一文字(読み)イチモンジ

デジタル大辞泉 「一文字」の意味・読み・例文・類語

いち‐もんじ【一文字】

一つ文字一字
「一」の字のように横にまっすぐなこと。真一文字。「口を一文字に結ぶ」
わき目もふらずに物事をすること。
「朋子は泥濘ぬかるみの道を―に歩いて行く」〈森田草平煤煙
よろいの背の押付おしつけの板化粧の板の高さを平均させるために入れる薄い板。
掛け軸で、書画の上下につける綾・錦などの細長い布。
演劇で、舞台上部につるす横長の木綿の黒布。上部の舞台装置の目障りになる部分を観客の目から隠すとともに、舞台面に締まりをつける。
一文字笠」の略。
錦絵などの拭暈ふきぼかしの一。細く一の字形空色、朝日などのぼかしを出す。

ひと‐もじ【一文字】

一つの文字。一字。
《もと女房詞で「ねぎ」を「き」と1音でいったところから》ねぎ別名 冬》「―の北へ枯れ臥す古葉哉/蕪村

いちもんじ【一文字】[刀工]

刀工一派。また、その作品の称。中子なかごに「一」の銘がある。一文字派

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精選版 日本国語大辞典 「一文字」の意味・読み・例文・類語

いち‐もんじ【一文字】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 一つの文字。一字。
      1. [初出の実例]「仏法の方には、一文字をも書かずして止みにけり」(出典:十訓抄(1252)六)
    2. 一という文字。
      1. [初出の実例]「一文字をだにしらぬものしが、あしは十文字にふみてぞあそぶ」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二四日)
    3. ( 多く「に」を伴って副詞的に用いる ) 一の字の形のように物の形が横にまっすぐなこと。
      1. [初出の実例]「一文字にざっとわたいて向(むか)への岸に打あがる」(出典:平家物語(13C前)九)
      2. 「口を一文字(いちモンジ)に結んだのを見ると」(出典:節操(1907)〈国木田独歩〉)
    4. ( 多く「に」を伴って副詞的に用いる。から転じたもの ) わき目もふらず物事をすること。
      1. [初出の実例]「一もんじにかけ出づる」(出典:浄瑠璃・鑓の権三重帷子(1717)下)
    5. (よろい)の背の押し付けと化粧の板の高さを平均させるために入れる薄い檜(ひのき)の板。
    6. 書画の掛け軸の表装にいう語。書画の紙帛(しはく)の上下に、横に付ける細い布。錦、綾、金襴(きんらん)などを用いる。
      1. [初出の実例]「掛字の表具は何々ぞ、紫綾のそうのへり、紫地の錦の一文字」(出典:仮名草子・尤双紙(1632)上)
    7. いちもんじがさ(一文字笠)」の略。
      1. [初出の実例]「無筆さへ知るあみ笠の一文字」(出典:俳諧・千代見草(1692))
    8. 演劇で、背景の上部や照明器具を隠すために、舞台の天井から垂れ下げる黒幕。〔モダン辞典(1930)〕
    9. 魚類の切り方の一種。魚をおろして、尾の方より横に包丁を立てて一直線に切ること。〔古今料理集(1670‐74頃)〕
    10. 備前国の一文字則宗(のりむね)派の刀工の鍛えた刀剣。また、その刀工。
    11. 拭暈(ふきぼかし)の一種。錦絵などの上部に、細く一の字形に空色、または朝日夕日などのぼかしを出す色ずり。
    12. 平たく広い釜のふた。
    13. 紋所の名。一の字にかたどったもの。鎌一文字、角一文字、白黒一文字等種々ある。
      1. [初出の実例]「其勢都合二万余騎、かたばみ、鷹の羽、一文字、十五夜の月弓一揆、引て一(ひと)りも帰さじと」(出典:太平記(14C後)三一)
    14. 大菊の一種。
    15. 牡丹の一種。
    16. 布袋(ほてい)の浮文模様のある青磁香盒(こうごう)
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 山城国京都府)宇治産の濃茶の銘。
    2. [ 二 ] 利休が銘をつけた楽焼茶碗。

