一所懸命(読み)いっしょけんめい

精選版 日本国語大辞典 「一所懸命」の意味・読み・例文・類語

いっしょ‐けんめい【一所懸命】

〘名〙
中世生活の頼みとして、命をかけて所領を守ろうとすること。また、その所領。→一所懸命の地
古事談(1212‐15頃)一「彼は只一所懸命之由聞食之
読本・椿説弓張月(1807‐11)残「彼西東の子どもに、一所懸命(イッショケンメイ)荘園を宛行(あておこなは)れたり」
② (形動) 生死をかけるような、さし迫った事態。命がけのこと。また、そのさま。必死一生懸命
※仮名草子・智恵鑑(1660)一「一所懸命(いっショケンメイ)の大事出来けるにより、夜中ひそかに禁中へしのびいらせ」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉五「狐は、一所懸命に走りて、忽ち定めの場所に達し」
[語誌]中世には「一所」は「同じ場所」「ひとつの場所」の意で、場所の観念がみられるが、近世以降になるとその観念は薄まり、「一所」と表記されても「一緒」の意味をもつようになる。それと平行して「一所懸命」も「いのちがけの」あるいは「必死な気持」の意だけが残り、②の意味が派生する。この変化に伴い、場所・所領の観念が忘れられて「いっしょうけんめい(一生懸命)」へと語形変化したものと考えられる。→「一生懸命」の語誌

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デジタル大辞泉 「一所懸命」の意味・読み・例文・類語

いっしょ‐けんめい【一所懸命】

[名・形動]
中世、1か所の領地を命をかけて生活の頼みにすること。また、その領地。「一所懸命の地」
命がけで物事をすること。また、そのさま。必死。一生懸命いっしょうけんめい
「もっと―な、はげしく意識した技法なのであり」〈小林秀雄雪舟
[類語]懸命命懸け必死死に物狂い捨て身大わらわ躍起決死不惜身命ふしゃくしんみょう大車輪八面六臂一生懸命全力総力死力渾身入魂全身全霊

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四字熟語を知る辞典 「一所懸命」の解説

一所懸命

生死をかけるような、さし迫った事態。命がけのこと。また、その様子。必死。一生懸命。

[活用] ―な・―に。

[使用例] 十時に近いというのに、パッチリあいた眼で、どこかを仰いでいる。それも、ただ上部の明るさに見とれているのではなく、一所懸命さをめたまなざしである[永井龍男*一個|1959]

[使用例] ああ、何と、その小僧さんは一所懸命に働き、一所懸命に怒り、一所懸命に生きていることだろうか[武田泰淳快楽|1960]

[解説] もとは、中世の武士階級が生活の頼みとして、命をかけて所領を守ろうとすること。

[類語] 一生懸命

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旺文社日本史事典 三訂版 「一所懸命」の解説

一所懸命
いっしょけんめい

中世の武士が,一か所の領地に命をかけること
「一生懸命」は,これから転じて用いられた言葉

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世界大百科事典(旧版)内の一所懸命の言及

【本領】より

…幕府法における本領とは,御家人が先祖以来伝領してきた固有の所領をいい,将軍家への奉公によって恩給された〈御恩地〉とは区別された。この本領は平安時代このかた,在地領主がみずから〈私功〉を加えて開発した所領田畠を起源とし,譲状(ゆずりじよう),手継文書(てつぎもんじよ)によって代々相伝され,勧農,収納など所務沙汰(しよむさた)を行い,他の妨げなく知行を全うしてきた〈一所懸命〉の地であって,同じく《沙汰未練書》が,〈御家人とは往昔以来,開発領主として武家御下文を賜る人の事なり〉といっているように,武士は鎌倉殿の本領安堵をうけて御家人となった。本領の構造は,領主屋敷(本宅),敷地,門田畠(もんでんぱく)((つくだ))を中心とし,開発に由来する名田畠(みようでんばく)(別名(べちみよう)),郷・保・村の所領所職(しよしき),社寺の諸職等から成り,そこに配置された一族,家人(けにん),所従(しよじゆう),下人(げにん),在家(ざいけ)などの人的結合を通じて,領主の〈家〉の支配が直接に及んでいた。…

※「一所懸命」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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