。こうした実際的な結果を考えることのできない観念は、無意味な観念として哲学上の議論から追放されなければならない。1878年に公表されたこの主張は、すべての思考過程を行為およびその結果との関連においてとらえるプラグマティズムの起点をなす。それはそれぞれ独自の形ではあるが、W・ジェームズ、J・デューイ、G・H・ミードなどに受け継がれ、さらに1950年代にはホワイトMorton White(1917―2016)、W・V・O・クワインによって「ネオ・プラグマティズム」として新たな展開をみた。また科学的探究方法に関する考察もパースの業績の一つに数えられる。すなわち、科学的認識は仮説形成(発想)、演繹(えんえき)、帰納という3段階を繰り返したどることによって展開するとされ、真理とは究極においてすべての探究者が一致するように運命づけられている意見にほかならないとされる。
[魚津郁夫 2015年10月20日]
『上山春平著『弁証法の系譜』(1963・未来社/こぶし文庫)』▽『R・J・バーンシュタイン編、岡田雅勝訳『パースの世界』(1978・木鐸社)』
オーストラリア西部、ウェスタン・オーストラリア州の州都。面積5386平方キロメートル、人口133万9993(2001)で人口は同国第4位の都市。同州南西部、ダーリング山脈を背後にしてインド洋に面したスワン川河口付近に位置する。地中海式気候(Cs)で、平均気温は最暖月(2月)24.9℃、最寒月(7月)13.1℃、年降水量は745ミリメートル。市街地は23の地方自治体にまたがる。この市街地にクイナナなど周辺の都市を加えたパース都市圏の人口は同州の7割余りを占め、州都として政治、経済、文化の機能が集中する。クイナナの重化学工業を中心に、工業の雇用者数、生産額はともに州の8割前後を占める。ウェスタン・オーストラリア大学(1913創立)、マードック大学(1974創立)がある。国際空港があり、国内主要都市やシンガポールはじめ海外各地と連絡している。また、大陸横断鉄道西端の地で、道路も集中する交通の要衝。
都心部にあたる狭義のパース市は河口から約20キロメートル上流のスワン川北岸に位置し、とくにセント・ジョージ・テラス通りに官庁、企業のオフィスが集中する。河口のフリマントルはその南のクイナナとともに港湾・工業地区で、ウェスタン・オーストラリア州輸入量の約8割を取り扱う。
1829年自由入植地とされ、流刑者導入期(1850~68)を経て、1890年代の金鉱ブームや1960年代以降の鉱産資源開発により急成長した。名称は入植当時のイギリス植民地大臣の出身地であるスコットランドのパースシャー(旧県)に由来する。
[谷内 達]
イギリス、スコットランド中東部の都市。エジンバラの北約50キロメートル、テー川下流右岸にある。人口4万1100(2002推計)。パースシャー・アンド・キンロス県の県都。1210年獅子(しし)王ウィリアム1世(スコットランド王、在位1165~1214)により勅許自治都市となり、1452年までスコットランドの首都であった。1437年にジェームズ1世が当地で殺されたのち16世紀にかけて、エジンバラがしだいに首都とみなされるようになる。市はハイランドの南縁にあり、グランピアン山脈や多くの湖沼など、観光資源に恵まれる。ハイランド牛の市(いち)が立ち、染色、亜麻(あま)・羊毛、ウイスキー蒸留などの工業がある。近郊のスクーンSconeは9世紀のスコットランド連合王国最初の首都で、地方貴族の宮殿がある。
[米田 巌]
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…この立場に立つがゆえに,また,ジェームズの哲学は著しく個人主義的,唯名論的にならざるをえない。プラグマティズムにおいてジェームズがたとえばC.S.パースの場合とひじょうに違うのも,パースが,(一定の条件さえ満たせば)いつでもだれでも確かめられる客観的実験的結果を重視し,それに基づく科学的信念の固め方としてプラグマティズムの方法を考えたのに対して,ジェームズは人間ひとりひとりの具体的意志の行使を重視し,そしてプラグマティズムの意味基準を〈だれかの上に,なんらかの仕方で,どこかで,あるとき生ずる〉結果に見いだそうとするからである。そのほかジェームズの哲学を顕著に特色づけている実践主義,具体的経験主義,反主知主義,反形式主義なども,あるいは彼の哲学的関心が特に宗教の問題に向けられていることも,すべて〈信ずる意志〉の思想に拠っていると言える。…
…そして,社会の歴史的発展法則に基づく革命的実践の意義を強調するとともに,実践によって理論が生まれ,理論によって実践が修正補強される〈理論と実践の統一〉を明確にした。 一方,19世紀後半のアメリカでは,C.S.パースが,カントの実践の二分法に触発されて,形而上学を排して真に科学的に思考する哲学的立場を探求して,それをプラグマティズムと呼んだ。〈プラグマティックpragmatic〉という語は,ギリシア語の〈プラグマpragma〉(活動,実際になすべきこと),その形容詞〈プラグマティコスpragmatikos〉に由来するが,パースは,概念の意味を,思弁ではなくそれが行動に現れる実際的結果によってとらえ,理論をつねに実践(実験)によって検証すべきことを主張した。…
…概念はすべて何らかの操作によって定義されねばならない,という主張。この種の主張はもともとプラグマティズムの始祖C.S.パースにあった。彼によれば,ある物体が重いということは,何らかの実体的な性質ではなく,ただ,反対の力がなければその物体は落下する,ということを意味するだけなのである。…
…プラグマティズムは哲学へのアメリカの最も大きな貢献であり,実存主義,マルクス主義,分析哲学などと並んで現代哲学の主流の一つである。プラグマティズムを代表する思想家にはC.S.パース,W.ジェームズ,J.デューイ,G.H.ミード,F.C.S.シラー,C.I.ルイス,C.W.モリスらがいる。プラグマティズム運動は〈アメリカ哲学の黄金時代〉(1870年代~1930年代)の主導的哲学運動で,特に20世紀の最初の4分の1世紀間は全盛をきわめ,アメリカの思想界全体を風靡(ふうび)するとともに,広く世界の哲学思想に大きな影響を与えた。…
…すなわち,情報理論の創始者であるC.E.シャノンはこの意味を〈翻訳の際の不変体〉と規定し,この規定がヤコブソンや文化記号論研究者たちによって取り入れられたのである。同様の考えはすでにC.S.パースやバフチンによっても述べられていた。パースによれば,記号の意味とは,その記号をより詳しく展開する別の記号への翻訳なのである。…
※「パース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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