ひと‐もじ【一文字】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 一つの文字。一字。
    1. [初出の実例]「ひともじをだに聞かせ給はぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
  3. (ねぎ)をいう女房詞。もと「ねぎ」を「き」と一音でいったところからいう。《 季語・冬 》 〔康頼本草(1379‐91頃)〕
    1. [初出の実例]「ひともしを刈居る関のこなたかな」(出典:俳諧・夜半叟句集(1783頃か))

いちもんじ【一文字】

  1. 刀工の一派。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「一文字」の意味・わかりやすい解説

一文字
いちもんじ

刀剣用語。備前(びぜん)国(岡山県)一文字派の刀工および作刀の総称。作刀の茎(なかご)に「一」と銘があるのでこの呼称がある。同国福岡(瀬戸内市長船(おさふね)町)の地に在住したものを福岡一文字、吉岡(岡山市東区)のものを吉岡一文字、さらに岩戸庄(しょう)(和気郡和気町)のものを岩戸一文字、備中(びっちゅう)国(岡山県)片山(総社市)の地のものを片山一文字などという。これらの一文字のうち福岡一文字派がもっとも古く、『古今銘尽』などの文献によれば始祖は仁安(にんあん)(1166~69)のころの定則(さだのり)とあるが、実物のうえからはその子則宗(のりむね)を祖とみるべきである。この派は鎌倉時代全般を通じて栄えた。

[小笠原信夫]

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百科事典マイペディア 「一文字」の意味・わかりやすい解説

一文字【いちもんじ】

舞台上部に横につった細長い黒布。天井裏や照明器具,上部につった大道具などを,観客の目につかないようにさえぎる。

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食器・調理器具がわかる辞典 「一文字」の解説

いちもんじ【一文字】

起こし金。⇒起こし金

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「一文字」の意味・わかりやすい解説

一文字
いちもんじ

大道具用語。舞台上部に一文字を引いたように吊られている細長い黒布。舞台上部の諸機構を観客の目から隠すために使用される。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「一文字」の解説

一文字 (ヒトモジ)

植物。ユリ科の多年草,園芸植物,薬用植物。アサツキの別称

一文字 (ヒトモジ)

植物。ユリ科の多年草,園芸植物,薬用植物。ネギの別称

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世界大百科事典(旧版)内の一文字の言及

【掛物】より

…またその材料は古裂(こぎれ)が多く,紙も用いられる。そして一文字(いちもんじ)と風帯(ふうたい)は共裂を使い,中回し(ちゆうまわし)と上下は材料を変えて変化をつけ,一文字の裂に最上のものを用いるのを習慣としている。裂では印金(いんきん),金襴,銀襴,緞子(どんす),紗(しや),縫取(ぬいとり),漢東(かんとん)などが喜ばれる。…

【佐伯[町]】より

…小盆地に開ける中心集落の佐伯は近世岡山藩の家老土倉氏の封地で,その陣屋が置かれ,吉井川水運の河港としても栄えた。河瀬付近の峡谷は高瀬舟航行の難所で,一文字と称する石堤が舟航安全のため築かれていた。米作主体の農業が主産業で,マツタケ,カンピョウ,コンニャクの特産がある。…

【備前物】より

…古備前派の特色は,一般に太刀姿は長寸で細身であり,刃文は直刃(すぐは)調の小乱(こみだれ)で古雅である。 鎌倉時代に入ってもこの古備前派は引き続いて活躍したが,やがて福岡(邑久郡長船町)の地に福岡一文字派が現れ,鎌倉中期まで名工が輩出した。この派は後鳥羽院の御番鍛冶である則宗を祖とし,初期では助宗,安則,成宗,尚宗,宗吉らがおり,中期では吉房,則房,助真が名高い。…

※「一文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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