神仏習合思想の一つ。真言密教の金剛界・胎蔵界の両部の理論をもって,日本の神と神の関係,神と仏の関係を位置づけた思想。両部習合神道ともいう。神仏習合思想は,日本に仏教が伝来した時点で,発生すべき必然性があった。元来,仏教には《法華経》寿量品に説く本迹(ほんじやく)思想等があり,在来の神祇信仰と,異質でしかも高度な理論をもつ仏教が接触するとき,両者の間に対立と融合がみられるのは当然で,習合理論は密教の両部曼荼羅の理論を援用することによって完成したといえる。密教には天台密教と真言密教があるが,天台密教による神道理論は山王神道または山王一実神道と称するのに対して,両部神道は真言密教側の神道理論を指すものとされている。
密教的な本地垂迹思想の発生は,天平時代の大仏造顕に際して天照大神,日輪,大日如来,盧舎那(るしやな)仏同体説が唱えられたことに萌芽が認められるとの説もあるが,習合的な信仰面の現象は比較的早くから顕著にみられる。習合理論としては,空海と最澄に比定されている著述が多いが,いずれも仮託の書であって,いわゆる両部神道理論書が成立するのは鎌倉時代に入ってからのことである。両部神道の理論書として最も古いものは1318年(文保2)成立の《三輪大明神縁起》で,西大寺の叡尊の著といわれている。叡尊は大御輪寺を中興して1285年(弘安8)に三輪寺と改めたが,これ以前から三輪流神祇灌頂が行われており,三輪神道が両部神道の中で最も古いとされている。しかし1283年成立の《沙石集》によれば,〈内宮外宮ハ両部ノ大日トコソ習伝ヘテ侍ベレ〉とか,〈内宮ハ胎蔵ノ大日〉〈外宮ハ金剛界ノ大日〉と説いているから,伊勢神道と両部神道の結合が比較的早かったことを物語っている。伊勢神道は《神道五部書》をその理論的基礎とし,後の神道理論に大きな影響を与えたが,両部神道の代表的理論書である《麗気記(れいきき)》18巻もその顕著な例である。両部神道関係の著は,〈雨宝童子啓白〉〈両宮形文深釈〉などと記され,またいずれも空海仮託という点に共通する特色があるが,中でも《麗気記》は内外両宮を胎蔵金剛両界に比定して,密教の両部の理論を援用して,外宮の地位の向上と伊勢両宮の神秘性を強調したものであり,文章上理解しがたい点が多く,外宮の下級祠官の手に成るものと推定する説もある。また,《八幡愚童訓》は,14世紀初頭に石清水八幡宮社僧の手になるものと考えられるが,密教的色彩のきわめて強い点で注目すべきものである。
両部神道の特色としては,特に《麗気記》に代表的にみられるように許可(こか),印信(いんじん),血脈(けちみやく)という密教の伝授の形式を重視していることである。両部神道思想を形成する代表的な思想である天台本覚論の研究から,両部神道を天台神道の一流とする説もあるが,《日本紀》の許可,印信をはじめとする伊勢神道の性格の最大の特色は,密教の教理と事相儀軌を多分に採り入れている点にあり,両部神道の名の起こるゆえんがあることがわかる。
執筆者:和多 秀乗
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習合神道・真言神道とも。真言密教との神仏習合説をもとに成立した神道。名称は,真言密教の世界観を表す胎蔵界曼荼羅(まんだら)・金剛界曼荼羅からなる両界曼荼羅(両部曼荼羅)により仏と神の習合の関係を示したことによる。平安時代から主張され,鎌倉時代には空海などの主張のかたちを借りて理論書が提示され,1318年(文保2)成立の「三輪大明神縁起」で神道説が説かれた。両部神道の名称は,吉田兼倶(かねとも)の「唯一神道名法要集」ではじめて使用された。近世以降,新たに提示された神道説の基本と位置づけられたが,明治期になると神仏分離政策により衰退した。
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…日本では,平安時代に入って神仏習合がさかんになり,元来明確な神格を持たなかった神々も,仏・菩薩に対比して神としての性格を論じられるようになり,素朴な儀礼も荘厳なものに発展した。中でも密教の教説による習合がさかんになり,両部神道(りようぶしんとう)と呼ばれる神道説の流れが形成され,真言系の両部神道に対抗して,天台系の山王神道が唱えられたりした。律令制度のもとで手厚い保護を受けていた古来の神社は,中世に入るころから神領を侵され,仏教が庶民の間に浸透しはじめると,強い危機感を持つようになった。…
※「両部神道」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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